第40話
次の日に優斗は窓辺に座りながら携帯で飛行機のチケットを調べていた。もちろん目的地は茉由奈の住んでいた所。平日の行楽期でも無い今はかなりの余裕が有った。そして予約をして支払いも終わらせておいた。
自宅謹慎と言うのはかなり便利で自由な時間が恐ろしい程に有る。ハッキリ言うと暇なのである。でも優斗はこれ幸いとお見舞い旅行の計画をそんな合間にしようと思っていた。
しかし謹慎になってから会社からは連絡が無い。本当にこのまんまクビになってしまうのかもしれないと思うと不安も有る。無職となるとそうやすやすと茉由奈に結婚してとは言えない。いっその事上司に判断状況を聞いて駄目なら再就職を考えないとさえ思っていた。
すると優斗に熱烈な視線が有った。犬からの散歩の要求。もう面倒くさいとは思わない。待っている人が居る。それも愛しい人だから楽しくてしょうがない。
石垣に着くとちょうど茉由奈も訪れ今日の勝負は引き分けだった。
「あたしの勝ち越しは続くね」
勝敗は殆ど一緒だったが僅かな差で茉由奈が勝っている。今日の引き分けで負けてない記録は続いていた。
「まあ、そんな事よりも明日のチケット取れたから」
日にちの事は昼の内に相談をしていたので茉由奈からは文句は無い。
勝敗は優斗は全く気にしてない。しかしそれは負け惜しみでも有る。勝った時優斗は思う存分喜んでいるのだ。今日も犬のリードを付けるのに手間取ってなければ軽く勝てただろう。そんな事を優斗は恨んでいたが犬は気にもせずに茉由奈とじゃれていた。
「明日かぁ……億劫だなー」
さっきまで笑っていた茉由奈は優斗の言葉を聞くとうつむいて遠い海を眺めていた。
確かにそれはしょうがないだろう。理由はどうあれ離婚した人間と会う事は気まずい筈。更に言うならその人物は今自分の責任で自殺未遂をしているらしい。そんな茉由奈の心境は確かに穏やかではないだろう。
「そう言うなよ。今回は俺も一緒だし気軽に考えたら?」
丸くなっている背中をポンポンと叩いて優斗はゆっくりと語る。
「ユウちゃんが一緒なのもなぁ……あの人、怒るかも」
実際の所有り得る。茉由奈は更に丸くなってもう手は地面につきそうになっているので犬が気にしていた。
元旦那と優斗の喧嘩にはもう茉由奈にはトラウマになる程の事。
「心配しないで。今度は俺もあんな事にならないようにするからね」
気休めをする様に優斗は語る。そしてポンポンと背中を叩き続けて数分が過ぎる。足元に手を伸ばして犬とじゃれ優斗に元気付けられている茉由奈がいた。
一見落ち込んでいるように思えるが本人はとても幸せだった。
「まあ、相手は怪我してる訳だしそんな事にはならないと一応思うし、そうなったとしてもユウちゃんも今度は反撃してよね」
やっと起きあがった茉由奈が言う。殴られても負けない優斗の姿はもう見た。確かにそんな強さも理解してる。しかし愛しい人が殴られてるのはもう茉由奈も見たくは無い。そんな事からの若干物騒な注意だ。
「うーん、どうかな……俺って優しい人だし」
腕を組んで優斗は語る。
「だからそんな事は自分で言わないって……それよりまた殴られる覚悟なら今回の事はあたしは断る!」
茉由奈の心配は尽きない。
でも隣の優斗は笑っていた。にっこりと微笑んでいる。
「解ったって。今回は殴られない。……でも俺からも攻撃はしないから」
優斗は笑いながらもそう話していた。
すると茉由奈は安心したのが半分でもう一言に疑問が有った様子。横目で睨んでいる。そんな姿を見せるので優斗はにっこりと微笑み返してみる。
「笑ってないでよ……時には俺が殴るとか言いなさいよ」
呆れた茉由奈。その表情は軽く笑ってうつむいていた。
しかしそんな事を言われても優斗は笑うしかない。茉由奈に呆られようともしかして怒られたとしても優斗が勝てる訳がない。それは重々承知していた。そんな事からの笑みなのであった。
「まあ、どっちにしても今回は穏やかに話すつもりなんだよ。ちゃんとマユと幸せになりますって報告もするしね」
そんな言葉を聞いた茉由奈は呆れたのでは無い本当の笑顔になっていた。
それからは犬もゆっくり眠れる様などうでも良い話を続けて今日の散歩も終わる。
寒い冬なのに花が咲いている様に思えて二人共が楽しかった。
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