◆勇者編-

第2話 勇者誕生!①

王国から遠く離れた地に、半魔はんまと呼ばれる人たちが暮らす。

小さな村があった。名もなき小さな村では、身体にマナを宿す人々が暮らしていた。

マナを宿す人間は、目が宝石のような淡い青色の目をして生まれてくる。

これは、そんな村で生まれたのお話。



子供の頃から、僕には憧れがある。


絵本に出てくる。勇者様だ。


右手の甲には勇者のルーン、高らかに掲げる剣にはマナが宿り。


人々の希望となり、魔を滅するべく立ち上がり


魔王を滅した、伝説の勇者。



僕の名前はクン・ディ・ツォ。幼馴染からはクンとかクンツォと呼ばれている。

遠い祖先は勇者の血筋らしい。本当かどうかは分からないけど……

鍛冶師のおじいちゃんと一緒にこの村で過ごしている。

何もない村だけど、すんごくいい村だと僕は思ってるんだ!


「おじいちゃん、これ貰っていい?」

「おお、ええぞ、なんじゃそんなガラクタが欲しいんか?」

ここは、僕の家の工房。工房の隅には山積みになったガラクタや魔物の素材が

置いてある。


「うん、これで自分のフェイスガードを作ろうと思ってね!」

このトラバサミは、冒険者が罠に嵌ってしまった所をおじいちゃんが助けた際に

もらったものだ。もちろん罠を外した代金ももらっている。


「ほぅ、また変なものを欲しがるのぉ~」


「このトゲトゲした感じがカッコよくないかな!」


「人の感性とは、様々じゃ…好きにするがよい。」

おじいちゃんは、そう言うと工房の奥の方で作業を始める。

僕も、おじいちゃんの横でもらったトラバサミを加工して装備にすることにした。


「ほぅ、さまになってきておるの~。」

「おじいちゃんほどじゃないよ!」


二人で仲良く、ハンマーを振るう。

で鉄をあぶり、熱い鉄を冷ましながらまた鉄を打つ

少しづつ形が変化していく事に僕は達成感を感じていた。


昔から、祖父の近くで鍛冶を見てきた。

いつの間にか、見よう見まねで武器や防具を作れるようになった。

これはちょっとした僕の自慢だ。


いつか、形からでもいいけど立派な装備を自分で作って、ダンジョンに行ってみたい。それが僕の小さくてささやかな夢だ。


「でも……、一人では不安だなぁ~。」



 夢を見た―――


『世界の危機が迫っています。勇者よ目覚めなさい―――』


誰かが僕に語り掛けてくる。

眩しくて白い世界。見渡す景色全てが白におおわれている。

ぼやけて輪郭りんかくなどははっきりとしないが、白い衣服には色とりどりで

細かな花の刺繍ししゅう。声と顔立ちから察するに女性である。

その神々しささえ感じる美しさに僕は目を奪われた。

そして、背中には大きな白い羽がついている。


そう、例えるなら。いや、女神に違いない。


「女神さま…なんですか?一体、僕に何を……。」


僕が女神に答えを聞こうと尋ねた瞬間。世界は暗転し暗闇になる。

そして、僕は地面に叩きつけられた。


「いててっ……。」


僕は、ベッドから落ちて頭を打っていた。

小鳥のさえずり、まぶしい光が窓から差し込んでくる。

うつらうつらしながらも、僕は目を覚ました。


辺りを見渡す。

いつもと変わらない部屋。

部屋の隅にはガラクタの山、ベッドの横にある作業机には昨日完成した。

フェイスガードが置いてある。

今見ていたのが夢であることは分かった。


「僕が、勇者かぁ……」


妙にリアルな夢だった。女神の顔は分からなかったがはっきりと声が

聞き取れたし、何よりも夢とは思えないほど現実的だった。


「やけに現実的な、夢だなぁ……。」


僕は、顔を洗おうと部屋を出た。二階の部屋から階段を下りて玄関から外に出る。

外履きを履き、庭の中にある井戸まで来た。

滑車かっしゃから紐を引っ張り木のおけに水を入れる。

