第5話 勇者達

 「姫、話が有る」城の応接室で向き合う。

召喚時、勇者として四人がこちらに来た事、直接は知らないが

知人の友人なので消息を知る為、探す必要が有り、

異世界の住人であれ、他人の人生を奪う行為迄する程、必要な案件

とは何か?、ぜひ知りたかったと語る

「アーシア、先に言っておくよ、僕の場合は龍ちゃんがいる、

召喚先が四人と異なったのも、訳があるんだ、竜と会う運命さ

竜達や君の真率者との絆で僕の力は強化されている、次の覚醒も近い

勇者と会うのも僕のミッション、君と会えたのもミッションだよ

それで、君へのミッション、僕の留守の間ここを守る事。

守ると言っても、戦いでなく取り仕切ってもらうんだ、

ドラゴンと人には種族の差でズレが有る、

ドーラとロベルトが実行役、そして君が纏め役」頷く彼女肩を抱き

「ここが僕の帰る場所、守ってくれるかい?」「賜りました貴方」

ーーー

 教皇フリードは恒例の国内巡視に出る準備に忙しい。

取り巻きに任せても良いが、来年に控えた教皇選の票固めもあり、

懇意な司教とより良い関係を築く時間が欲しいし、揺れてる者の

説得の時間も欲しい、行程の泊りや、立ち寄り先の選択で行うが、

腹心を連れて行けない事情が有り、意を介する者が居ないのだ。

・・・

 「教皇様ここにおいででしたか」「アメスか、いかがした?」

ニコニコと微笑みながら現れた司教を向かいに座らせる

「お耳を」アメスが小声で促すと、お互いテーブルの上方で

頭をくっつける様にして内緒話になる。

「巡視中を狙い召喚するようで、史上初召喚の功績をドナウドの力

として公開、公表する、それによって自分が選ばれた者として

教皇様の追い落としを計るようです」「勝負は召喚後かフーム」

「勇者を召喚しても、功績に成りますが、犯罪ではありません

悪魔を呼べば、明確に神への反逆ですが、味方なら戦力増強です」

「悪魔出現の噂は有るのか?」「私の知る限り、ございません」

「巡回からすぐ戻れる様な段取りしておくか」「お気をつけて」

ーーー

 神国アラルの首都は神都アラル、王城の替わりに神殿が建つ。

中心街はダビデの星の様に区分けされており、中央が教皇の大神殿

六個の三角にも神殿があり、其々に大司教が主となり、

国と首都も六つに分割され、大司祭の教区として、統治される。

 6年毎の選挙に負ければ、引退し全ての権力が無くなる。

勝てば教皇で次の6年も権力の頂点に君臨と落差が大きい、

新しい教皇が誕生すれば、腹心を大教皇に指名でき、影響力が残る。

教皇も大司教も駆け引きが重要とばかりに計り事に走る。

ーーー

 「予定は何人だ?」横柄な態度で騎士に聞く「6人でございます」

傅き低頭した者は答え、それを聞いた、ドナウド三世は満足げだ。

大司教の身内への取り込みが、旨くいかず、次回で最後だろう、

六年後は、高齢な自分には体力的に、職務を全うできるか疑問。

腹心のアルカは政務に向かず、他教区との駆け引きは後れを取る、

しかし、失われし技術や禁忌に造詣が深く、召喚も彼によるものだ。

「ダービット、アルカの動きに不信は無いか?」「無い様に見えます」

「お前が司教なら…」「三世様」呼び掛けてダービットが皮袋を渡し、

「息子の病気の事よしなに」「解っておる、間もなく快癒するだろう」

「では手筈道理進めます」下がってゆくダービットを見ながら

病気持ちの家族がいる者は、扱い易くて良い、手首を返し袋の重さを

計り懐に入れる、「さて、そろそろか」一人呟き歩き出す。

・・・

 第六神殿は見栄えが良い、と言ってもケバイのだが…。

