第13話 巻き込まれた男、達男③

私の名前は鈴木達男、何やら陰謀いんぼうに巻き込まれた


平凡な中年サラリーマンだ。




「迷い人――――?」


日本人ぽい男はそう尋ねてきた。

まったく意味が分からないので、意味を聞いてみることにした。


「あっあの、大変申し訳ないのですが……まっ迷い人とは何ですか?」

緊張で喉がカラカラに干上ひあがる。言葉もしどろもどろになった。


「あぁ~、うん何ていうかなぁ~えーと」


どう答えようか悩んでいるようだ。そんな姿に見かねたのか

奥でそっぽを向いていた剣をたずさえた男が寄って来て言う。


「別な世界からやってきた人間の事だッ!」

威圧的いあつてきな声で答えてきたため、年下の上司にしかられている気分になる。


「そうそう、そう言いたかったんだ!」


「ふんっ、俺も酒場で聞いたことが少しあったからな!」

そう言って、剣を携えた男がにじり寄って来る。


「なっなにか……?」


であろう男に私はたじたじだ。


「助けてやるよ―――おじさん!」


彼はニコニコとしながら肩を力いっぱい叩く。絶対体育会系だ……。


「はははっ、何が何やら…………。」



私の名前は鈴木達男、どうやらに巻き込まれたらしい


さらば平々凡々なサラリーマン生活よ……


今、強引に助けられひきずられ近くの村の酒場で酒を奢ってもらっている。


聖都と呼ばれる国の酒場に引きずられる形で、やってきた。

酒場、ガヤガヤとしており大盛況のようだ。

明らかに、ヤクザのような風体ふうていをした輩や

剣や杖などをを持ったファンタジーな服装の男女。

そう例えるなら、コスプレ大会が繰り広げられている。

そんな感想だ。



「まぁ、飲めよ!おじさん!」


「あっ有難く頂戴致します。」

私は木のジョッキに並々に注がれたビールエールを飲む。

ぬるくてお世辞にも美味しいとは思えないが酒は酒だ。

真昼間から酒を飲むという背徳的行為はいとくてきこうい

私は、サラリーマン人生では中々味わう事の出来ないその行為にえつひた

気が付いたら、になっていた。


「おっ、いい飲みっぷりだな!おじさん!―――マスターおかわりくれ!」

剣を携えた男は、そう言うと満足そうにおかわりを頼む。


「おっ……おじさんではないッ!鈴木達男すずきたつお、丸一商事のサラリーマンだッ!せめて名前で呼べッ!!!」

気が付いたら、声を荒げていた。日々のストレス、異世界でのストレスが酒の力を借りて解放された。


「おっ、威勢いせいがいいねぇ……。たつおさんでいいか?俺はアリエナイ。仲間たちからはアリって呼ばれている。よろしくなッ!」

そう言うと、アリは握手を求めてくる。私はそれに答える。


「すまない、熱くなった。よろしく頼む。アリくん。」

掛けている眼鏡を外し、私はスーツの袖でおもむろに眼鏡をふき取り始める。

利き手の右袖はない。

冷静クールさに欠けていた。相手は明らかに年下だ。猛省もうせいだ。


「おっ、なんかいい感じだね~、たつおさ~ん!俺の名前はミツルギって言うんだ!

!よろしくなッ!」


日本人ぽい男、ミツルギが続けて言う。


「ああ、ミツルギくんよろしく頼む。」

ミツルギと言う名前も日本ぽさがあり、親近感しんきんかん

彼の着ている服も、歴史の教科書などで見た蝦夷えぞのものに酷似こくじしているのが、それに拍車はくしゃをかけている。


「そうそう、迷い人ってのはから迷い込んできた人たちの事を言うんだよ。」

ミツルギは、突拍子もない事を伝えてきた。

やはり、これは夢ではなく……現実に起きた事実だったのかと再認識させられた。


「まぁ、俺も初めて見たからびっくりしたがな……噂程度でしか知らなかったが

実際に、こうも変な格好のたつおさんを見ると信じざる負えないな。」

スーツはこの世界では、異物のようだ。


「まぁ、迷い人が俺のご先祖みたいだから俺はすんなり受け入れたけどな。」

ミツルギはさらっと、驚きを与えてくれる。彼の身なり顔立ちから想像はしていたが彼は私と同じ日本人の血が流れているので間違いないだろう。


「そういや飲み代は足りるのか~アリ?」

唐突に、飲み代の心配をしているミツルギ、彼の周りにはジョッキの山が積まれていた。いつの間にあんな量を飲んでいたのだろうか?


「はははっ!この間の、コボルト討伐でかなりの額を貰ったし、ミツルギと違って俺は無駄遣むだづかいはせんからな!まぁ、今回はたつおさんにめんじて奢りだ!」


二人は笑いあいながら、コボルトの話をしていた。

少し置いてきぼりになってしまって寂しさが募る。


「ははっ、ごめん……おっと置いてきぼりになってたな。たつおさんすまん。」

察してくれたのか、アリがこちらに話を戻してくれた。


「いやいや、お気遣いなく……。お二人は冒険者というものなのですね?」

先ほどの話に聞き耳立てていたため、おおよその話が分かった。

どうやらこの世界では、冒険者というものが魔物を倒す事により報酬が

もらえるらしい。


「そうそう、たつおさんにもこれからの事を話しておかないといけない。」

急に真剣な目になるアリ。

「うんうん、そうだね。大事な事だからね。」

それに呼応こおうする形でミツルギも頷く。


「結論から話す……。たつおさん、冒険者?」



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