引き上げた水で顔を洗おうと水面を見た。水面は波紋を描き揺らいでいる。

僕は右手の甲に、子供の頃見た勇者の絵本と赤い同じルーンが浮かび上がっている事に

気が付いた。


「ふぇっ……なんだッこれ!」

僕は、すっとんきょうな声をあげ驚いた。

腰が抜けて僕は、地面にへたり込む。


……よね?」


右の頬をつねってみる。痛い。現実だ。


「現実だ…僕、勇者になったのかな?」


現実味がない、とりあえず誰かに相談してみよう。

僕は、立ち上がり尻もちをついて痛めたお尻を撫でながら幼馴染である

戦士の家に向かうことにした。一人で悩んでいても解決はしない。

こういう時は、頼れる友を頼る。


僕の家は小高い丘の上にある。村の中でも外れに位置している。

おかげで昼夜問わず、ハンマーで作業をしていても騒音の苦情をもらわないわけだ。

戦士の家は、村の中央に続くこの長い一本道を下り真ん中に立つ大きな樹木から二股に分れた道を右に曲がった先にある。

家は、代々木こりを生業にしており、家も木の丸太で組まれた家だ。

外には斧が放置されており、作業台の横にはさっき伐ったであろう薪が

綺麗に積まれている。

家の真ん中に備え付けられている。レンガ造りの煙突からはモクモクと

白い煙がでている。微かに香る匂いから察するに昼食の準備でもしているのだろう。

家の目の前には簡素な造りの木製扉。木の枠に使われている装飾は僕が作ったんだった。懐かしいなぁ。


「リョウくん?いる?」

扉をトントンと叩く、小気味良こきみよい音が鳴る。

中から、女性の声が聞こえてくる。


「はぃ、ゴホッゴホッ。ちょっと待って下さい……。」

扉が開く、戦士の妹さんだ。

病弱で普段は寝たきりのはずなんだけど

今日はいつもより顔色も良いようだ。


「だっ大丈夫?リョウくんは?」


「兄ですか……魔法使いさんの所に薬を取りにいってますよ。」


彼女名前は、ガ・シュンカ。僕の一つ下の女の子。

兄の名前はリョウ。僕の幼馴染だ。

彼女が頭に被っている犬耳のフード。

動くたびに左右にひょこひょこ動く。

実は僕が頼まれて、コボルトの素材から作った特注品だ。


長いまつげにクリクリとした大きい目、白い肌。

弱弱しいが可憐かれんな少女だ。

だが今は、目元には隈が出来ており。身体もやせ細っている。

昔は、活発で村でも有名な美少女だった。

よく魔法使いと喧嘩をしていたのも懐かしい思い出だ。


今から数年前、村にポイズンスライムが入り込み彼女を襲った。

ポイズンスライムの毒は中和する事ができたが、毒素は身体に

残り続け今も、薬でなんとか抑えている。治癒する方法は未だに

見つかっていない。


「立ち上がって大丈夫なの?ベッドまで運ぶよ?」


僕は心配で、彼女にそう声を掛ける。


「大丈夫、クンくん。今日は気分が良いから外に出てみたかったから……。」

彼女は、大丈夫とは言ってはいるものの、足元はおぼつかない。


「じゃあ、そこのベンチまで支えるよ。」


外の庭にある。木製のベンチ。これも僕が作った物だ。

僕は、シュンカを支えながらベンチに座らせる。


「ありがとう…。クンくん。兄に用があるなら、私は大丈夫だから行ってきてね。」


少し考えたが、このまま放置する方が、しまいかねない。

僕は、一緒に付き添ってあげることを選んだ。


「うん、そうしたいけど僕も隣いいかな?天気も良いし久しぶりにお喋りしよう。」


僕は、シュンカちゃんと何気ない会話をした。昨日作ったフェイスガードの話とか

まだ、彼女には勇者の話はせておいた。



しばらく、彼女と話していると遠くから僕を呼ぶ声が聞こえてきた。

呼ぶ声が聞こえる方へ、目を向けるとそこには、全力で走って向かってくる

戦士の姿があった。

さらに鬼気迫ききせまる勢いでさらにスピードを上げて走って来る。