特に記念日でも無いのに、広く造られた聖堂には人が溢れており、

祭壇の前の大司祭の位置と、来賓者との間に、区切られた空白の区画。

 その区画の床には何やら紋が、赤黒い塗料の様な物で描かれている。

やがて儀式が始まり、贄が供され鮮血が飛ぶ、篭った嬌声で聖堂は震え

人々の異様な雰囲気、紋の禍々しい気配が深まり、異様な陶酔感が漂い、

これが聖堂?とは思えぬ雰囲気を醸し出す。

 紋から、血の様な光が溢れ出し、昼間の筈が薄暗い夕焼けに染まる。

神殿の窓ガラスが震えだす、床から地鳴りの振動が身体を這い上がり、

「逃げ出したい」程になるが動けない、崩れ落ちたくても、抜け落ち

ぬよう、空気まで固まり揺らされる、「怖い」全員が思う。

生還できるのかと焦りだした頃に、ピタリと動きが止まる。

 崩れ落ちるのも忘れる衝撃!、紋の中に人が居たのだ。

「オオオ~~~」聖堂内に再び大歓声が響き、「三世、三世、三世」

三世コールが鳴り止まぬ。

 「6人の筈だが?」4人しか居ない勇者を見ながら呟く三世。

招待者が落ち着くのを待つが収まらず、三世は両手を天に翳した、

皆が見える様に、途端に静まった、ゆっくり場を見回し

「勇者様、召喚に応じて戴き、ありがとうございます」会釈をし

「わたくしドナウド三世と申します、まずは、皆様方の勇者の証の

確認をさせて戴きます」アルカに目を向け頷く、始めろの合図だ。

「なんだお前、偉そうに仕切りやがって」いきなり場が固まる

「ここ何処だよ、呼んだのお前か、都合だって有んだよ、勝手やんな」

気分良く注目を集めての、晴れ舞台がいきなりこれか、下手に出て

勇者様として扱ってやろうと会釈迄したんだぞ。

異世界の猿如き、頭まで下げてやったのに、ダービットに顎しゃくる

威圧しろの合図だ、行動にすぐ移され、二人の男達に槍の穂先が向く

「てめ~ら…」言葉を紡ぐが「テッ」僅かに突き刺さっている穂先、

もう、安藤雄二は声を出せなかった。

それを見ていた上田武史も声をのみ込む。

・・・

 伊丹志保、花長美咲はヤンキー二人に拉致られた格好だ。

朝、喜多方に向かう為、二人で歩いていたのを、言葉巧みに無理やり

車に乗せられ走っていた、座席を前後に座らされ、ろくに話にもならず

男二人の馬鹿話に相槌を打つだけ、下川井の事故までは。

アホな話しに盛り上がり、王業なアクション、足を踏み鳴らし…

取ったばかりの免許、調子に乗って、足を踏み鳴らし…

思い切り踏んでしまったアクセル、右カーブの先はさらに曲がる坂、

木に激突するが折れず撓う、坂の横に折れるか落ちれば、結果的に

良かったかも…しれない、四人共生きていたかも…しれない。

 ここがターニングポイント

龍司が昨日戻って来なければ、凛と涼子がコテージに泊まり、

朝の散歩で巻き込まれ、召喚予定の6人だったかも…しれない。

 さらに幾つかの事が想定できるが、結果的に坂の下に龍司が居た。

「凛のお兄さん逃げて~」助手席の美咲は叫ぶ、何度も…

凛との話で龍司を知っていた、話した事も無い片思いであるけれど、

「どきやがれ、引き殺すぞ」「おい、なんだ、手など突き出して」

 ぶつかる少し前から、スローで見え始めた、前に立つ龍司の手が

輝きだし、光が彼を包んでゆく、車が光に触れた瞬間、爆発と衝撃に

襲われ、こちら側を蹂躙してきた。

光の壁でバウンドし、屑れて再び落ちていく、自分達と車を見ていた

痛みも、怖さも無く、ただ見ていたが靄に包まれだし、やがて闇に。

 四人は今更であるが理解した、そう、事故後の自分を見ている。

