第6話 リノン

 それは丘と呼ぶには小さく、民家よりは何倍か大きく、

盛られた土の上は潅木で覆われ、数本の杉も立つ、小さな墳丘。

北の阿賀川に向かって伸びる、小さな小さな小川、

夏など暑い折は染み出した水が川面に届く前に、消えてしまう程の、

小さな恵み、そこは龍司の秘密の水場。

 普段は川の北に住んでるが、寄り合いの際連れてきてもらい、

いとこ達と遊び惚ける。

暑い時期に虫、小魚、カニ等探して駆け回り、日陰で涼み、

小さな恵みで喉を潤す、それが龍神社に来た時の日課。

 そんなある日、皆で水をワイワイ飲んでいたが、龍司の番の時

水場の前に龍の顔が現れた、龍司は何となく水の恵みの元はこの龍と思われて

「冷たいお恵み、ありがとうございます」と頭を下げた。

顔お上げたとき、龍は消え、後ろを見ると三人の女の子が頭を上げたところで、

たぶん、龍司の真似をしたのだろう、それが凛と涼子だ

他の子達は気を失っており、すぐ目覚めたが龍の記憶もなく、

その後、皆は不思議に二度と水場にも近寄らなくなった。


 その懐かしい思い出を夢で見ていて、後一人は、誰だっけ?。

思い出せず悶々としながら起き上がり、寝ぼけ眼で、辺りを見回す。

リノンの姿を見て異世界に居る事を再確認、昨日の記憶が戻る

ーーー

 訓練場に騒動を起こし様子を見るか。

切っ掛けを考えたけど、あの場の誰一人知らないし、案が浮かばない、

ダービットがキーマン、彼さえ何とかなれば進展する。

そう確信しながら、とにかく掻き回してみて、回復魔法迄たどり着く

家族の話の前に勇者の件も有り、二人で話すことを提案する。

「隊長さん、ありがとう、内密に勇者の件で話がしたい」

小声での話し掛けに、意味を感じてくれたようで頷く

「訓練場の皆、ありがとう、楽しい時間だったよ、混ぜて欲しくて

煽った事は謝ります、ごめんなさい」頭を下げていると拍手と歓声

「悔しいが、お前は強いぞ」「気に入った」「今度は負けねー」、

初め疎らに、やがて訓練場を震わす程に…

「又混ぜてね」棋士達に声を掛ながら、ダービットと勇者達をうながし、

執務室に向かう「また来いよ」「何時でも相手してやるぞ」声が掛かる。

・・・

 「隊長さん、色々聞きたい事有る様だけど、最後に二人だけで

話がしたいから、先に四人と話させて欲しい、そう願えるかな?」

頷き、執務机に腰掛け書類を処理し始めた。

面談室も兼ねている様で、ソファーもあり、勇者はそこにおり、

僕を待っていたが、僕が座ると美咲が横に来た。

 「君達も気付いていると思うし、辛い事だけど、確認したい」

「悪い、俺が車で轢いた」「あはは凄く軽いんだね」「てめえ…」

「喧嘩売るのか?、人が謝ってるのにって言いたい?」「グッ」

「図星だった様だけどハズレ、僕の確認は君たちが死んでる事」

「こうして生きてるじゃねえか」「自分の死ぬのは見たよね」

「ああ、事故った時、何故か自分の状態が前方から見えた」

「見えた画面は僕が見たものを共有したと思う」「あ、成程」

「てめえも死んでるんだろう、何でお前の観たのが?、あ、ま…」

「そのまさかなんだ、信じられない話をするから、質問は最後ね」


 「事故った時、君たち四人は地球で死んだ、魂は召喚儀式で

この異世界に飛ばされ、肉体は儀式の贄でコピー再生された。

地球での身体は魂が抜けると死んでしまう、バラバラで無くとも

意識が戻ることは無い」考えたく無かった現実の認識だ。

 地球とこの世界は繋がっていない、別の世界であり、理も違う

地球での記憶は有るが、戻ることを許されない、万一戻れても幽霊状態、 

魂のみでは存在できないし、地球の魂の理から外れている」

 

