11:影の英雄

「ハアアアアア‼」


 グロス・ゴーレムの腕がアカリに振り下ろされようとした瞬間、上空からエイトの叫び声が聞こえた。

 視線を上げると、そこにはまるでターザンのように長い鎖をつかんで降りてきたエイトが見え、グロスゴーレムの腕を切断した。


 腕を斬られたグロスゴーレムは甲高い奇声を上げて洞窟をさらに揺らし、鼓膜が破れていても耳に届くその奇声で、アカリの痛む脳みそを刺すように刺激してくる。

 目の前にやってきたエイトが何か声をかけてくれているけど、先ほどの奇声で完全に耳がやられたらしく、エイトの声は何も聞こえない。


 エイトは急いだ様子で腰のポーチからユグドラシルの樹液を取り出すと、それを口に押し込んで無理やり飲ませてきた。

 相変わらずの舌を刺すような苦みに耐えながらそれを飲み干すと、アカリの身体は見る見るうちに回復していって、完治とまではいかないがほとんどの傷が治っていく。


「よかった、間に合って……。ごめん。思ったより鎖をつなぎ合わせるのに苦労した」


 短く息を切らしているエイトの姿を見て、アカリはエイトがどれだけ急いでここにやってくるための準備をしていたのかを理解した。

 理解したと同時に、驚愕した。エイトはアカリを見捨てたのではなかったのか?


「なんで? エイトくん、私のことを見捨てたんじゃ……」


 思っていたことが素直に疑問となって口から出る。

 そんなアカリの疑問を聞いたエイトは驚いた様子で、


「そんなことするかよ。俺確かにアカリに『必ず助けに戻るからもう少しだけ待っててくれ』って言ったよな?」


 と伝える。

 言われてみればと、落下した直後にエイトがアカリに何かを叫んで伝えようとしていたことを思い出す。


「聞こえないよぅ……あんな意識フラフラの状態じゃ……」

「ご、ごめんって。本当は早急に降りたかったけど、さすがにあの高さから飛び降りたら俺も動けなくなって結局何もできなくなっちゃうから……」


 申し訳なさそうにそう告げるエイトを見て、フフッと少しだけ笑みをこぼす。

 エイトが見捨てずに自分のことを助けに来てくれた。今はその事実がただ単純に嬉しかった。


「と、雑談をしている場合じゃないな。さっさとアイツを倒さないと」


 エイトの言葉を聞いて、アカリは視線をグロスゴーレムの方に移す。

 奇声を叫び終えたグロスゴーレムは、今までと違って叫ぶことなく静かに煮えたぎる怒りをこちらに向けてきていた。


「でも、どうするの? あの核、エイトくんの神器でもかすり傷しかつけられなかったんだよ?」

「大丈夫、作戦がある。これを見てくれ」


 そう言われエイトが差し出した左手を見ると、そこには黒くて丸い物体があった。


「えっと、なにこれ?」

「この洞窟の地雷だよ。さっき、急いで掘ってきたんだ。俺がこれをあいつの核の所に何とか置くから、アカリはその短剣を投げて、設置した地雷を爆発させてくれないか?」

「でも、地雷の爆発であの核が壊れると思う?」

「普通の状態じゃ無理だ。だけど、アカリが核に大ダメージを与えてくれた今なら、核の亀裂に地雷を仕込んで、内側から爆発させれば確実に壊れると思う」


 確かに、外側からの爆発だったら躱される可能性や爆破の威力が十分に与えられない可能性がある。けれど、核の内部からであれば、爆破の威力を百パーセント与えることができるので、今の状態の核であれば破壊できるかもしれない。

 一撃での破壊が期待できない神器での攻撃より、一撃で決着がつく可能性が高いその作戦に乗ることに悩む必要はなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る