死際と夜の淵(書き下ろし)
私は空になれなかった。
何者にもなれる無限の原子を持ちながら、
私は空になれなかった。
深いほど高い奇跡をたどっているのに。赤い小道を通って、暗い海の底から這い出して、息を吐いた、息を吐いた。いきを、はいた。何にもなれなかったんです。僕はまだ地球の中心で息を吸い込み続けている。吐き出せずに、まだ、一生懸命吸い込んでいる。くらい夜の淵で、涙の底におびえている。おびえている。ただ、いきているだけなのです、と、おびえている。
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