◆魔物編 

第8話 仄暗いダンジョンの奥底で…①

われ産声うぶごえを上げたのはこの時であった。

暗く、じめじめとして、何もない洞窟にポツリと

ただ気が付いたらそこに存在していた。

手には赤い宝珠ほうじゅの杖。頭の中で声が聞こえてくる。


”ダンジョンマスターよ、


我はその言葉に従わなければならない。

我の存在はそのためにある。

何者でもない我はこの瞬間、として

産声うぶごえをあげたのであった。


”勇者を滅し、となれ…”


再び声が頭に響く…


目の前の瓦礫がれきの山を見て我は思考した。


「形から入るがよかろう…」


我は、瓦礫から集めたガラクタを組み合わせ、継ぎ接ぎつぎはぎだらけの王冠おうかんを作った。


、王冠を頭に被っている、何故か我にはそう思えたのだ。

そして、薄暗い洞窟の奥で我は一人呟く、声に意志を込めて


「さぁ、勇者よ掛かってくるがよい…、我の力見せてやろうぞ!」



「ふむ、殺風景さっぷうけいな洞窟だ…。」

我は一人、洞窟ダンジョンを見て回っている。ただただ、暗くじめじめしていて

正直居心地いごこちがいいとは思えぬ。


「まずは、一人では何もできぬ…。はてどうしたものか?」

首をかしげながら思考してると、頭に声が響く。


"祭壇を洞窟の奥に用意した。そこで"


「うむっ、神の声に従うのが定石じょうせきであろう。」

我は、きびすを返す。


「ほぅ、これはまた……。」

洞窟の奥は我が生まれ出た場所。そこには立派な祭壇さいだんが出来上がっていた。

「これは、人の頭の骨かなにかか?」

我がそれに触れた瞬間。頭の中でまた声が響く


"マナを捧げよ……。さすれば力になろう"


「ほぅ、神よ。とは何ぞや?」


"マナとは根源、溢れ出る魔の根源たるものである"


「しかれば、どうせよとおっしゃる?」


"ふむ、今回は特別に与えよう……”

神の声は少し困った様子で答えた。


「おおっ、身体に力が漲る!これがマナというものか!」


"このダンジョンは、魔素であふれている"


「ふむ、なるほど……もっと詳しく教えをいたい。」


"つまり、……魔物を召喚したくわえよ…"


「歩き回るだけで良いのか?先ほども歩き回ったのだが?」

我は先ほども、この何もない洞窟を歩いて回ってみた。

だが、マナを感じることはなかった。


"物事には順序じゅんじょがある…、この祭壇はマナを増幅ぞうふくさせる力がある"


「なるほど合点がてんがいった。つまり今この時からそれをせと?」


"そうだ…、ダンジョンマスターよ…今この時から動き出せ"

神の声は少しイラついた様子であった。どうやら順序というのを

守らなかった我に原因があるのであろうな。


「ふむ、承知した。」


"では、今触れている髑髏どくろに願え…召喚すると……"


「我、召喚する。」


目の前の髑髏が青い炎をあげ燃え始める。

「おおっ、熱くみえるが熱くないぞ。」

不思議とその炎は触れていても熱くはなかった。


炎が消え、祭壇の周りに目をやると何やらうごめいている。


「ふむ、何やら奇怪きっかいな生き物がいるな……。」


"スライムだ、おまけでもう一匹つけといてやる…。"


「ほぅ、こやつがスライム…。」


我の目の前に、ギョロッとした目玉を左右に動かしながら蠢く二匹の

スライムが現れた。


「どれ、触ってみよう…。」


感触は柔らかく、我の指を弾くぷよぷよとしており、指を離すと

指には粘々した粘着液体ねんちゃくえきたいがまとわりつく。


「うむ、今後触るのは控えておこう…。」

我は指を身にまとうローブで拭う。


"そやつらを良く使い。ダンジョンを完成させよ……"


「うむ、おおよそ理解した。」

これから、ダンジョン内を歩き回ったり召喚したりして、何もないダンジョンをダンジョンたらしめろと言う事のようだ。








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