第29話 春夏秋冬④

パチパチと音を立てて炎が揺らめく。

消えないように、薪を継ぎ足す。


二人が寝静まるの見計らって俺は、夏美に声を掛ける。

「どうせ、起きてるんだろ?」


壁にもたれながら寝ている振りをしていた夏美は目を開く


「へへっ、ばれたか?」


「こんな非日常が起きるなんてな、なぁワクワクしないか?」

俺は夏美の目を見ながら言う。

「そうだね、冬矢……。秋人の言うことは勿論わかるけどね。」

背伸びをしながら、夏美は返事をしてくる。

「まぁ、親父さんが登山中に亡くなってるからな。命の重さを軽んじてると思ったんだろうな。」

「きっとそうだろうね……。」

夏美は眠いのか欠伸をしながら答える。

「眠いなら寝ていいぞ?」

「ん?私、まだ冬矢と話していたいからいいの。」

夏美が俺の横まで移動してきた。

隣に座ると俺の肩に首を乗せる。

「おっおい、夏美!」

俺は突然の事に驚いた。そりゃ意中の女性だ。慌てるだろう……。


「ねぇ、冬矢?私ね―――。」


何か夏美が言いかけた時、洞窟の奥から犬の遠吠えのようなものが聞こえた。


「しっ、静かに!」

俺は、何か言いかけた夏美の口元を手で覆う。

夏美は口をモゴモゴと動かしている。


「すまない、夏美。もしかしたら野犬か何かがいるのかもしれない。」

俺は、小声で夏美に耳打ちする。

「二人はぐっすり寝ているから寝かせてやろう。俺様子を見てくる。」

さらに続けて耳打ちする。俺はゆっくりと夏美の口元から手を離す。


「わかった……。私も行く……。」

今度は、夏美が耳打ちしてきた。甘い香りがふわっと広がる。

「おっおう、わかった。俺の後ろをついて来いよ……離れるなよ。」

俺は左手で、夏美の手を強く握った。

夏美は俺の手を握り返してくる。


「うっうん。分かった。」


俺は腰に差していた木の棒を構える。


立ち上がりゆっくりと、洞窟の奥へと歩き出した。



洞窟の奥へと向かう時、俺は風が吹いている方へと向かうことにした。

きっと逆側に出口があるに違いない。

警戒しながら、俺はゆっくりと進む。

「ねぇ、冬矢?手がかなり汗ばんでるよ?」

「うっうるさい、色々緊張してるんだよ!」

嘘ではない、何かいるかもしれない恐怖と夏美と手を繋げる嬉しさの両方が共同している状態だ。手汗ぐらいかく……。


ある程度進んだ時、暗い洞窟の奥に光が灯っているのが見えた。

「こんな洞窟に光があるよ?人がいるのかな?」

「しっ、何かおかしい!」

俺は夏美を抱き寄せて、岩陰に隠れる。

俺は、岩陰から光がする方をゆっくりと覗き込んでみた。

「あれは松明か……。」

光の元は松明のようだ。俺はもっと目を凝らしてみる。薄暗さから良く見えなかったが目が慣れてきて、松明を持っている主の姿がはっきりと見えてきた。

「なっ!?なんだあれは……。」

緑色の体をした。耳の長い生き物がそこにいた。大きさは低学年の小学生ぐらいの大きさだ。ギャッギャッと甲高い声を発しながら歩いている。

「ねぇ、冬矢がいるの?」

怯えながら、小声で夏美が俺に聞いてくる。


「いや、緑色した化け物が松明もって歩いてやがる……。」


「えっ?嘘?冗談でしょ?」


「この状況で、冗談言えるか……夏美。引き返そう……。」

俺は、夏美の手をひきここから引き返そうとした。


その時だった―――。


振り返った先に、緑色の化け物がいた。


「なっ、もう一体いたのか!?」

「きゃぁあぁぁあ!!!何!?この生き物!」


緑色の化け物は、下卑た笑みを浮かべながら近づいてくる。


「ギギッ……。ギギギッ」

