◆中級冒険者編 

第5話 中級冒険者-アリエナイ-①

◇中級冒険者-アリエナイ-


「おーい、!こっちだ!」


ゴロツキや、冒険者で溢れかえり賑やかでごった返している。王都の酒場で

俺、アリエナイはそう仲間たちから呼ばれている。


「なんだ、ミツルギ?こないだの報酬でたらふく酒おごってやっただろうに…。」

こいつの名前は、ミツルギ。同業者どうぎょうしゃだ。

果ての島国の生まれらしく、独特な衣装や装飾を身にまとっている。

細い目は開いているのか閉じているのか分からず、表情は常に笑っているように

見える。表情からはミツルギの感情は読めない。

また、俺に酒をたかりにきやがったのかミツルギは顔を真っ赤にしながら手招きしてくる。既に出来上がっている。上機嫌じょうきげんに机をリズミカルに叩いている。


「なんだよぅ、冷たいやつだな…!いいネタあるんだよこれが!」


こいつのいいネタというのは、いい時と悪い時がある。

だが、いい時はガッツリ稼げるので話だけは聞いてやることにする。


「ほぅ、どんな話だ?」

俺は、とりあえずミツルギの話を聞いてやろうとミツルギのいるテーブルの席に腰をおろす。

喉がカラカラだ。とりあえずエールで癒されたい。話はそれからだ。


「気は乗らねぇが、マスター!エール二つこっちにくれ!」


カウンターから、マスターがあいよっと返事をしてエールを準備する。

すぐさま、準備されたエールは給仕きゅうじによって運ばれてきた。


「とりあえず、だな…」


「そうこなくちゃな、アリ!」


乾杯と同時に、二人で一気にエールを飲み干す。


「んで、ミツルギ話ってなんだ。」

俺は、口についた泡を拭いながらミツルギに尋ねた。


「あぁ、ここ最近魔物モンスター達が近隣の村を襲ってるんだよ。その中に特殊なやつがいてな。」

魔物モンスターが町や村を襲うのは、この世界では割と当たり前だ。平和な世の中とは言ってもダンジョンから溢れ出る魔物達の数は減ってはいない。


「ほぅ、特殊なやつ?そいつにはもしかして懸賞金けんしょうきんでもついてんのか?」


「あぁ!かなりのがついている。しかもコボルトだって話だ。」

コボルトとは、二足歩行にそくほこうで歩く狼みたいな魔物だ。ゴブリン共と同じく中級クラスの冒険者からしてみたらそんなに脅威ではない。パーティを組むまでもなくソロでも

いける。


「で?いくらだ?たかがコボルト如きに手を焼くとは国兵達も大変だな…。」


国兵とは、この国の私兵である。

国、町、村などの魔物の被害などの対応など国の雑務ざつむをこなす。

その中には冒険者から志願したやつもいたな。

所帯しょたいを持って安定した収入が必要なやつもいるから仕方ないといったら

仕方ないのかもしれないが…。


ミツルギは、きょうが乗り始めたのかさらに語り始めた。

「真っ赤なマフラーを首に巻いた、コボルトだよ。少し赤み掛かった毛色をしている。」


コボルトが真っ赤なマフラーを巻いている?絵本の勇者のような姿をしたコボルトを

思い浮かべた。そんなシュールな姿を想像したら笑みがこぼれる。

「ブッボッ…。有得アリエないな…、そんなコボルトいるのか?」

俺は、さっきさりげなく頼んだ二杯目のエールを口から吹いてしまった。

王都の酒場は給仕のレベルが高い。アイコンタクトでおかわりを持ってきてくれる。


「俺もさ、有得アリエないと思ったんだよ…だけどよ。俺見ちまってさ…」

ミツルギは、少し青ざめた顔をしながら話し始めた。足元もふるえている。

俺は固唾かたずを飲んだ。どんなとんでも話が飛びだすのか……。


「近くの村に、商人の護衛ごえいで同行したんだよ。そん時によ狼の群れに襲われてよぉ」


護衛任務は、冒険者の稼ぎの中でも安定している。ミツルギはよく護衛任務をソロで行う事で俺たちの中では有名だ。


「ほぅ、お前たかが狼でブルちまったのか?」

俺は、ミツルギを茶化ちゃかしながら言う。


「ちげぇよ!狼ごときでブルちまって中級冒険者名乗れるかッ!」

今度は顔を真っ赤にして言い返してきた。喜怒哀楽がはっきりとしていてからかう

のが面白いやつだ。

「見ろよこれ!俺はこれでもお前より先輩で銀級冒険者だぞッ!」

胸に下げている、銀のプレートをこれでもかと見せつけてくるミツルギ。

冒険者にも階級かいきゅうがあり、

白級はくきゅう青級せいきゅう緑級りょくきゅう赤級せききゅう銅級どうきゅう銀級ぎんきゅう金級きんきゅう白銀はくぎんきゅ王国勲章でんせつきゅうと階級があるのだ。

熟練中級冒険者と呼ばれる俺たちは、大抵たいてい銀プレート持ちである。


「まぁ、疑って悪かった…話を続けてくれ」

あまりからかうと話が止まるので俺はやめた。


「続けるぞッ……狼たちは退けたんだよ、毛皮なんて売っても二束三文にそくさんもんだからな…問題は、その後だ…出たんだよ、出たんだッ!例のコボルトが…。」

ミツルギは、また顔を青ざめさせながら続けて語る。

「あいつは、こっちを見るやいなや…こっちに襲い掛かってきたんだ。

それも、尋常じんじょうなスピードじゃない。気が付いたら背後はいごを取れれてた。」


ミツルギの職業はスピードタイプの盗賊シーフだ。易々と背後を取られるようなやつではない。


「お前が背後をとられるなんてな、とんだコボルトだな。」


「そうだよ、俺は命と任務を天秤てんびんに掛けて、命を取ったわけだ。」

堂々どうどう任務放棄にんむほうきを語る、ミツルギにした。


「おいおい、商人はどうなったんだよ。」


「安心しろ、無事だよ。何せ逃げる俺をひたすら追っかけて来たからな。」


合点がいった、結局逃げる選択をしたことにより、護衛も達成できてしまった

ということらしい。

「運がいいやつだな。どうやって巻いたんだ?」


「そりゃ、もう全力で逃げるために煙幕や歩行除外トラップをあっちこっちに

まき散らしながら全力で逃げ切った。」


ミツルギは、運だけで生き残ってきた稀有けうな冒険者だ。

どんな強敵に出会っても情報を持ち帰って生き残る事から、不死身ふじみのミツルギなど俺たちの間では呼ばれている。


「はっはっはっ、さすが不死身さんだ!」

俺は、腹を抱えながら大笑いした。


「まぁ、笑いたきゃ好きなだけ笑えよ…。とりあえずこのコボルトを仕留めるの

アリ、お前も手伝ってはくれないか?報酬はお前が8でいいからよ。」


ひとしきり笑った後、俺は答えた。

「いいぜッ、面白そうだな!でもよそこまでお前がこだわる理由だけは聞かせろよ」


俺がそうたずねると間髪入かんぱついれずにミツルギは答える。


「悔しいからに決まってるだろうがよぉ~!」


コボルト如きに尻尾巻いて逃げたことがよっぽど悔しかったのであろう。

ミツルギは、今度は顔を真っ赤にして俺にそう答えた。こいつの顔芸で芸者としても食っていけるのではないか……俺は内心そんな事を考えながら笑った。


かくして、俺たち二人は真っ赤なマフラーを巻いたコボルト討伐へと向かうのであった。

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