 事実をダメ押しされた反撃が来る「てめーだっておなじだろが」

「僕は生きてる、現在の地球では行方不明状態だよ、神隠し」

「どー言う事?、意味わかんね~、解るように頼む」

「僕は魂も肉体も一つ、だから、地球かここかの一方にのみ存在する、

存在=生きてる、その間、他方には存在しないから、行方不明って事に成る

「誰だって身体は一つじゃ…、あ、生死のふたつ、あっちとこっちか」

僕の魂は地球の理に従う、ここで死を迎えれば、魂も肉体も両方消滅する、

地球で死ねば、地球の理で、生まれ変われる。

「おれたちはここでなら、生まれ変われるのか」

「そう言う事だね、ここの理に属しているね」


 「お前が強いのは「勇者か?」」皆がハモル「違うと思う」

「歯切れが悪いな」「今、この世界に魔王は居ないから勇者召喚の儀式は…」

「禁忌か」ダービットが話に割り込んできた。

「そうだ、出現後でなければ、多くの犠牲で招喚する等、愚の骨頂、犠牲者が気の毒

私利私欲の勇者召喚等、愚かの極だろうな」ダービットを見つめつつ続ける

「犠牲を払っても人類消滅が防げるなら、と言う前提が必要なのです」

「三世様はその事を知っていた筈、それでは」

「私欲、己の力を雄示する目的、心当たりがあるのだろ?」

「ああ」言葉少なく、俯く隊長

「正直に話せ、こちらもワザと聞かせたのだ」

「教皇選だ、来年だ」

「納得した、僕が強いのは地球でも同じ、祖父に武術を習っていて

僕も自慢では無いが、かなりやれる」

「そこは普通謙遜だろうが」雄二にツッコまれた。


 「強いのも解った、で、呼ばれた心当たりは?」

「心当たりか、この世界に来て幾つかやって、力が開放された」

「回復魔法もそうか?」「こちらで覚えた、お前の家族の治療も

やらねば成らぬミッションなのだろう」「何故それを…」

「自分でも判らない、課題が有りやらされる様に仕向けられる、

勇者召喚が切っ掛けだろう、召喚を利用しただけと思うが、

完全に無縁とも言い切れない」

「子供の事を知って…、まさか…」

「もうちょっと待てダービィト、家には行くから終わらせる迄待て

ここを終わらせないと、腹を割って話せん」「悪い」と机へ戻る


 「魔王が居ない世界に勇者の居る必要はない、これは分かるよね」

「ああ、正式なっつうか、喧嘩相手がいないと言ってるんだよな?」

「正解、それでも命がけの喧嘩したいか?」

「嫌だ、地球では、いきなり殺るこたねーが、ここは簡単に遣られる」

「なら話が早い、召喚した奴は、「召喚」したと言う事実だけ欲しい

悪魔が居なければ、だだの厄介者、死ぬ迄、危険な相手と正義の味方

ヒーロー役で、戦わされ利用され続ける」「嫌だ、ゼッテー嫌だ」

「嫌ならどうやって食べる?」「働く」「ここは地球じゃない」「グ」

「なら、僕の提案、君達が自分の責任で仕事が決めれる迄、あるいは進みたい仕事が見つかる迄、ここで訓練して身が守れるよう庇護下で頑張る」

「今と同じだよ」不満そうな様子に、

「自由時間と休日、小遣いも貰える様にして、彼女達は僕とのデート付」

「最後は特に気に入らねーが、外に出れるのか?、金くれるのか?」

「約束するよ」ダービット目配せすると、頷き、四人も歓声

「召喚した相手の出方で、方針が変るけど、守るから」「どうやって」

「瞑目、僕の声を心で聞いて[僕の声が聞こえるかい、聞こえたら絆を結ぶよ]」

意外な事に、ダービット含め全員が僅かに光り出し、

「ドドドド・・・」[龍司様][龍司様][龍司様]「何だ?」

