第21話 私が冒険者でいいんですか?②

私の名前は鈴木達男 43歳 独身男。


平凡なサラリーマンだ。


冒険者のアリとミツルギに助けられ


私は、冒険者になるために冒険者ギルドへと向かっていた。



王都の大通りを真っすぐと抜けた先に、立派な建物が立っていた。

木の看板は文字が読めないが、ここが冒険者ギルドだろう。

私たちは、大きな扉を開いてその中へと入っていく。


中には沢山の人たちがいた。私からみたらコスプレをしている集団

にしか見えないが、彼らが冒険者なのだろう。

壁に貼られている紙を剥がして、奥の受付へ向かっている。


「あれが依頼書クエストだよ~」

ミツルギは私の視線に気づいていたのか、察して教えてくれた。

「なるほど、ああやって依頼をもっていくのか……。」


「お~い、こっちだ!たつおさん!」

気が付いたら、受付の窓口にいるアリが手を振って声を掛けてくる。

私は、彼のいる所まで向かう。


「アリシア!登録を頼む!」

アリにアリシアと呼ばれた女性は、机の引き出しから一枚の紙を取り出した。

「どうぞこちらに、手を乗せてください。」

淡々とそう言う。目鼻立ちが整っており美人な女性だが、少し冷たい印象を感じた。


「たつおさんこの紙に手を乗せてくれ。」

アリは私を引っ張り、強引に右手を紙へと乗せる。


何もない白紙の羊皮紙のようなものが、だんだんと赤黒く変色していき

文字のようなものが浮かびあがってくる。

ほとんどの文字は読み取れないが私の名前、鈴木達男すずきたつおという文字だけは読み取ることができた。私は手を紙から離した。


「へぇ~なるほど、だから言葉が通じたのかぁ~」

ミツルギくんは、紙を見ながら驚いた様子で言う。


「なんと書いてあるのですか?私の名前は漢字で浮かび上がっているのでわかりましたが……。」


「うん?タレントだよ。言語理解と幸運って書いてある。」

ミツルギは、簡単に教えてくれた。


この紙に浮かび上がった文字はステータスと言い。

手を置いた者の力やスキルなどがわかるらしい。

タレントというには、スキルとは別な潜在能力。

スキルとは、その者がもつ特殊な技術。


「へぇ、なるほどだからたつおさんは言葉が通じるが文字が読めないのか」

アリは、納得したように頷いていた。


「犯罪歴などもありませんね。では、奥の方で魔力測定などを行います。」

アリシアと呼ばれた女性は、事務的に私を奥の部屋へと案内する。

犯罪歴なども分かるとは、個人情報が筒抜けではないかと私は思った。

アリとミツルギは、ここで待っていると言い。

測定が終わるまで待っていてくれるようだ。


奥の部屋には、台座の上に紫色の水晶があった。占いなどに使わるようなものだ。

アリシアに案内されるがまま、私はその水晶に手をかざす。


頭の中に声が響く―――


”鈴木達男―――魔力マナ……微量――適正職業――なし……”


「どうでしたか?水晶に触れて頭の中に声が聞こえてきたと思いますが……?」

アリシアは、事務的に聞いてくる。


「ええ、魔力はあまりないようです。適正職業もないようですね……これはどういう?」

何やら不穏な感じだ。


「困りましたね……。冒険者になる資格は問いませんが、適正職業がないとなるとパーティを組み辛いと思います。」

率直にダメ出しをされて、少し傷ついたが当たり前だ。私は平凡なサラリーマンだ。

そんなものあるはずがなかろう。


「ですが、あなたはのタレントは言語理解と幸運ですよね。これは、もしかしたら……。」

そう言うと、アリシアはさらに奥の部屋へと案内する。


扉を開けた先には、鉄の檻に入った青白い液体状の目玉がついた生物が目玉を

ギョロギョロと動かしてして蠢いていた。


「こっこの生物は一体!?」

私は、見たこともない生物に驚いた。


「ええ、スライムです。このギルドでは魔物を生きたまま捉えて研究所へと送るので、ここで冒険者達が生け捕りにした魔物を一時的に保管しているのです。」

アリシアは淡々と答える。


「こっこれが、スライム……。」

蠢くスライムはこちらをみて警戒しているのか体をぷるぷると震わせいる。


『人間めっ!こんな檻にとじこめて!さっさと出せ!』


スライムの方から声が聞こえてくる。というかスライムが喋っている。


「そう言われても困る。君は魔物だろう?」

私はスライムに問う。


『うるさい~!早く出せ!早くだせ!』


「ん~どうしたものか……。」


「あっあの、もしかしてスライムと会話されているのですか?」

先ほどまで淡々と事務的だったアリシアが目をキラキラと輝かせて話しかけてくる。


「ええ、まぁ。早く出せと言っていますよ。」

私は、何をそんなに嬉しいのだろうと思いながら答えた。


「すっすごい!これは逸材だわ~!」

アリシアは先ほどとうって変わって、人が変わったように喜んでいる。


「たつおさん!あなたは魔物使いモンスターテイマーの素質があります!だって私にはこのスライムピギィッ、ピギィッとしか聞こえないんですよ!」

アリシアは急に熱を入れて語り始めた。


どうやらこの世界では、平和な世になり魔物モンスター達の研究も盛んにおこなわれているらしく。

魔物モンスター生態研究所なるものもあり、そこでは日夜魔物の生態調査や素材の収集をおこなっているということだ。

彼女、アリシアの父はその研究所の職員で、職員たちを束ねる立場らしく

彼女自身も魔物モンスターに興味があり、日中はギルドで働き夜は研究をしているらしい。


「すごいっ、これはすごいわぁ~、受付嬢なんて疲れる事務仕事ばかりで態度のでかい冒険者達を相手にするだけで疲れるし、夜の研究は中々進展がなくてストレスが溜まるし――――。」