「おぉーい、どういうことだぁ―――!なんでシュンカが外にでてるッ!!」

怒号と共に僕の目の前に彼は現れた。

ゼェゼェと荒い息を吐きながら、彼はいきなり僕の胸倉むなぐらを掴む。

背丈は僕より高く身体も大きいので、僕の足は浮いていた。

頭に被っている犬耳のフードには可愛らしい目玉もついているため

怒っている顔に似合わず、ちょっとシュールな絵面だ。


「お兄ちゃんッ!やめてッ!お話してただけなの!」


「はぁ!?おいクンッ!お前俺の妹に手を出したのか!!!」

彼は壮大そうだい勘違かんちがいをしている。

忘れてたわけではないけど、彼は極度のシスコンで妹の事になると

我を忘れて暴走してしまう。

このままでは、僕は顔中殴られて悲惨ひさんな事になるのが目に見える。

そして、犬耳フードは僕の特注品だ。真顔でコボルトの素材を持ってきて

『妹とお揃いで作りたい。犬耳は超絶。妹に似あう。俺はそれが見たい!』

と言ってきたのを走馬灯のように思い出した。


「リョ……リョウくん、落ち着いて落ち着いて……。」


勢いで殴られることを覚悟していた時。僕の後ろでちぢこまっていた彼女が

立ち上がる。


「お兄ちゃんッ!!!!」


病弱の少女とは思えない声量で兄を一喝いっかつする妹。


「はっ!はいッ!すみませんッ!!!」

彼は、その声に呼応して背筋をピシャッとして、僕を掴んでいた手を放す。


「もぅ……、クンくんは心配してベンチに座らせてくれたんだよ。私がわがまま言って外に出たいって言ったから……。」

呆れながら、彼女は言う。


「おっ…おう、すまない。クン…。頭に血がのぼちまって…つい。」

頭の後ろをボリボリとかきながら、ばつが悪そうに謝る。


「お兄ちゃん!しっかりクンくんに謝って!!!」


「はひぃッ!申し訳ございませんでしたッ!!!」

今度は、綺麗なお辞儀で謝られた。妹の前では彼は忠犬のようだ。


「いいよ、リョウくん。誤解が解けたなら。」

僕もこんな事に時間を費やしたくない。早く相談したいからだ。


「ああ、すまない。もしかして俺に用事があって来てたのか?」

察しだけはいいのが、彼のいい所でもある。


「そうだよ、ちょっとここでは話せないから二人でミンちゃんの所にいかない?」

僕はここで、嫌がるであろうが彼に提案する。


ミンちゃんは、僕のもう一人の幼馴染。魔法使いだ。


「なッ……、またあいつの所にいくのかぁ……。」

ため息をつきながら、肩をがっくしと下げる。

心なしか被り物の犬耳も垂れ下がっている気がする。


正直言うと、リョウくんとミンちゃんは仲が悪い。

理由は、簡単だ。ミンちゃんは何故かシュンカちゃんを敵視

していて、ことあるごとにリョウくんに嫌味を言うからだ。


『ふんッ、なんで私があんたの妹のために薬調合しないといけないのよッ!』


『あの寝たきりのために、あんたも大変ねッ!』


『お金?通常料金の二倍貰うわ?あんたも戦士なら腕で稼ぎなさいよッ!』


リョウくんは、いつも僕の前でミンちゃんの物真似をしながら愚痴ぐちを言ってくる。

だけど僕の前ではそんな事はないのになぁっていつも思って聞いてる。


でも村で、薬を調合できる唯一の魔法使いのため。

リョウくんも、無下にはできないのであろう。


「まぁ、ちょっと相談したいことがあるんだよ……リョウくんお願い。」


「うーんッ、うーん……はぁぁぁあああ。仕方ない行くか。」

頭を捻って唸り、大きなため息こそついたがついてきてくれるみたいだ。


「お兄ちゃん、クンくんに迷惑かけたらしばらく口聞かないから……。」

悩んでいるリョウくんの後ろで釘を刺す妹。


「クン殿、

リョウくんは見事に妹に飼いならされている。



















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