第41話

 そして次の日優斗はスーツとまでは言わないがちゃんとした格好をして家から離れる。いつもの石垣を過ぎて茉由奈の家に移る。チャイムを鳴らすと慌てた様に茉由奈が現れた。

「電話で呼んでくれたら良かったのに!」

 待ち合わせの約束はしてなかった。そんな茉由奈は膨れていた。恐らくは優斗の姿に気が付いて慌てたみたいな雰囲気だった。

「時にはマユの事を待ちたいなと思ってね」

 そんな願いも叶う。優斗はゆっくりと茉由奈の用意を待ってから二人で石垣の所のバス停に移動する。

 ついた頃にはちょうど時刻表通りの時間で直ぐに駅の方に向かう。この時優斗と茉由奈はこれみよがしに他の乗客も居ないのに二人掛けの席を選んで座った。正直広い所ではない。それでも嬉しくて仕方が無い。

 そしてもちろん列車でも指定席は隣を取っていた。仲良く話をした。ゆっくりとお菓子を手にして時間も忘れて楽しいばかりの旅をする。心配しなくても目的地は終点なので問題は無い。

 駅から飛行場まではタクシーを使った。道のりは順調で今度は話す時間も無いくらいに思えたがそのくらいの余裕はあった筈。

 飛行機は定時運行していた。時間も逆算していたので二人は待つ事も急ぐ必要も無く搭乗した。もちろんこの席も隣。

 今日はずっと横には愛しい人が居る。こんな幸せは無い。

「ちょっと嬉しくて忘れたけど今日は元旦那に会うんだった」

 ふと気付いた茉由奈は急にテンションが落ちた。今までは楽しい旅だった。しかしそれは現実を忘れていたから。考えてみれば気が重い。

「忘れるなよ。マユってそう言う面白い所が有るよね」

 うつむいてる横で優斗は笑ってみた。そんな事で笑ってしまうと肩にぶつかる。

 もちろん茉由奈はわざと当たってきたのだ。顔を見ると思う存分膨れていた。愛らしい。そんな言葉が優斗の心には浮かんで痛い程に嬉しい。すると更に微笑んでしまう。

「一応怒ってるんですけど……どうして笑ってんの?」

 にこやかが続いてる優斗に対して茉由奈が文句を付ける。

「マユの事が好きだから」

「はい?」

 優斗の意味の解らない返事に茉由奈は苛ついてきている。眉間にはシワがより視線の鋭さは増すばかり。しかしそんな事は怖くは無い。優斗はそんな怒っている茉由奈を見れるだけでも嬉しくて仕方が無い。

「どんな時も、とぼけてるマユも、今みたいに怒ってるのも俺は好きだなって思うんだ。一緒に居られる事が幸せでな」

 そんな言葉を聞いて茉由奈の顔はポカンと呆れたような表情になると今度は笑い始めた。それはもうケラケラと周りに人が居なければ高らかに笑っているのだろうが今は肩を揺らしている。

「それ思うの……あはははっ……」

「どうしたんよ?」

 今度は優斗の方が意味が解らなくなって、まだ笑っていて話が続けられない茉由奈を見る。

「あたしも!」

 やっと笑うのを辞めた茉由奈はにこやかにそして嬉しそうに答えた。

 しかし答えにはなっていないので優斗はまだ解らないでいた。

「説明願います」

 あえてかしこまった様に優斗は話した。もちろん冗談を含んでいるから。

 それを聞いた茉由奈の眼はすーっと細くなって笑顔が閃く。

「あたしもね。戻って。ユウちゃんと居る時思う事が有るの。例え喧嘩をしてても、話してなくても、もちろん笑っていれば尚更、好きな人と居るのは幸せなんだなって」

 こんな風に君の想いが勝手に伝わるとは。あたしが思う事を不意に当ててしまう。君って実は超能力者なの。それであたしの喜ぶような事をばかりを話してるのかな。そんな風にまで思ってしまうよ。

 茉由奈の言葉を聞いて優斗の心は暖かくなる。そんな言葉をリフレインする様に優斗は軽くうつむく。顔を挙げた時にはもちろん笑顔になっていた。そして横に有った茉由奈の手を取る。優しい鼓動が伝わる。それさえも嬉しい。

 二人は手を繋いで笑顔ですごした。

 飛行機は順調に進んで時刻通りに到着する予定。優斗達はずっと手を繋いだまま静かに話もしないが確かな幸せを思いながらいた。

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