第6話 中級冒険者-アリエナイ-②
◇アリエナイ、村
俺の名前はアリエナイ。銀プレート持ちの中級冒険者。仲間たちからはアリと呼ばれている。
今、仲間のミツルギと共に真っ赤なマフラーを巻いたコボルトの討伐のため
近くの村に、情報収集にきていた。
王都を出て、ひたすら続く北の街道を抜けた先にコボルトが現れたであろう村がある。俺たちは途中まで、以前ミツルギが依頼を受けていた商人にタダで馬車に乗せてもらい。村の近くで降ろしてもらっていた。
「んで、ミツルギよ。村に来てどうすんだ?」
村に向かう道中俺は、尋ねた。
「とりあえず、酒でも飲もうぜ!村の酒場なら何か分かるだろ!」
ミツルギは、能天気なやつだ。どこに行っても酒を飲みたがる。
村まであと少しだ。粗雑な作りだが木で組まれた塀が見えてきた。
「まさかと思うが、酒を飲む金は……あるんだろうな?」
着いたら真っ先に酒場に向かう事は間違いないが、俺は確認した。
「アリ…すまんが奢ってくれ…こないだ道具使いすぎて金がないんだ。」
そういうと思ってはいたが、イラついたので俺は言う。
「じゃあ、報酬9割な!じゃねぇと奢らねぇぞ!」
「ファッ!勘弁してくれよぉ~今回の討伐用に煙幕買い足したんだぞ!」
逃げる気しかないなこいつ…、俺は内心そう思いながらもこいつの運の良さ
はお墨付きだ。なんせ不死身だからな。
コボルトに遭遇した時、俺の命も危ないかもしれない。
用心深く仲間思いのミツルギなら俺を置いて行くことはさすがにしないであろう。
なんせ、付き合いだけは長いからな。そこら辺は信頼している。
「ふっ、まぁお前次第だな…。とりあえず酒場で情報収集といくか!」
とりあえず、報酬の事は濁しておいてやることにした。
村の酒場は閑散としていた。
店内を見渡してみると、カウンターにはやつれた顔のマスターが一人。奥で棚の整理をしているの恰幅の良い給仕はおそらく妻かなにかだろう。だが、二人とも頬はやつれ顔色も悪い。整理されている棚にはボトルがあまり置いておらず所々、埃やクモの巣が張っている。お世辞にも衛生面は良いとはいえない。
店内には、客が一人。ポツリと奥のテーブルで食事をとっていた。
まぁ、昼間というのもあるが王都の酒場に比べたら天と地の差だ。
「おぉ、想像より閑散としてるなぁ~」
ミツルギは、思ったことをそのまま口にしていた。
「おいおい、やめとけ。口は災いの元だぞ。」
俺は、小声で注意した。これで相手が気分を害したら情報どころではないからだ。
「おっとすまねぇ、へへっ俺は酒が飲めれば良し良しっと」
悪びれもなく、舌を出しながら下品な笑いをする。
奢り酒ほど旨いものはない。が、奢るのは俺なんだがな。
俺はどこも空いてるため、マスターと話のしやすいカウンター席に座る事にした。
ミツルギも俺の横に座る。
「マスター、エールを二つくれ。あと何かつまみになるものあるか?朝から
何も食べてないから空きっ腹でよ」
「あぁ、干し肉と乾パンならありますよ。すみませんが、今あまり出せるものがないんです…。」
ビンゴだ――。
この店だけではない、村に入った雰囲気からも察する事ができたが村全体には
コボルト絡みの何かがある。
「ああ、干し肉だけで構わない。マスター、いつもここはこんな感じなのか?」
ばつが悪そうに、マスターは答える。
「ええ…まぁ…。ここ最近、村では収穫の時期を狙って狼達が作物を荒らす事が
増えましてね…。おかげで、冒険者を雇うお金もなく。この有り様です。」
大方、予想はしていたが魔物たちだけではなく狼の被害も大きくでているようだ。
「なるほどな、率直に聞くがコボルトは見たか?」
俺は、給仕が運んできた干し肉を食べながら聞く、肉は固く味も淡泊でお世辞にも旨いとは言えない。
横では、乾杯も待たずミツルギがエールをグビグビ飲んでいた。
「おいっ、ミツルギ!お前乾杯ぐらいしろよっ!」
「あっ、すまねぇ。目の前に酒があったらつい…」
俺はミツルギをどついた。人の金で飲むなら礼ぐらい尽くせ……。
その後、軽く乾杯をして再びマスターの方に顔を向ける。話を聞く。
「コボルトですか…?ええ、見かけてますよ。見たところお二方は冒険者ですね?
