2.凜の真実

……紗久良の警告も空しく凛は突然倒れた。


夏休み直前の授業中、昼休みが終わるまでは元気に普通に過ごしていたりんだったが、5時限目の授業中、ふわりと椅子から滑り落ち、そのまま床に落下した。ごつんと頭を床に打ち付ける鈍い音が教室に響き、クラスメートの視線が彼に一斉に注がれた。


紗久良と数名のクラスメート、それに担任の教師が付き添ってすぐさま保健室に運ばれて、そこで養護教諭は救急車を呼ぶことを選択した。症状はあまり芳しくないらしい。熱中症なのかそれとも別の病気なのか判別する事が出来ずに、ここで単に休ませていても回復するかどうか判断できなかったのだ。


数分後、学校の校庭に救急車のサイレンが響いた。それに気が付いた生徒達が一斉に窓から身を乗り出して何事が起ったのかと飛び込んできた救急車に向けて一斉に視線を浴びせる。


凜は救急隊の手で救急車に運び込まれ、担任の教師、そして紗久良と一緒に近くの総合病院に運び込まれた。検査結果を待つ間、担任教師は凜の母と連絡を取り事情を説明して今いる場所を伝える。


間も無く勤め先から母が病院に到着し、紗久良と担任教師は無事に合流する事が出来た。そして、待合室で凜の検査結果や現在の状況、それにこれからの治療方針が確定するのを待つ。紗久良はしょっちゅうスマホを取り出しては時間を確認するが時間は遅々として進まない。一秒が一時間に感じる位の遅さに心が締め付けられそうになる。大した事が無い事を只管祈るが養護教諭が救急車を呼んだ位だから彼女の望みに神様が答えてくれる可能性はかなり低いように思われた。三人の沈黙の時間が続く……


★★★


三時間程してから三人は女性の看護師に声を掛けられて医師の居る診察室に案内された。おそるおそる中に入った三人を出迎えたのは牛乳瓶の底の様な眼鏡をかけてかっちりと髪の毛を七三に分けた医師だった。彼は三人に椅子を薦め、座るように促した。そしてカルテを見ながら徐に口を開く。


「一言で説明すると、初潮です」


三人は石の言った言葉が理解出来ず、ただただきょとんとしているだけだった。一瞬の沈黙の後、凜の母が口を開き医師に躊躇しながら訪ねた。


「……あの、初潮って、女の子が毎月迎える生理の一番最初…ですか」

「そのとおりですお母様」

「あの、なんと言いますか、こう、凜は……男の子なんですが」


母の言葉を聞いて医師はパソコンのモニターにとある画像を表示して見せた。


「これは凜君のCT画像なんですが、映っている物が何だか分かりますか?」


三人は身を乗り出してパソコンの画面をのぞき込む。しかし、人間の臓器など直接見た事など無かったから映し出されている物が何であるのか分からなかった。


「宜しいですかな……これは『子宮』です」


またまた一瞬の沈黙の後、母が間の抜けた声を上げる


「……は?」

「凜君の体内には子宮が存在しています。しかもちゃんと機能していて今日、初潮を迎えた様です」

「は……はぁ、でも、え~~~と、私の記憶が確かなら、凜にはちゃんと『おちんちん』が付いてましたけど」


何故か自信無さげな母の発言に紗久良がほんのり頬を染め視線を床に落とす。実は紗久良も彼のそれを見たことが有る。それは赤ん坊と言っても良いくらいの時代ではあったが。


「その通りですね、私も確認しました。つまり、凜君は男性の機能と女性の機能の両方を持ち合わせていると言う事です」


凛の真実、それは男性と女性の両方の機能を持ち合わせて生まれて来たと言う事だった。紗久良と凜の母、そして担任の教師は三人で顔を見合わせたが、そこから何等なんらかの結論を見出すことは出来なかった。

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