第19話 さよなら

「おはよう。」


「おはよう」


時刻は7時。

船の出発時刻まであと30分だ。


俺は慌てた。

ご飯を早食いして、早着替えをして、わずか15分で支度を済ませた。


「尊狗のお母さんありがとうございました。」


「こちらこそありがとね!また来てね!」


「はい!」


俺は尊狗のお母さんに別れの挨拶をすると、尊狗と一緒に船まで歩き出した。



船が来た。

もう尊狗と一緒にいられる時間も残りわずかだ。


「尊狗本当にありがとう。出会えて良かった。蜜柑と幸せに暮らせよ。」


尊狗は笑った。


「何言ってんだよ、これで最後みたいに言うなよ」


「そうだな。よし、もう俺行くわ。」


「おう、じゃあまたな。」


俺は手を振ると船の中へと入って行った。

尊狗に出会えた幸せを噛み締めて。



故郷に帰ってきた。

ここに来るのは久しぶりだ。

特に景色が変わった様子はない。

まずは紅空の家だ。


ピンポーン


紅空の家のチャイムを押した。

だが、返事はない。


「出かけてるかな…」


「ヒロ!今までどこに行ってたの?探したんだよ!」


紅空が駆け寄ってくる。

俺を抱きしめる。


「もう、急に居なくならないでよ!」


「ごめん。いつもありがとう。」


「許すよ!私もいつもありがとう!」


紅空はニコッと笑うと俺をもう一度抱きしめた。


「ごめん…俺もうそろそろ行かないと。」


「どこに?」


「うーん。大事な人が生きてる世界かな。」


「何それ!」


「冗談だよ。行きたいお店があってさ。」


「そっか!じゃあまたね!」


「うん。また。」


俺は紅空に最後の別れを告げた。

もうこれで思い残すことなく死ねる。

これで…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る