08:無慈悲な深淵
「………………うぅ」
いったいどれほどの距離を落ちたのだろうか?
仰向けに倒れているアカリは朦朧とする意識の中、かすんだ視界を必死に広げていく。
全身の感覚はほとんどなく、力もまったく入らない。唯一、瓦礫の下敷きになっていないことが幸運だった。
視線の先には、先ほどまでいた空間から漏れ出た松明の光が見え、今いる空間を僅かながらに照らしている。
どうやら、元居た場所から三十メートルほど下に位置するこの空間に落下してしまったようだ。
頭を怪我しているのだろうか。流れた血液が左目を覆い視界の半分を真っ赤に染める。
その時、視線の先で僅かではあるがこちらに向かって叫んでいるエイトの姿を確認した。
「エ……イ、ト……くん」
何かを必死に叫んでいるエイト。しかし、満身創痍なアカリの耳にその叫びは届かない。
何を伝えようとしているのか聞き取ろうとアカリは体を動かそうとするが、左腕に激痛が走り動くことを拒絶してくる。
恐らく折れているであろう左腕の激痛に無理やり耐えながら、アカリは何とか立ち上がろうとした。
(大丈夫。きっと助かる……エイトくんが言ったもの。私のことは絶対に死なせないって)
エイトという
アカリは上でこちらをのぞき込んでいるエイトを見ながら、痛む体を必死に動かした。
だが、視界から突然エイトの姿がなくなってしまう。
突然の出来事に困惑し、何が起きたのか痛む頭で必死に考えた。
新しい化け物が現れたのか? この洞窟に潜入した他のヴァルハラの戦士に遭遇したのか? 何かトラップにでもかかってしまったのか?
様々な考えがアカリの頭を埋め尽くしていくが、少し冷静に考えるとその答えはあっさりと出てきてしまった。
冷静に考えれば、アカリとエイトは仲間でも何でもない。アカリが一方的にエイトについていっただけ。
冷静に考えれば、エイトがアカリを助けてくれる保障なんてどこにもない。アカリが勝手に助けてくれると思っていただけ。
冷静に考えれば、エイトがアカリを命がけで助けるメリットはない。
エイトがいなくなった理由。その答えがアカリの中に残酷に、無慈悲に表示された。
——見捨て……られた……?
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