第15話 中級冒険者、エルフのガラハド①

私の名は、ガラハド。


齢100歳のまだまだ若造のエルフだ。


エルフ族は長命だが、子孫を増やす力が弱い。


私のような若輩者は、まだエルフ族の女性からしたら経験不足。

相手にもされない。


そんな暮らしに、耐えきれず私は住んでいた北の果ての大森林エルフの国から飛び出して冒険者となった。



エルフ族は、マナを操り精霊や妖精と対話することが出来る稀有けうな存在だ。

また、弓術にも長けており、攻守共こうしゅともに活躍できるので冒険者達からも重宝ちょうほうされるはずだったのだが……


「ふむ、うまくいかないものだ……」

私は一人、街道の真ん中でぼやく。


残念なことに来るもの拒まず冒険者ギルド。

パーティを募集してもエルフだという理由だけで断われ続けて来た。


やはり、エルフ国と人間国の戦争が原因であろう。


魔王討伐から200年の世の中は平和になった。


だがしかし、平和の世だからこそ今度は土地の利権や貿易を巡って国同士の争いが起きてしまったのである。


50年ほど前の出来事だ―――


私が、冒険者になったのはつい10年ほど前の話。


1人で稼ぎ続けた結果。見事に中級冒険者の中でも数が少ないと言われる銀級まで昇格した。


1人にはそろそろ限界がある、私もパーティを組んで冒険に出たいものだ。


今回の任務は聖都せいとから、街道沿いに真っ直ぐにいった先にある村である。


その村の村長とは顔見知りだ。

街道沿いにゴブリンが現れて困っているとのことで酒を奢ってもらう約束のみで引き受けた。


もちろん、村長はギルドに必死に掛け合ったがゴブリン退治は相場が安く冒険者達はあまり引き受けたがらない。困り果てていた時に、私の噂を耳にしたらしい。


「新米冒険者が、一人ソロで銀級になってるとは思ってもいなかっただろうな……。」


普通の冒険者ならこんな任務引き受けない。

だが、自分が路頭に迷っているときに助けてもらった恩がある。

エルフだからという理由で差別もされなかった。

そんな彼だからこそ助けになろうと思えたのだ。


「これは恩返しだ、きっと良いことがある。」


ここ最近、生活も荒れ果て堕落の一途を辿っていた。

酒に溺れ、女に嵌り。

稼いだ金は酒と女に消えていった。

一人の限界だ、ただただ孤独だったのだ。


「このままでは、良くはないな……」

私は、街道を歩きながら呟く。


村に近づくにつれ、道は整備されておらず凸凹でこぼことした道になっていく

歩く度に小石に躓き足をとられそうになる。


考えながら歩くのはやめておこう――


そう思考していた時である。


強い魔力マナの力を感じた―――


何もないはずの街道にゆがみを感じる。


魔物ではない、空間自体がひずんでいる。


何か来る――


私は数百歩先を見る。景色が切り取られたように切り目ができているのが

はっきりわかる。


切れ目はどんどん大きくなり、その裂け目から、

人とがもの凄い勢いで飛び出してきた。


「うぉおぉぉぉッ――!!!!」


若い小僧の声、凄まじい叫び声だ。鬼気迫るものを感じる。


「やばいッ―――これッ―――やばいやつだぁあぁぁぁ!!!」


奇っ怪な馬は、もの凄い勢いでこちらに向かってくる。


一人用の馬車か何かか?

生物でないことはたしかだ。

乗っているのは人のようだが―――

どうやらあの馬は鉄でできているようだ。

ふむ、迷い人か……。


私は鑑定眼かんていがんで観察する。


鑑定眼とはステータスや構成している物質など見ることが出来る。

熟練度じゅくれんどによって、見れるものが変わって来る。

私の鑑定眼はランクでは一級だ。

大抵のものを見ることができる。

これをタレントと言う。この世界に生きる人々の半数以上は生まれ持って

特殊な能力を授かる。1級から5級まで定義されており、その上には特級は

というものもあるらしい。



「だっだれか――――助けてくれぇぇえぇぇえぇ!!!」


どうやら小僧は助けを求めているようだ。

たしかに、このままでは私も巻き添えを食らってしまう。

私は、右手を天にかざす。

大気に満ちているマナを集めるためだ。


「うわぁああぁあぁ、エルフだ生エルフだぁあぁ!」

よっぽどエルフが見れて嬉しいのだろう、恐怖の声と歓喜の声が入り混じっている。だが、今は集中させてほしい。


「安心しろ、小僧!!」


"大地よ風よ、風の精霊たちよ!我が名はガラハド。力を貸し与えたまえ!"

私は、念じる。

私の身体の周りにいる目に見えない風の精霊が力を貸してくれる。

風の流れを感じる。やわらかく温かい風だ。心地よい。

手に取るように、風を感じることができる。

風と身体が一体になるような感覚。

これで、こまかく風を操ることができる。


「ウィンドウ!!!!」

右手を小僧のいる方へ向ける。


私の右手に手集約された風を操る。

一直線に風が形をもって吹き荒れる。

小僧は宙に浮かんでいく


馬はまだこちらに一直線に向かってくる。危ないので、そちらにも風を向け大岩へと向かうようにした。


ガシャンと鈍い音と共に岩に衝突し、馬は動きを止めた。


宙に浮かぶ小僧は、衝突して止まった馬を見て驚いていた。少し悲しそうな目をしている。よっぽど大事なものなのだろう。


「たっ助かったぁ~~~~」


だが、命があることに安心したのかほっとしているようだ。


「うむ、面妖なやつ。あの鉄の馬といい……迷い人か?」


私は思考していた事が口に出ていた。


「あっあの~そろそろ降ろしてもらえますかぁ~」


小僧は、まだ宙に浮きっぱなしだ。


「おっと、すまない。」

私はゆっくりと彼をおろしていく


「あっあの、ありがとうございます!助かりました!」

地に足が着いた瞬間、目をキラキラと輝かせて子犬のように走り寄って来る。


「うむ、危ない所だったな……。とりあえず助かって良かった。」

迷い人とは言え、人だ久しぶりの人に好意を向けられることに慣れてなく

私は、恥ずかしかった。


「ええ、助かりました!あのぉ~エルフですよね?エルフさんですよね!」

笑顔が眩しい。眩しすぎるほどに好意を向けられる。

エルフとは直感が鋭く人の善悪が分かるのものなのだ。

向けられているのが明らかに好意であることは間違いない。


「あっああ、私はエルフで間違いないぞ。だがしかし……いやだからか……。」

言葉に詰まる。


「どっどうかしましたか?」

子犬のような目で、うるうるとこちらを心配してくる小僧。


「いや、君が迷い人だからなのだろうな……人族ひとぞくはあまりエルフを好まない。何しろ国同士が今、敵対しているからな。だから……その新鮮だったのだ。」


穴があったら入りたい。私は今、ものすごく恥ずかしく緊張している。

慣れない、人との邂逅かいこうにどうしていいか分からないのだ。


「いやぁ~本当助かりました!迷い人って事はここは別な世界ですか!」

嬉しそうに会話を続けてくる。どうやら聞きたいことが山ほどあるようだな。

しばらく、付き合ってやることにしよう。


「うむ、まぁ迷い人からみたらそうなるかな?」


「異世界!まじで異世界だぁー!異世界キタ――――――ッ!!!!!!」


物凄い喜びようである。イセカイキターという呪文はよくわからないが……。










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