第24話
次の日は優斗は普通に仕事に戻った。明らかに人に殴られたと言わんばかりに頬を腫らしていたので、若干会社では驚かれたがなんとか誤魔化した。
仕事から帰ると犬の散歩をする。いつも通りの時間に家を出た所で、運の悪いことに近所のおばさんに捕まってしまい世間話の相手をされる事になってしまった。見ると石垣では茉由奈が座っている。そんな事を気にしてる様子だったのでおばさんは茉由奈の話題になる。それはあまり喜ばしい話題ではなかった。
要約すると茉由奈は今、浮気をして旦那に捨てられて、うつ病になって帰っているとの噂になっているらしい。一応その張本人である優斗は苦笑いしか出来ずに話を聞いた。
どうにも噂と言うものは恐ろしい。本当の情報に存分に尾ひれが付いて、話が面白おかしく広がってしまう。
暫く話が続いて、やっと解放された優斗は茉由奈の所に着いた。
「おばさんの世間話ご苦労様」
顔を合わせるなり茉由奈は遠くに見えていた様子でそんな事を語る。
「全く、困ったおばさんだよ……」
呆れながらもさっきまで居た所を優斗が見ると近所のおばさんは居ない。もう次の話し相手を見つけていることだろう。
「昔っから話好きな人だったからね。今日はどんな話題だったの?」
噂好きなおばさんの事はこの辺りの常識。にこやかな茉由奈の顔を見ていると、本当のことなんて言えるはずも無い。
「えーっと、別に普通の世間話だよ」
言わない様にと思っていると、逆に適当な言い訳が見つからないで、優斗は困ってしまった。
「あたしが浮気して自殺未遂でこっちに戻ったとか?」
優斗の困ってる様子を察知して、数秒考えた茉由奈は適当に話を作ってみた。
「そんな……自殺とかは無かったよ!」
そう云った瞬間に優斗はしまったと思ったが、茉由奈はニコッと微笑んだ。
「やっぱり浮気の噂になってるのか……時々視線が冷たかったんだよなー。本当だから仕方が無いけど」
こんな時まで負けない強い心の茉由奈が優斗はどうしようもなく好きでしょうがない。
「気にしなければ良いだけだよ。その内、新しい話題に移るだろ」
「でも、ユウちゃんがこうしてあたしと話してると、浮気相手にされちゃうよ」
そう茉由奈が話すと優斗はニッコリと笑う。
「本当の事だから気にしない」
そう言うと優斗は茉由奈にあえて肩寄せる様にして隣に座る。
足元ではもう犬が解ってるみたいにおとなしく待っていた。
「困ったねー。自殺どころか心中相手が現れたとかね」
そんな近さで茉由奈は嬉しくなると、次なる噂の尾ひれを自分から考える。
「あのおばさん作家になれるな」
暗い話題も今のこの二人には笑い話にしてしまう。
「著作権料取らないとね」
茉由奈の顔はずっと笑っていてもう悩みはなく思える程に。
しかし噂と言うものは驚くほどの恐ろしさがある事に二人は気が付かないでいた。
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