突如の舞台回しに、頭が付いて来ず、粋がって脅された所で気付く

「勇者様?」召喚、そして事故で死んだ事

・・・

 幾ら粋がっても現代で育った若者だ、人も警察も殺す前提で無く

脅し拘束が目的だ、だが、この連中は違う、痛めつけるでは無く、

傷付けて、従わせるのだ「理不尽に怖い」と心が叫ぶ。

「アルカどうだ?」「この雄二が勇者、称号も有り剣のスキル持ち」

「武史は盾持ち」「志保はアーチャー」「美咲は聖女ですか」

「4人でパーティが組めますが、兵隊なら魔法が欲しかった」

「強さは?」「召喚直後じゃ新平並」「偉ぶる癖に役に立たんのか」

名前も名乗って無いのに知られる、能力迄知らされ戸惑う。

「アルカ、勇者様をご案内しろ、この世界は初めての事、故丁寧にな」

「こちらえ」引き連れて、下がってゆく。

・・・

「今日は皆様方と共に、我が、この場に勇者様を召喚致しました、

この力を如何ご覧に成りましたかな、今後勇者が育てば言う事無し

どうぞ、今後も奇跡を起こす力を持つわれを、ご支援をお願いする」

「三世」「三世」「三世」胸元で小さく手を振り、奥へ消える。

こうして、召喚の儀は終わった。

ーーー

 大量の肉を見て齧り付く「美味くねー、胡椒やガーリック無のか」

味に文句は言っても腹は減り、人並み以上に食べる。

「なあ、チャッチャッとフケルか」「何処へ行くよ」

「ここは異世界だぞ、金もねーし」「かったるい、チクショウ」 

「行くとこも、食い扶持も無いしな」「まあ、ここに居りゃ食える」

「ラーメン食いてー」「カップ麺でいいわ」二人で溜息ついて黙る

・・・

 「美咲~、私泣きそー」「ラノベだと王子様とか…、ここ無理そう」

「死んでるんだよね」美咲が頷く「凛の従兄を引く寸前の爆発だよね

お兄さん光って見えなかったし、一緒じゃない、どうなったんだろう」

「人の心配より自分がどうなるやら…」

「片思いの相手引いちゃってるし、心配よ、凛ちゃんごめん」

「アンタが引いた訳じゃ無いでしょ」

泣きながら、愚痴りながら、眠りにつく…

ーーー

 「口だけか~、これくらい、しっかり受けろ」打たれ続ける、

回避し撃たれた手を撫でる「クッソガー」

「親のスネカジリじゃこの程度が限界か」息が上がるのを揶揄される。

「やってらんねー、チクシォー」必死の突撃も交わされ、

「勇者って言うなら、らしいとこ見せてみろ、ただ飯食い共が」

「・・・」「・・・」

訓練場でダービットに罵詈雑言を浴びる、しかし受けているのは訓練

言葉とは裏腹に、技術を要領良く叩き込まれ、自分達でも判る程に、

この数日で変化している。

やんちゃをやっているカラこそ、訓練と虐めの違いが判るし、

ダービッとの部下のカインが、宿舎の様子を見に来て、世話をする。

 勇者の立場は甘くない、強くて当たり前にしか見られず、

強さも並では意味がない、なにせ勇者様なのだ。

 教える騎士の立場から見れば、強く成ってもらわなくては意味がない、

強く成る筈なのに、成らなければ、指導が悪いと言われるだろうし、

指導が良く強くなっても、理不尽にも、勇者様はそれが当たり前なのだ。

 能力が上がり、力を実感できる様になり、気持ちに余裕が生まれた。

元の世界では世間が子ども扱いで、やんちゃも、遊び放題も当たり前、

責任は子供だから、で済んでいた、そう、この世界に来なければ。

四人共それを実感し始めている、危険の少ない、ぬくぬくした生活、

もう戻れない、生きていく為、勇者をやり切るのだ。

ーーー

 【勇者召喚はアレス大陸だな】【神国アラルが匂うね】

数千メートルの高さで瞑想しつつ、龍神と会話を交わす。

