第3話 勇者誕生!②
僕の名前は、クン・ディ・ツォ。
村の皆からはクンとかクンツォと呼ばれている。
夢で
手の甲に勇者の赤い印が浮かび上がっていた!?
戦士のリョウくんと共にもう一人の幼馴染である魔法使いのミンちゃんの
工房である家に向かう所なんだ!
◇
ミンちゃんの家は、村の中心にある村長の家と雑貨屋の間を真っすぐ行った所にある。レンガ造りの家だ。壁は真っ白に塗られている。漆喰という海のサンゴ礁を加工
している物らしい。この村では珍しい造りの家だからすごく目立っている。
『ラブリー♡ミンの魔法工房』
入口のプレートにはそう書かれている。
「毎回、思うがどこがラブリーなんだかなッ!」
リョウくんは腕組しながら、イライラしているのか語尾が荒い。
「えっ、いいんじゃない?僕は、ミンちゃんぽいなぁ~って思うけどなぁ?」
「ねっ、でしょクンは分かってくれるわぁ~」
「うわぁッ!?ミンちゃん!!!」
僕の後ろには、気が付いたらミンちゃんがいた。
距離が近い。物凄く距離が近い。
「ク~ン、私に会いに来てくれたの???嬉しいぃ~!」
後から抱きつかれる。ふわっといい匂いがする。背中にはふよふよと
柔らかい感触が伝わる。
「クンッ、クンクンくんッ!あぁ~クン成分を摂取中。」
滅茶苦茶、首筋の匂いを嗅がれている。
「おいッ…!」
リョウくんがミンちゃんに声を掛ける。無視。
「クンクンくん……クンクンくん…。」
僕はなおも匂いを嗅がれる。
「おいッ!この残念変態魔法使いッ!!!」
ぼろくそに暴言を吐くリョウくん。これには流石にミンちゃんも反応する。
「はぁ~?誰に向かって口きいてんだこの馬鹿犬?」
「あん?やんのか?」
バチバチと火花が散る。腕組をした二人はお互いににらみ合いながら
じりじりとにじり寄っていく
「ちょ…ちょっと二人とも止めてよぉ」
「前から思ってたんだけどよッ!お前、俺とクンの扱い違いすぎるだろ!?」
「はぁ?クンは可愛いし、クンはかっこいいし!あんたみたいな男と比べられちゃ私が困るんだけど?」
二人の罵詈雑言の嵐はやまなかった…。
◇
しばらくして、二人も言い争いに疲れたのかその場にへたり込む。
小一時間は、言い争っていた。よくもあんなにお互いの事を言い合える。
「ねぇ、そろそろ落ち着いたし本題に入ってもいいかな?」
「えぇ…ごめんね。クン…。中でお茶でも用意して待ってるから勝手に入ってきてて…。」
ミンちゃんはそういうと立ち上がり、工房の中に入っていた。
「リョウくんも落ち着いた?」
「あぁ……、すまない。最近あいつに対しても鬱憤が溜まっていたみたいだ。迷惑かけた。もう大丈夫だ……。」
僕は、リョウくんの手をとって立ち上がるのを手伝った。
「ありがとう、クン。」
◇
工房の中に入る。お茶のいい香りが鼻をくすぐる。
「ごめんねっ!散らかってるけどそこの椅子に座って待っててすぐお茶入れるから!」
僕とリョウくんは言われるがまま椅子に座る。
「お待たせ、今朝取り立ての薬草をブレンドしたの!味はお墨付きよ!」
香りは良いんだけど、色がどす黒い緑色の液体でカップを振ってみたら少しプルプルする。
「おいっ、クンこれは飲めるのか?」
「うん、飲めると思うよ。なんかスライムみたいだね。」
「げっ、やめろよ。俺がスライム嫌いなの知ってるだろう?考えたくもない。」
小声でひそひそと、喋る。聞かれるとまたミンちゃんの機嫌を損ないかねない。
「茶菓子もあるから、一緒に食べよう~クン!」
形は歪だが、きっとクッキーか何かだろう黒い塊が乗った皿を持ってくる。
「おっ……美味しそうだね…。頂きます。」
何か言われる前に僕はそれを手に取って食べた。
カリッと音を立てて、口の中で咀嚼する。
香ばしくて甘い。甘すぎずほろ苦さがあり
総評としては、意外と美味しくてびっくりした。
僕がびっくりしながらも美味しそうに食べている様子をみて
リョウくんも手を伸ばす。
「おっ、意外に旨いな…これ!」
「意外は余計だけど、まぁ、ありがとう。」
机に腕を乗せながら、少し拗ねた感じでミンちゃんが言う。
「もぐもぐ、あのね…。話があるんだよ…んぐっ」
「も~こらこら、食べながら話さない。口元汚れてるよ~クン!」
ハンカチで口元を拭われる。
「ゴクゴクッ、美味しいねこのお茶。」
どす黒く緑色のプルプルした液体を飲む。飲んだ瞬間に口の中でさらさらと溶けて
喉越しがいい飲み物に変化した。不思議なお茶だ。
「あのね、これを見て欲しいんだ。」
僕は、右手の甲を机の上に見えるように乗せる。
「なにこれ?落書きでもしたの?クン?」
不思議そうな顔をして、ミンちゃんが覗き込んでくる。
「ん?これ何か昔読んだ絵本に出てくる勇者の印じゃねぇか?彫ったのか?」
リョウ君には自分で、彫ったと勘違いされる始末。
「ちっ……ちがうよぉ!これ朝起きたら浮かび上がってたんだよぉ~」
「えっ!?」
「なっ!?」
二人とも、驚いた顔で言う。
「ちょっと待って、これ浮かび上がってきたの!?」
ミンちゃんは、椅子から立ち上がりバタバタと奥の部屋へと向かう。
「おっおい、これってまさか…。」
「うん、勇者の印じゃないかな……。」
「こうしちゃいられねぇ……俺、村長とこ行ってくる。」
そう言うとリョウくんは立ち上がって、走り出した。
リョウくんが飛び出したと同時に、ミンちゃんが戻って来る。
「あれ?バカはどこいったの?」
「なんか、村長の家行くって出て行った。」
「あちゃ~、もう遅いかぁ……。ねぇ、クンこれ見て欲しいの。」
奥くから一冊の古ぼけた本を取ってきたミンちゃん、タイトルは勇者の手引き、著者は聖勇者教会となっている。
「ナニコレ?ミンちゃん?」
「何って、勇者の手引きだよ?先代の魔法使いの先生が部屋に置きっぱなしにしてたの、これには書いてあるんだよ。勇者が誕生した時の手引きが……。」
ペラペラとページをめくり始める。
1:勇者の印が発現せし者はすみやかに報告せよ。
2:印を持つものは、聖勇者教会の僧侶と共に行動せよ。
3:王国の民の代表として、国王より称号を賜る事。
以上を持ってそのものを勇者と認める。
とんでもないことに、なりそうな予感が僕の中に生まれた。
「だっ…だいじょうぶなのかなぁ……。」
◇
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