第27話 春夏秋冬③

涼宮 春すずみやはる


戸田 夏美とだなつみ


福石 秋人ふくいしあきと 


真鍋 冬矢まなべとうや


僕たちは4人は、助けを待つために洞窟で一夜を明かす。



うつらうつらとした意識の中、声が聞こえる。


春の声だ、僕を激しく揺さぶりながら何かを言っている。


「ねぇ!ねぇ!二人がいないの!」


、そうはっきり聞こえた。


僕は飛び起きた―――!


「どういうこと!?春ちゃん!」

春ちゃんは泣きじゃくっている。

僕は、彼女を強く抱きしめた。


「落ち着いて春ちゃん……。」

こういう時こそ"常に冷静に……"

僕の父の口癖だった。僕の父は有名な登山家だった。

念願のエベレスト登頂を果たす一歩手前で雪崩に巻き込まれて死亡した。

周りからは、可哀そうと言われ続けていた。

でも、僕はそんな父の生き方を尊敬していた。

こういう時こそ、冷静に……。僕は気持ちを落ち着かせる。

「春ちゃん、ゆっくりでいい。いつから。」

「分からない……分からないの……私もさっき目が覚めたから……。」

春ちゃんさっきまで取り乱していたが、少し落ち着きを取り戻した。

「そっか……、ならたぶん二人はこの洞窟の奥だ……。」

僕はそっと、抱きしめていた力を緩め春ちゃんを離した。

「あれだけ止めたのに、二人は洞窟の奥に行ったんだ。」

僕は、洞窟の奥を指さしながら春ちゃんに言う。


「この洞窟の奥に……二人はいるの?」

不安を含んだ声で答える彼女。


「うん、間違いないよ……仕方ない。僕たちも行こう。」

僕は、薪の中から手ごろな長さのものを右手に取る。

上着を脱ぎそれを春ちゃんに被せてあげる。

「中はもっと寒くなるはずだ。ごめんね。それを着てくれる?」

「うっうん、ありがとう秋人くん。」

頬を赤めながら彼女は俯いた。

「じゃあ行こうか……。」

僕たちは立ち上がり、木の棒を構えながら洞窟の奥へと向かう。

春ちゃんにはスマホをかざしてもらい辺りを照らしてもらいながら

ゆっくりと進む。




思った以上に長いトンネルのような洞窟。天井からは水滴が振ってくる。

途中で、二股に分れる道もあったが風が吹いている方へ進んできた。


「かなり進んだはずだけど……。」

進めど進めど、出口にはたどり着かない。

僕の予想では二人も風が吹いている方へ向かっていると思っていたが

予想は外れてしまったのか……。


「ねぇ、秋人くん。薄っすらだけどあそこ明るくない?」

春ちゃんが洞窟の奥の方を指さす。

指さした方向へ目を向けると、小さな光が見える。


「もしかしたら、途中で疲れて二人とも寝てるんじゃない?」

夏美と冬矢が二人で寄り添いながら休んでるのを想像した。

少し微笑ましく思えて僕は、笑った。


「そうだね、きっとそうだ……!起こさないようにゆっくり行こうか!」

まだ、二人が無事ではないかもしれないという不安もあったが

春ちゃんのおかげで僕は少し元気になれた。


僕たちはゆっくりと小さな光を目指して歩いた―――――



小さな光は岩と岩の隙間に挟まっていたスマホだった。デコレーションでキラキラとしている。これから光が発せられていたのだ。


僕は、春ちゃんにライトで辺りを照らすようにお願いした。


「えっ……。嘘―――ッ」


春ちゃんはそう言うと、持っていたスマホを手から落とした。

カタンッという音が、洞窟内に響き渡る。


「どっどうしたの!春ちゃん?二人がいたの?」

僕は彼女に聞く……。


春ちゃんは、スマホを落としたまま微動だにしない。返事もない。

仕方がないので僕は構え続けていた木の棒を投げ捨て、ポケットから

自分のスマホを取り出して、春ちゃんが照らしていた場所を再び照らす。


「うっ嘘だろっ――――」


照らされた洞窟の壁には一面赤い血がまき散らされていた。

まるで筆で絵を描いたように色々な模様が血で描かれている。

僕は血の跡を追うようにスマホをゆっくりと右へと動かしていく


そこには鋭利でするどく尖った岩に腹を突き破られて

顔はぐしゃぐしゃに潰れ、惨たらしく絶命している。

変わり果てた友の姿があった。


「嘘だろッ……。」


信じたくなかった―――


信じたくない―――


僕は抑えきれない吐き気を感じたが耐えた、

何より後ろにいる春ちゃんが心配だった。


「春ちゃん!!!!」


後をライトで照らして確認する。

さっきまでいた彼女の姿…。


「くそっ!なんなんだ―――どういうことだ!?」

僕は、声を荒げた。空しく響き渡る声。


「はるぅぅぅう―――!」

僕は叫ぶ、喉が焼けるように熱い。それでも何度も何度も彼女の名前を呼ぶ


何度も―――


何度も―――


何度も―――


声が掠れてでなくなるほど叫び続けた僕は、やっと冷静さを取り戻した。


「まだ、二人生きている……必ず助ける…。」

ガラガラになった声を絞り出すように決意を固めた。


僕は、亡き友の亡骸に頭を下げた。


二人を助けた後に必ず戻って来る―――


だから今は一人寂しいかもしれないがすまない。


僕は、洞窟のさらに奥へと歩き始めた。
















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