10:アカリvsグロスゴーレム

 生きることに立ち向かうと決めたアカリは、全力で瓦礫の地面を蹴ってグロスゴーレムに向かって走った。

 全身を今まで以上の激痛が襲うけど、そんなものは今は気にしてられない。


 アカリがこのヴァルハラで得た、唯一化け物や戦士たちと同等に戦うことができる力は、この圧倒的スピードだけ。そんなアカリが足を止めてしまえば一瞬でやられてしまうのは明らか。


 だから走り続ける。たとえ人生で一番の激痛が全身を襲おうと、たとえ疲労で足が動かなくなっても。グロスゴーレムの核に攻撃ができる隙が生まれるまで、止まることは許されない。


 走りながらグロスゴーレムの振り下ろされる腕をよく見て、その軌道を完全に把握して回避する。そんな神経が磨り減るような集中力を要するこの行為を何度も行い、アカリは途中何度も意識が飛びかけたが、そのたびに気力で何とか持ちこたえた。

 もう何度目かもわからないグロスゴーレムの攻撃を回避したとき、地面にたたきつけた腕が埋まってしまい抜け出せないのか、一瞬だけグロスゴーレムの動きが止まった。


(今だ!)


 そう思い、グロスゴーレムの方へ向き直ると、今まで以上のスピードでグロスゴーレムのもとへと走った。

 グロスゴーレムの核は、エイトの神器ですらかすり傷しか与えられない。アカリの持つ普通の短剣で傷を与えられないということは火を見るより明らか。


 であれば、どうやって核にダメージを与えるか?


 悩む必要もなく、アカリに取れる選択は一つだけ。ヘルメスのブーツで出せる最高速度を乗せた攻撃を核に叩き込むしかない。

 激痛を歯を食いしばりながら耐え、全力で足を回す。

グロスゴーレムのもとにつくと、埋まった腕を通って一気にグロスゴーレムの核まで走り抜ける。


「これで、トドメっ‼」


 がら空きの核にアカリは、スピードに乗った足裏による蹴りを叩きこんだ。

 目の前で飛散する金属片。グロスゴーレムの核は大きくひび割れ、砕け散るかに思えた。

 しかし、核が砕けることはなかった。


「え? なん——」


 言葉を言い終える前に、アカリの身体はグロスゴーレムの攻撃によって洞窟の壁に弾き飛ばされてしまう。

 弾き飛ばされたアカリの身体は、今度こそもうピクリとも動かすことはできそうにない。

 もう、自分が今どんな格好をしているのかすらわからないほどに全身の感覚がない。きっと酷い怪我をしているんだろうけど、痛みはこれっぽっちも感じられなくて、ただ皮膚の上を大量の血が流れている感覚だけを鋭敏に感じ取れた。


「グオオオオオオオオオオオオ‼」


 咆哮……だろうか?


 周りの音がしっかりと聞き取れない。おそらく鼓膜が破れているのだろう。

 けれど、目の前のグロスゴーレムがアカリに対して強烈な怒りを抱いていることだけは、はっきりとわかる。


(ダメだ、立たないと……まだ負けてない)


 動かぬ体に鞭を打ち、何とか立ち上がろうとする。全身の感覚がないおかげで痛みはないが、体中が悲鳴を上げるように震えているのはわかる。


 震える足で何とか立ち上がり、アカリは再び剣を持ち、構えをとった。


 息を吸うたびに肺が痛み、息を吐くたびに血が溢れ出る。


 こんな身体ではグロスゴーレムに勝てないことはわかっている。だけど、だからと言って諦めるわけにはいかない。

 家族のもとに帰ると決めたから。こんなところで諦めて、死ぬわけにはいかない。


「が、ああああぁぁぁぁぁあぁぁぁ‼」


 叫び声をあげ、今にも倒れそうな体と飛んでしまいそうな意識に気合を入れなおす。

 グロスゴーレムはアカリを仕留めるために、腕を振り上げてアカリに向かって叩きつけようとしてくるが、臆することなく立ち向かった。

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