第28話
翌日は優斗の休みなのだが昨日は特に約束もしなかった。しかし朝になってみると携帯にはメッセージが有った。茉由奈からで起きたら連絡との文字と可笑しなスタンプが添えられてたので返信をする。要件は簡単な事で石垣で会いたいとのことだった。もちろん優斗も会いたかったので返信すると犬を連れ直ぐに向かう事にすると茉由奈が急いで家から現れるのが見えた。あっちは走っているが優斗は犬のペースに合わせてる。そのくらいはこのデートに付き合わせてるので許すことにした。若干の差で優斗よりも茉由奈が速く到着していた。
「あたしの勝ち」
ニコニコと茉由奈は石垣に座って喜んでいた。呆れる優斗に対して犬はもう定位置となってる場所に座る。
「勝負してたとは知らんかった……それなら着いてから返事したのに」
おかしな対決をしていた事を優斗は今知った。
「それは反則だよ」
「うーん、じゃあ、まずルールから教えてよ」
優斗はやっと石垣に座る。もうこの位置は自分の指定席でもちろんとなりは茉由奈となる。
「どうなのかな? それは時によって違うから言えない」
茉由奈の笑みはそれから終わらないで続いてる。
「それって俺に勝ちようがないんじゃないかな?」
「細かい事気にしない!」
そんな意味の分からない勝負や他愛も無い話をしながら時間はゆっくりと過ぎる。暫くすると話す事も終わると二人共が静かになり遠くを見て座っていた。
「今日は天気良いな……」
優斗が寒そうだが澄み渡った蒼い天を見上げて呟く。
すると茉由奈も顔を挙げる。
「そうだね……」
呟きに答えがある。優斗は畑に仰向けに倒れるとあくびをした。
「なんか眠たくなってきた」
そんな姿を見た茉由奈は再び真似る様に一緒の行動を取る。
「暇だからね。眠っちゃっても良いよ」
足元の犬はもう眠っている。
「うーん、暇……」
優斗はけだるそうに伸びをして言う。
「分かったって」
ふわっとした茉由奈の笑いが優斗の横から聞こえた。
「折角俺休みなんだしどっか出掛けようか?」
優斗は伸ばしていた腕を頭の後ろで組んで茉由奈の方を見る。やっぱりにこやかな笑顔の茉由奈の顔がそこには有った。
「うーん、それも良いけど、今こうして意味無く二人並んでるのも案外悪くないね」
茉由奈はそう語ると優斗の方を見た。二人の視線が合う。
「くっそぅ丁度俺もそう思ったところなんだよな……嬉しいな……」
優斗は自分を見ている茉由奈を見てふっと笑った。
あなたと僕の考えは時として似ている。良く泣いて笑う自由人なあなた。時としてピントが合う瞬間が嬉しい。そんな時を僕はこれからも喜ぶのだろう。
そんな訳の分からない会話をしたり黙ってのんびりと過ごしてそれからも時間を過ごしていた。すると茉由奈の携帯のメロディがゆっくりとしていた風景の中に響いた。起き上がり画面を確認した茉由奈は若干渋い様な顔をしていた。
「旦那からだ……」
「取り敢えず出てみたら?」
流石にもう怒って無いだろうと思い、更に優斗の言葉も有って茉由奈は電話の応答の操作をする。
「もしもし。うん。そう。はい。今も一緒。解った」
向こうの声は聞こえないが茉由奈はそんな返事をしていたかと思うと、優斗を一度見るとその場からちょっと離れる。すると茉由奈の返事も優斗に届かなくなってしまった。
しかし優斗は身体を起こして茉由奈の表情から目を離さない。ちょっとでも困った様子が有ったならば救けるつもりで居た。
だがそんな心配は要らない様子で茉由奈は電話を切り優斗の元に戻った。
「どうだったの?」
表情は明るい茉由奈だが、それは嘘かもしれないと優斗はまだ心配していた。
「心配しなくてもあの人も落ち着いてるから。今日なんてユウちゃんと今も一緒に居るって云っても文句の一つも無かったよ」
茉由奈は一瞬で優斗の顔を読み取ると自分は笑顔で答えていた。
「それでどんな用事だったの?」
そんな事を言われても優斗の表情は険しいまんまでそうは簡単には戻らない。
「まあ、そんなに敵対視しないで……あたし近々一度あっちに戻る事になったんだけど問題がある訳じゃないよ。荷物とか今回全く無いからそれを取るのとその他の離婚に向けての事柄を済ませにだからね」
再びとなりに座った茉由奈は優斗の肩を軽く叩きながら心配させない様に語った。茉由奈がそんな様子なので優斗も一応不安そうな顔を辞めてちゃんと聞いていた。
「悪いけど俺は旦那さんに対して余り良い印象が無いしね……まあ、でも理由は解ったよ。で? いつ頃のつもり?」
「うーん、どうしようかな? 旦那が今のところ落ち着いてるみたいだし本当に近い内の方が良いかもって思う」
茉由奈は首をひねって悩みながら話していた。
そんな茉由奈の頭を優斗はクシャクシャとする。
「その事に関してはもう俺は言わないよ。だけど一つだけ約束。困ったら連絡ちょうだい。助けるから」
やっとの事で優斗の険しい顔も元に戻った。
「うん。ありがと」
そう茉由奈は俯き加減で話していた。泣いてはいない嬉しそうにしている。そんな姿に優斗も微笑んで二人の楽しい時間がそれからもいつまでも続いていた。
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