まさか、コボルトを討伐にこれたのですか?」
少し、驚いた様子でマスターは俺たちを見ている。
「ん?どうしてそんなに驚くんだ?お察しの通り、俺たちは冒険者だ。」
マスターは、不安そうな顔をしながら答える。
「おやめになったほうがいい。あのコボルトは、手には負えない。」
どうやら、まだ聞いたほうがいいことがありそうだ。
「詳しく、聞かせてくれないか?俺たちはそのコボルトに用があるんだ。」
俺はエールを飲み干した。
マスターの話では、国から懸賞金が掛けられている真っ赤なマフラーをしたコボルト目当てで、冒険者が集まり、一時は賑わっていたらしい。
だが、ことごとく返り討ちにされ、あるものは腕を失い。あるものは足を失い。
冒険者として二度と再起ができないほどの深手を負ってしまった者ばかりらしい。
ここ最近では、冒険者が訪ねてくることもなくなり。村は危機的状況になって
しまった。
「ミツルギ、お前このこと知ってただろう。」
情報通のミツルギが知らないはずはない。黙っていたのは俺がついてこないと思ったからだろう。
「あっ、バレちまったか……そうだよ。それで懸賞金が跳ね上がってんだよ。」
気が付いたら俺はミツルギを殴っていた。
俺たちは、酒場を後にした。ミツルギは俺に殴られ右の頬が赤く腫れていた。
マスターが言うにはコボルトに出くわして冒険者だったが、片腕を失い。
今、村で門兵をしているという男に話を聞いた方がいいと言われた。
木の柵で覆われた。門というには粗末な作りの村の入り口に腰を降ろして座している
一人の男に俺は声をかける。来た時は、その存在感のなさに気づかなかった。
「すまねぇ、門兵さん。俺はアリエナイ。冒険者だ。」
目は虚ろで、片腕で槍を持ってはいるが本当に元冒険者かと言われるぐらい彼には覇気がない。項垂れて、ずっと地面を見ている。地面にはアリが行列をなしており彼はその行列を眺めていた。
「あぁ…アリエナイ。聞いたことがある。王都で腕利きで有名な銀級冒険者さんだろう……。俺はしがない門兵さ。俺に何のようだ?」
彼は俯きながら、姿勢は一切変えず淡々と言う。
年齢は40代前半といったところか、髪はボサボサで清潔感はないが、顔には無数の傷がありそれなりの修羅場をくぐってきたことを窺わせる。
「コボルトだ、コボルトを討伐しに俺たちはきた。情報が欲しい。」
こういう奴には隠し事はせず、直球に聞くに限る。
門兵は、槍を手放し地面に置き、すっと手を出してくる。
要するに金を寄越せという事だ。
「ほらよ、これでいいか?」
俺は、布袋から金貨を一枚門兵へと渡す。
「おおっ、これでしばらくは酒が飲める。流石、銀級冒険者だ気前がいい!」
さっきまで虚ろだった目に、酒が飲めるというだけで生気が宿った。
酒の魔力とは恐ろしいものである。
下卑た笑みを浮かべながら門兵はこちらを向く
「でっ聞きたい話はなんだ?なんでも答えるぜ旦那!」
急に覇気が出てくる門兵。へへっと口を開きだらしなく涎を垂らしている。
間違いなく、正気ではない。
「あぁ…、真っ赤なマフラーをしたコボルトだ。」
まともな情報が得られるか、金貨を無駄にしたような気もしたがここはぐっと堪えた。
〇門兵の話
あれは、狼の群れに追われてる時だった。突如俺の前に真っ赤なマフラーを巻いた二足歩行の狼が現れて、いきなり俺の右腕を持っていきやがった。
しかも、言葉も喋れてな、拙い言葉だが「チガウ、オマエ、チガウ」
って言ってきたんだ。きっと俺を誰かと勘違いしたんだろうよ。
仲間が助けてくれて俺は何とか生き残れたが、真っ赤なマフラーを巻いた二足歩行の狼をみたら逃げた方がいいぜ…。
連れの狼達もコボルトと共に走り去っていったからな。きっと仲間だろうよ。
やつらは、村の外にある森を根城にしている。
へへっ、行くなら用心して行きな……。
片腕を失った門兵の話
俺は、門兵からあらかた話を聞いてその場を後にした。
どうやら森の狼たちを束ねているのは、そのコボルトのようだ。
「人語が喋れるコボルトか…。」
コボルトは、ほぼ狼と変わらないものだと思っていた。何度も討伐したことはあるが
人語を喋る個体には遭遇したことはない。
「おぉ~それがユニークモンスターってやつだろ?だから生態研究員のやつらが生け捕りにしろって言ってたのか!あいつら、魔物をモンスターって呼んで研究してるやばいやつらだけど、国営だから金だけはあるんだよなぁ~」
また、聞いてもいなかった事実を話すミツルギ。
「はぁ?生け捕り?」
「そうだよ、生け捕りは報酬二倍だぞ?こんな上手い話し乗るしかないだろう?」
うまく俺は、ミツルギに乗せられていたらしい。こいつはどんだけ隠してるんだ。
「アリエナイな…。」
「アリエールでしょ!」
ミツルギが調子良く、俺の独り言に突っ込んでくる。俺はミツルギの左の頬に
拳を叩き込む。両頬が赤く腫れあがったミツルギの完成である。
それだけで許してやっている俺の身にもなってほしい。
やはり報酬は9割だな。俺はそう心に誓った。
「とりあえず、今日は休んで明日から動くぞ。」
「ふぁぃ…。」
俺は、村の寂れた宿屋で一泊してから翌朝、討伐に向かうことにした。
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