第25話

 数日後そんな恐さに合ったのは優斗で仕事に向かうと、職場の人間の雰囲気がいつもとちょっと違う様な気がしていた。別に困る事もなかったので優斗も気にしないで仕事をこなした。

 しかし、その雰囲気は日を追うごとにまして、明らかに白い目で見られている様になった時、比較的仲の良い人間と煙草休憩中に一緒になった。やはり明らかに普段とはこの人間も違う、優斗とは一歩引いてしまっている。普段なら雑談好きで黙ってることは無いのに今日は黙って視線も合わせないようにしている。優斗はそんな人間を捕まえると肩を組んで訳を聞く。とは言えおどす訳で無く仲も良さげにくすぐり笑いながら聞くので、相手もやっとで話した。その内容は噂の広がりで優斗の住んでいる周りだけだった筈なのがいつの間にかどう回ったのか仕事場まで届いていた。それによると優斗が夫の居る相手と付き合って、更にその夫と鉢合わせした時に夫と彼女に暴力を与えた事になっているらしい。かなりの作り話で逆に優斗は笑えてしまって怖くもないので、その仕事仲間に嘘だと告げ去ろうとした時、もうこの噂が上司にも伝わってる事を知らされる。

 そしてその日の犬の散歩に向かう中この事を茉由奈に話そうか悩んでいた。

「今日も待ってたの?」

 もう茉由奈は石垣に座っていて、優斗が現れるとにっこりと笑顔で手を振っていた。

「うん! 時間的にもうだろうと思ったし」

 そう言うともう散歩ではこの石垣に寄ることが恒例となっているので、茉由奈と犬は仲良くなってじゃれている。

「ありがと」

 この寒い中待たせたのを悪いと思いながらも、居てくれる事に優斗は礼を言い自分も座る。

「どうかしたの? ちょっと元気なさそうだけど……」

 優斗は気付かれない様にしていたつもりなのに一言で茉由奈にバレてしまっていた。

「マユに嘘は付けないな……」

 困った風に優斗は笑顔を作って語る。

「実はあたしは人の心が読めるんだよね」

 茉由奈の方もその笑みに気にしない様に言う。

「へーそうなんだ。じゃあ、今俺が思ってる事当ててみてよ」

 そう言われた茉由奈はうーんと悩んで、優斗の顔をあらゆる方向から見ている。するとひらめいた様に手を叩いた。

「解かった! あたしの事が好きなんでしょ?」

 阿呆な答えに優斗は腹を抱えて笑ってしまう。なんともバカップルぷりが微笑ましく有る。

「うんうん。当たりだよ。ズルいな……俺はいつだってマユの事を好きに思ってるから必ず当たるやんか」

「だからユウちゃんの考えてる事なんてお見通しだって。それでどうかしたの?」

 瞬間的に優斗の笑いは停まった。

「折角、話をかえたのにやっぱり聞くの?」

「だって気になるもん。二人の間にひみつは無しにしようよ。ねっ」

 そんな言い方をされてしまうと言わなくてはならない。それに黙っていて他から伝わった時に申し訳ない。

「ちょっと会社の方にまであの噂が広がってる」

 さっきまでのにこやかさは消えて、優斗は若干真剣な顔をしていた。石垣の前の道を車が通りすぎた。

「あの噂ってあたしの事?」

 茉由奈は自分の顔を指差して聞いていた。他に噂が有るのなら聞いてみたい。

「うん……まあ、問題は無いとは思うんだけど」

「ユウちゃんはそれで肩身狭い思いはしないの?」

 茉由奈の心配している顔が横にある。

「それは気にしてないから心配しなくて良いよ」

 優斗は茉由奈の頭を捕まえて優しく抱きしめると、そんな事を語り笑っていた。

 しかし、そんな優斗も全く心配してない訳では無い。自分の事は最悪どうでも構わない。こんな噂を茉由奈が気にする事だけを心配していた。

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