父と私
さて、本エッセイは私小説であるので、せっかくなので父の話をしようと思う。
父は五十歳で会社を早期退職した後、母の稼ぎで暮らして家で遊んでいた。元々、あまり会社とかに向いていなかった人のように思う(私の遺伝子に深く刻まれているので間違いない)
日がな一日、近所のGEOからDVDを借りてきては、映画を観る。図書館からミリタリー小説や金融小説を借りてきては、本を読む。公民館のトレーニングジムで運動をする。あとは、犬の世話をしたり、炊事洗濯といった家事をして過ごしていた。
※私の作品に出てくる男性キャラクター達に家事にマメなタイプが多いのは、父の影響だと感じる。
そんな父にはすごい異能があった。
<つまんない映画は冒頭5分で寝る>
なに言ってんだこいつ、と思われたかもしれないが、マジで父が5分で寝た映画を最後まで観ても確かに「つまんない」のだ。
私なんて常にコンコルド効果で損切りできない性格なのであるが、父は本当に5分しか観てないのに「つまんないから、もういいや」と言った。
いまでも「つまんない」作品のエンドロールを眺めるたびに、父なら冒頭5分で寝たんだろうな、と笑ってしまう。
そういえば、実家の近所にあったGEOが閉店した際に、父から真面目顔で「おい。なにか対策を考えろ」と指令が出たのを思い出した。
動画サブスクが台頭してきた時期で、この機会に我が家にも導入しようとAmazon PrimeVideoとNetflixが見れるように、私は家の環境を整えた。
父はこの動画サブスクをいたくお気に召し、本当にずっと観ていて「○○は最初は面白かったが、シーズン3以降はイマイチだ」などと言いながら、結局最終シーズンまで観てしまうくらい楽しそうに毎日鑑賞していた。
闘病でだいぶ衰弱し寝たきりになった時まで「お前がAmazon PrimeVideoとNetflix見れるようにしてくれて本当に感謝している」と言われた時には、苦笑しかなかったが。私の一番の親孝行はコレだったようだ(苦笑)
父は最期の一カ月寝たきりになっても「テレビが見たい。ベッドからAmazon PrimeVideoとNetflix見れるようにしろ」と介護ベッドの上から宣っていた。
母と私はすぐに電気屋に行って40型の液晶テレビを買って、介護ベッドの机の部分に括り付けて設置して動画サブスクを設定してあげると、とても満足そうにした。
※訪問看護の看護師さん達には「え? テレビでかッ」といった反応をされたが。
最期の最後の方は鎮痛剤の影響で朦朧としていたけれど、介護しながら父と一緒にそのテレビで映画を観た。いまもあの時のことを思い出す。
その時間は、父と私の『ニューシネマパラダイス』だった。
◇◇◇
父が亡くなって、しばらくして私の手元にとあるブルーレイが届いた。Twitterの感想キャンペーンか何かで当選したものだった。
当選通知が来た際に、3作品から選べたので、父に「どれにしよっか」と聞いて選んだ作品。
ジェラルド・バトラー主演『エンド・オブ・ステイツ』
『エンド・オブ』シリーズの最終作。別に泣くような内容じゃないのに、一人で観てメソメソと私は泣いた。
今でも「バッキュン、バッキュンなアクションミリタリー映画」を観ている時は、父と一緒に観ている気がする。そして、父ならなんて言うだろう、とか想像して笑ってしまう。
脳内の父はいまだ健在で、父と私の『ニューシネマパラダイス』はまだまだ続きそうだ。
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