第34話
そして目的通り日が暮れると居酒屋に着いた。
「さーて、飲みましょうか」
優斗は適当なつまみとビールを注文して届くとにっこりと笑う。もちろん迎え側にもにこやかに笑う茉由奈が居た。二人は乾杯をすると楽しく笑いながら馬鹿話をしながら飲んだ。
やはり茉由奈の方が良く飲んで一時間もすると倍の量となっていた。
「今日のお酒は美味しいねー!」
「気分良く酔ってるみたいやな」
誰が見てもそう思うだろう茉由奈は泥酔では無いがしっかりとほっぺを赤くしてニコニコが停まらない。
そんな笑顔を見ているだけで優斗には酒なんか必要の無いくらいに楽しい。
「うん。酔ってるー。楽しい。暗い話でも笑えるよ!」
あからさまに普段とは違う。陽気さが限界点を超えているような雰囲気。しかし悪いことでも無い。そう思うと優斗が返事を返す。
「それは良い事で」
対する優斗も酔ってはいるがちゃんと自分の限界と相談しながら飲んでいた。茉由奈と一緒くらい飲めない事も無いのだろうがそうすると確実に気分が悪くなるのが解っている。
「よーし! 暗い話をしようか?」
「わざわざそんな事しなくても……」
意味の解らないことを茉由奈が話し始めるので優斗は苦そうな顔をしている。
解らなくはない。そんな話を楽しくする人間が居るのだろうか。答えは居る。存分に酔っている茉由奈がそうだった。
「うーんと、そうだな……ユウちゃん会社の方であの噂どうなった?」
呆れる優斗だったが茉由奈はそんな事は聞いちゃいない。
「噂かぁ……相変わらず上司は渋い顔してるけどもうそんなに気にならないよ。助けてくれる奴も居るし」
この所噂は平行線を漂っていた。悪くもならない。しかしもちろん良い方向へ転がる様子もない。
「そうなんだぁ。まだ一騒動有るのかなとか思ってたのに」
もう騒動が有ることを楽しんでいるかの様にも聞こえる。本当に茉由奈は暗い話を笑いながら聞いていた。
「そう次々と問題ばっかりじゃないよ」
そんな茉由奈を見ていると優斗も幸せに思い、つい笑ってしまう。
「あたしはもしかしたら茨の道を歩いてるのかと思ってたから」
優斗と再開してからの茉由奈の道はどう考えてもなだらかとも言えない。悪路を楽しんで選んでいるのかと思えるほどの進み方である。
「確かに人から見れば俺達の恋は平坦では無いよな」
つまみを取りながら優斗もそれには頷いていた。しかしそれに自分の責任が在ることは重々承知していた。
「これからは穏やかな所を進めるよね」
茉由奈の顔に笑いを忘れんと語る。
「そうである事を俺も願ってるよ」
この日は二人共飲み過ぎてしまった。楽しかったので仕方が無い。
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