神国アラル上空に出現し降下していく、神都アラル中心ダビデの星

 訓練場に四人を見つけ、近くの高いから彼らを観察する。

自分と同じく勇者を観察する者を見つけた、着ている鎧が豪華で

日陰から椅子に座っていられるなら階級は高い、だが表情が悪い

憂いを帯びており、精彩が無い、勇者か家族に何か有りそうだ。

・・・

 「ねえ、ここ訓練するとこでしょ、僕も雑ぜてくれないかなー」

空から声が聞こえ、勇者と同年代の華奢な男の子が降りてくる。

「なんだお前、ここを何処だと…」「訓練場でしょ、混ぜてよ」

「鼻たれ小僧が、痛い目にあいたいか」「あそこでもやってるよ」

「あれは勇者様、何れ強くなる」「僕強いし、彼らと一緒に来たよ」

近くの騎士達と言葉を交わしていると、ダービットと美咲が振り向く

「龍司さ~ん、生きてた~」言葉と同時に走り出しこちらへかける

「一緒に来た…」、言葉を聞きとがめ、こちらへ歩いてくる

美咲の前に降りて笑顔で受け止める、泣きじゃくり心配した事を訴え、

抱きついて離れようとしない、「心配してくれて、ありがとう」、

耳元で小さく囁く「後で二人だけで話そう」美咲が頷く。

彼女を落ち着かせるのに、時間が掛かり過ぎ、取り囲まれていた。

雄二がアワアワと騒ぎだす「俺が引いた奴だよな」…それを無視して

「隊長さんだよね、騎士さんに僕と戦う様に許可出してくれる?、

駄目なら帰る、空へ上がれば捕まらないし、聞きたい事は試合後だね」

「隊長、舐めてますこいつ、飛んでも捕まえる、剣が当たれば痛いぞ」

「飛んだらつまらんて、無手でこんだけの騎士ぽこれるって楽しいし」

「隊長~、隊長~」騎士達は煽られ、爆発寸前、抜刀者もいる始末

「殺すなよ、話が聞…」「殺す気で来いよ、弱いんだからさ」

限界で突進が始まる、ジャンプして広い位置へ移動し「来い!」

勝手に場を仕切りだす。


 騎士が走る、取り囲もうと走る、囲んだと思えば薄い場所を破られる

何度も繰り返される、捕まえれば、動きを止めれば騎士たちの勝ちだ。

それが判っているから、必死に走る、追いつけると思った瞬間、

龍司が身を翻し、足を掛けられ、仲間を巻き込み転がされる。

身を翻た、すれ違いざまに手足が動き、その都度騎士は倒され、

蹴り飛ばされ、軽業師さながらに、頭や肩を足場にされる。

足場だけで済めば運が良い、足場状態から蹴り飛ばされ、目暗ましや

同士討ちの駒にされ、地面に転がる。

姿を見失えば、仲間に向かって突き飛ばされ、チャンスと見て打ち込むと

力んだ踏み込みを外され勢い余って転倒と、タイミングが取れない。

混雑過ぎ、展開の早すぎの中で、逆転狙いの無理な弓の使用の誤射で、

当たって怪我する筈の者まで助けられる始末。

 勇者達とダービットはその様を口あんぐりで見ている。

カインは指示を出し続けるが、後手後手に回る、龍司の動きが早すぎる。

数分で半減した、200人以上いた筈が…、

倒れた者に被害を出さぬ為、倒れて居ない場所に誘い倒す、

同士討ちで怪我した者がいるが、殆どは気絶させられている。

頸椎上部と鳩尾付近の衝撃によるが、どうやったら…の世界…

煽られて全力で追いかけた、もう走れなくなり、へたり込む者も続出、

作戦負けで音を上げ、ダービットが「我らの負けだ」20分もせず終了。


 「エリアヒール」「リフレッシュ」「覚醒」声が響き渡る。

その様にダービットが歓喜する、憂いの顔を見ていた龍司は納得

家族に病人がいる。

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