瞬く間に廊下が埋まり、部屋へなだれ込む騎士の群れ…

訓練場には3名残っており、起こった事が解らなかった様だ。


 4人も騎士も絆で結ばれ、納得してからの訓練の練度は、全員が一様に

向上していくのであるが、この時は高揚し収拾がつかぬ程の歓喜の有様であった。

 興奮した訳も有る、無双の強さ、回復魔法の威力、浮遊、人柄、どれを取っても

超一流、「使徒」と言われても受け入れるだろう。

そんな彼の声が心に響き呼び掛けてきた、歓喜しない理由が無い

近い内の再来を約束し、訓練場を後にする。

ーーー

 大きくは無いが、手入れされている。

余分な物、装飾品、見るからに質素、子供の病気への負担が大きいか

質実剛健な質なのか、全てが慎ましい、玄関の迎えは妻のみらしい

お茶もそこそこに子供部屋へ。


 案内された部屋のベッドに横になった子供が横になっている。

気怠そうにして、少しボーっとしている、痩せて顔色、肌色も悪い

見た目では目立った症状が無い、事前に聞いた範囲では、

夏前から果物、野菜を取らなくなって、パンかパン粥ばかりだとか

粥も野菜は拒否するとの事、乳製品は元々好きな方では無く、

摂取量は少ない、肉も美味しくないと言うらしい。

医者では無いので、偏食ででるのはビタミン障害を疑う

Cは出血班が有るとの事、物は試しと足の膝から下をベット外に

垂らして、膝の腱を軽くチョップすると跳ね上がりました。

大当たり「脚気です」B1欠乏、解ったのは良かったが、問題はこれから、

「初めまして、リノン君、少し話を聞いて良い?」

「怠いから嫌」「そっか、なら「ヒール」これで少し話していい?」

「身体が光った、少し気分がいいから話すよ」

「肉を食べないのは嫌いだからなの?」

「嫌いじゃ無いよ、だけど食べ様とすると、舌がチクチクするんだ」

「何時から?」「歩き難くなってから」

「舌見せて」表面ツルツルだ。

「スープ有りますか、味が見たいのでスプーン一杯でいいのですが?」

「お持ちします、おまちを」奥さんが台所へ

「野菜と果物何で嫌い?」「虫がね、中に居るんだよ」

「虫は居るよ食べ物だから」「気持ち悪」

「虫怖いんでしょ、内緒でホントの事教えて」「怖くないキモいだけ」

「ふ~ん、勿体ないな」「虫食ったのキモいの、嫌なの」

「美味しいのに」「美味しい?、どこが?」

不思議そうな顔の彼に「君は知らないのか、可哀そう」と煽る。

「可愛そ言うな」「だって虫が食べる位、美味しいんだよ」

「エッ?」「お話聞くかい?」

「聞いてやるから話せよ」頭を撫でつつ

「旅人が色ずいた果物を見つけました、お腹が減っています、

木の枝にたわわに実が成っています、木の下に2個落ちていますが、

一個は虫食いです、リノンはどれを食べる?」

「枝に成ってるきれいな奴さ」「旅人は枝のを食べて死にました」

「地面に落ちた虫のいない方」「旅人はお腹を壊して苦しみました」

「食べるの無いよ」「旅人は虫に感謝し、虫の居る部分を切り取り、草むらに返し

残りを美味しく頂きました、そして無事街に帰りました」

「なんで虫食いが生き残るの?」

「木の枝の実は毒が有った、落ちるのは熟成して毒も消えてから落ちる

他の原因で落ちるのは要注意なんだよ、

毒を食べる虫も稀にはいるけど、普通は虫だって毒は食べないし、

食べるのは、より美味しい方に行くんだよ、熟れて落ちた方へ」考え込んでる様だ

小さな容器にスープが来る「これですが」舐めると僕にも塩辛い