早口で、感動や愚痴を延々と言い始めるアリシア。止めなければ止まらなさそうだ。


「アリシアさん、すまない。私はどうなるんだ?」

私は独り言を呟き続けるアリシアに尋ねる。


「あぁ、コホンッ、すみませんたつお様。取り乱しました。」

呼び方が様付けになっている。私の呼びかけにやっと冷静さを取り戻したようだ。


「結論から言いますと、たつお様。あなたはギルド始まって以来の逸材です。このスライムともう少し会話をしてみてください。あとこれをお渡しします。もしそのスライムが気を許したなと思ったらこちらを食べさてください。」


彼女はそう言うと、黒い飴玉のようなものを私に手渡した。


「これは?」

私は、不思議に思いながらもそれを受け取る。

「ふふっ、今は秘密です。とりあえず、スライムにもう一度話しかけてください。」


私は、もう一度スライムの方を向く。


「スライムくん、君は人間が嫌いかい?」

私は、怯えているであろうスライムに優しく声を掛ける。


『ピギィ!人間なんて嫌いだ!僕たちをみるなり襲い掛かってくる!

僕の仲間は、たくさん人間に殺された!!嫌いだ!』

スライムはぷるぷると震えながら答える。


「ふむ、そうか……それは大変すまない事をした。」

私は、深々とお辞儀をしながら謝罪の弁を伝える。


『ぴぎ?なんで人間あやまる?変なやつだ?』

スライムは驚いた様子で答える。


「ははっ、すまない。君たちだって必死に生きている。それを勝手に魔物だからといって狩っているなんて……なんか申し訳なく思ってな。」

私は、本心からそう思った。スライムはお世辞にも強そうには見えない。

きっと、冒険者だけではなく街の人々ですらスライムを脅威には感じていないのだろう。


『ぴぎぃ?変なやつだ!おい変な人間!おなかがすいた!何か食べさせろ!』

先ほどよりスライムに警戒心がなくなったのがわかる。お腹が空いているのか

食べ物を要求してきた。

私は先ほど、渡された飴玉のようなものをスライムに渡してみることにした。


「これでもいいかい?」

噛みつかれないか不安だが、私は恐る恐るそれをスライムに近づける。


『ピギィ!旨そうな匂いがする!』

それをスライムはうねうねとした液体状の触手のようなもので受け取る。

スライムの体の中にその飴玉のようなものが取り込まれていく。

それは、目から見ても分かる彼の透き通った体のなかで小さな泡を立てて

消えていった。

『あ~旨かった!』

スライムは満足そうに言う。


その様子を後ろから眺めていた、アリシアは感動した様子でこちらに声を掛けてくる。

「素晴らしい、成功した!お父さん成功したよ!」

物凄い喜びようである。


「どうしたんです?アリシアさん。」

私は尋ねる。


「その飴玉、研究所で研究していたものなんです。手に触れた人間のマナと魔物のマナを繋げる飴玉です。たつお様は今、そのスライムと繋がっているのです!成功です!初めて成功しました!」

その喜びようは凄まじかった。先ほどの塩対応とは打って変わって年相応の若い女性らしい印象へと変わった。


「それは?つまりどういう事ですか?」


「つまりは、そのスライムと契約したようなものです!」


要約すると、研究は盛んにおこなわれていたが、魔物と会話したりその魔物を使役するような人物は今までおらず。悉く失敗に終わっていたそうだ。


『ピギィ!たつお!たつお!早くだせ!』

後でスライムが出せと言ってくる。私の名前を呼びながら


「なぜ?私の名を?」

私は、困惑した。


『ピギィ!たつお!なかま!たつおの力になる!』

スライムは私を仲間と認識しているみたいだ。


「ははっ、それは心強いな……。スライムくん。」

私は、どうやらスライムに懐かれたようだ。


「たつお様、そのスライムに名前を与えてください。そしたら契約が完了します。」

アリシアは私にそう告げる。


「なるほど、名前かぁ……。名前な……。スライムだからスラ助でどうだ?」

安直だが、中々可愛げのある名だとおもう。


『スラ助!ナマエ、スラ助!』

うねうねと動きながら喜んでいる。どうやら気に入ってくれたみたいだ。

スライムの体が白く発光する。私の右手も白く発光する。


「すごい、やっぱりたつお様は逸材だわ……。」


私の右手の甲には白い印が刻まれている。


「これは……。」


「それが契約印です。強制的に魔物を使役しているテイマーはいますが、心を通わせて契約したのはきっとたつお様が初めてです。」

嬉しそうに語るアリシア。


どうやら私は、スライムとお友達になったようだ。









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