第3話

その後、何度か足を運んだが道子はとりあってくれなかった。僕はなんとか糸口を見出そうと隣近所を尋ねたり地域の民生委員を訪ねたりした。

そんななかで道子の凄まじい過去や現状を知ることになった。やはり一筋ではいかないとおもった。

道子は北海道の釧路生まれで25歳くらいまで札幌のすすきので働いていたらしい。女の子を生んだが父親は誰だかわからず。乳飲み子のまま札幌の養護施設に預けた。

その後東京にでて都内の水商売を転々としていた。

たまたま、歌舞伎町のお店で知り合ったQ市出身の本田という男に彼女は気に入られ、Q市にやって来ることになった。本田の家は古い造り酒屋で地縁血縁でかためられていた。当然道子にとっては居心地がいいわけがなく1年もしないうちに家を出てしまった。

道子は、しばらくは土地勘ができたQ市のスナックで働くことにした。

女の子が3人の小さな店だったが。道子の器量も手伝って繁盛していた。

Q市は上場企業が数社あり比較的景気のいい町だったので店は連日満員だった。道子を目当てに毎日やってくる客も多く、現在の夫もその一人だったかもしれない。則夫は上場企業に勤める40歳だったが、女には縁がなくまじめに働き家を建て一人で住んでいた。彼はカウンターに坐ると黙ってビール飲むだけでいつも所在なくしていた。そんな奥手に見える則夫に道子は興味を持ったらしく積極的に話しかけた。

いつしか則夫も道子に気を許すようになり、道子は安定していた則夫のライフスタイルに関心をもつようになった。2人の行動を阻むものは誰もおらずいつしか道子は則夫の家に住むようになっていた。

近所では結婚したらしくみえた則夫に好意的になり近所づきあいもよくなってきた。

器量がよく華やかな道子は近所でも評判になった。そんな道子を則夫はすこし自慢げにおもったのか度々食事に誘った。。そんな夫のやさしさに応えるように道子は毎日夫を会社に送り出し自分は一生懸命、主婦業に専念した。長年抱いていた夢のような生活であるとおもった。ある時道子はふっと思った。(札幌においてきた娘とも一緒に住めたならと)

平凡で安定した暮らしは暫く続いたが、則夫はある日の残業で倒れてしまった。

会社からは救急車で病院へ運ばれたということで道子は直ぐに駆けつけた。則夫は意識不明の重体であった。脳溢血ということであり、今夜がやまばということである。夜が明けても則夫の意識は戻らなかった。それから2週間が過ぎてしまった。

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