「減塩」もう一度スプーンから、手の平に移し味見、うん、よし

「これ位の濃さの味で、料理してもらえます、肉はしっかり塩抜きで」

「これ舐めてごらん」「チクチクしない?」「しないと思うよ」

「頑張って舐める」舌でペロ「痛くない」

「材料準備してもらい、今日はいつも通りで、明日の朝食べてみよう」

母親に向かって「ポア系の肉は売ってますか」「有ります」

「なら、塩漬けになって無いのをリノン用に使う事、味の濃さは先程位で、

薄いのはOK、野菜は少量で小さめか細目で煮込んでください

同じものを僕にも用意願います、食事には立ち合います」

帰るつもりが帰れず、今に至る


 [ヒール][安定]「ハイ、リノン朝ごはん、食べるよ」

「座って食べようか」「御呪い、頂きます」「いただきます」

「なんか食べれそう」ス-プを飲み「美味しい」微笑む

パンをスープに浸して食べる、小さなステーキを食べ「ママ美味しい」

出された物を食べ終わる「御呪い、ご馳走様」「ごちそうさま」

満腹になり、満足そうに微笑むリノン

ダービットも母親も久しぶりにパクパク食べる様子を見て嬉しそうだ。

「食べ終ったら休もうか」[ヒール][スリープ]


 居間に戻り、病気の説明を始める、地球でビタミンB1と言う物の

不足で起こり、病名を「脚気」と言う。

塩味が強すぎて肉を食べたがらない事、さらに脚気の症状で舌が荒れ、

よりチクチク痛いので塩味の食事が辛い状態である。

この家は塩分の取り過ぎで、これも体に悪いので減らす必要があり、

特に子供には、小さい子程毒になる。

 虫食い果物で、怖いと気持ち悪いがトラウマになっている、

成れるまで、虫が入れない大きさに切って食べさせる様にして欲しい

最後に隊長ダービットでなく、父親ダービットで接する事

味の文句も言えない子供が、かわいそうだよ

 

 食事をしながら出された物の、味をチェックし感想を述べる。

結論から言えばダービットのせいだ、性格が実直で正義感も強い、

騎士に成ったのも、神々にお仕えする尊い方々のお傍に居たい、

悪からお守りしたいとの思いだった。

性格の為、仕事にも訓練でも手抜きが無く、人一倍頑張り出世する、

それに伴い現実を知る事となり、役職が上がる程ストレスが溜まった。

 現在、第六教区、ドナウド三世直属配下、護衛騎士団団長であり、

もう一歩で、軍部頂点も現実のものに成るが、気分的には最悪状態、

 上司への不信感で、気分を紛らわす為に、過度な訓練で汗を流し、

失われた塩分の補給と、薄味嫌いで、より濃い目の味好みとなり、

ストレスのイライラが周りを委縮させ、今回のトラブルに。


 ストレスの原因はドナウド三世だ。

来年の教皇選挙への良からぬ噂、立場上、噂が事実なのは知り得ている。

今回の禁忌とも噂される勇者召喚、魔王の噂無し、召喚の場で見ている。

身内で直属の部下のダービットの、子共の病気の治療さえ高額請求をして

神に祈ると言う曖昧な治療のみ、スキルも掛けず、不信感が募る、さらに、

 三世付きになって、脅し、強要、賄賂等、見たり、手伝わされたり、

意に染まぬ事ばかりで人格にも、疑問をもち、回復魔法も使うのを見た事が無く、

能力が無いのではないか、祈る行為自体に感銘、神聖さ清廉さを微塵も感じない。

そんな折、見てしまった、比較対象になる存在を、そして絶大な効果を。

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