手に持っている。棍棒を振り上げる緑色の化け物。

俺は、木の棒で応戦しようと構える。


「こっ……こいよ化け物。」

体格差は、こちらのほうが有利だ。

緑色の化け物は、身体が子供ぐらいの大きさだ。

こちらが有利に動けるはずだ。

だが、隣には夏美がいる。

やみくもに、棒を振り回しては夏美にも当たってしまう可能性がある。


「夏美、俺の後ろにいろ!」

俺は、夏美を後ろにおいやる。


「ギギッ―――!」

緑色の化け物は、甲高い声で鳴く。

先ほどの声と少し違うような気がした。

がする。


化け物の声に呼応するように、後ろからゾロゾロと

緑色の化け物が増えていく。


気が付いたら、五匹の化け物がいる。

「なっ!?おいおい、嘘だろ?こんなのありかよ……。」


少しづつ、距離をつめてくる化け物。

俺は、一か八か目の前の化け物を薙ぎ倒し道を作ることにした。

「夏美!!!いいから俺を信じて着いて来い!」

「うっうん……。信じる……信じるからッ……。」

夏美は、怯え切っているが今はそれどころではない。


俺は、構えた棒を前に構えながら前へと走りこんだ。

「うぉぉお―――!!!死ねぇ化け物ッ!!!」

目の前の化け物の頭に、木の棒がめり込む。

「グゲッ……。」

めり込んだ頭から、紫色の液体が吹き出す。

俺は、食い込んだ棒を引き抜き、倒れた化け物の腹を踏みつける。

「ギェッ!!!ギェイ……。」

口から泡を吹いて、化け物はこと切れた。

俺は木の棒を、後ろのから迫ってきている化け物に投げる。

化け物が握っていた棍棒を手からはがし、それを構える。


「へへっ、なんだ大したことねぇな。」

残りの四匹は、仲間がやられたことに怒っているのだろう。

身体は震え、緑色の顔が赤くなっている。


あと四匹が隙間なく洞窟の道を塞がれている。

いくらなんでも、残りをまとめて相手にできる自信がない。

戻ったとしても、あっちには松明をもった化け物しかいない。


「なら、戻った方がいいかもな……夏美!引き返すぞ!」

俺は、後ろを振り返った。


「なっ!?」


そこには、さらに大きい緑色の化け物がいた。

身体中には傷跡があり、背丈は2メートルはあるだろうか

俺よりもはるかに大きい。

顔には眼帯がついており、背中に大きな剣を携えている。

夏美は恐怖で声もでないのか、ただ震えて怯えている。


「ギギッ、ナカマ、ヨクモコロシタナ……。」

眼帯の化け物が、喋る。


「ははっ、まさか化け物が喋れるとは驚きだ……。」

俺は、どうなってもいい……。でも夏美だけは何としても助けなければ……。


「夏美、いいからよく聞け……。俺が隙を作る。その隙にとにかく逃げるんだ。」

俺は、怯える夏美の肩を激しく揺さぶりながら伝える。

「いいか!夏美!必ずお前だけでも生き残るんだっ!!!」

「とっ……冬矢は……どうするの?」

「はっ!俺か!俺は必ず生き延びる、だって俺はお前が好きだからな!こういう時!

かっこつけさせてくれ!」

俺は、勢いに任せて夏美に気持ちを伝えてしまった。だけど後悔はしていない。

正直、生き残れるか不安はある。たぶん、死ぬだろう。

でも……だからこそ……俺は必ず生き延びてみせる。

「ナツミィ!必ず生き延びろよ!―――うぉおおおおおおおお!」


俺は、眼帯の化け物に向かって走り出す。


「とうやぁあぁあぁ―――!」

後で俺の名前を夏美が叫ぶ、その声は洞窟に空しく反響していた。









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