第19話
次の日、優斗は半休では無く茉由奈の事も考えて有給休暇を使って葬式に参列した。とは言え茉由奈は泣いているか忙しそうにしてるかのどちらかで、落ち着いて話す事も出来ないで居る。やっと暇が出来たのは火葬になった頃だった。
外の日当たりの悪く寒いベンチに座っている茉由奈を見付けて優斗が横に座る。周りには人も居ないので気にせずピッタリと寄り添った。
「今も泣いてるの?」
ずっと顔を伏せている茉由奈に聞く。もう泣いていたとしても優斗が怖じける事は無い。
「うんうん」
茉由奈は顔を上げると優しく笑って首をふった。しかし、まつげにはまだ涙が残っているので、さっきまで泣いていた事は簡単に解ってしまう。
「俺の前では頑張らないで良いよ……」
そう言うと優斗は茉由奈の頭に手を置く。
「ありがと……じゃあ、悪いけどその言葉に甘えようかな」
茉由奈は再び笑う顔に戻るとそんな事を語る。すると茉由奈は優斗の肩に頭を乗せると瞳から次々と涙を流しはじめた。
「今は悲しい時なんだから、ちゃんと泣いておいたら良いんだよ。そうじゃないと次に楽しい時に笑えなくなる」
優斗は茉由奈の頭をポンポン優しく叩き続け、それは涙が終わるまで休まなかった。
愛しい人が泣いている。僕にそんな涙を受けとめるだけの力が有るだろうか。無いのかもしれない。今のあなたの哀しみはこんな事じゃ癒やされないと思う。だけど、今はそっと寄り添っていよう。僅かでもあなたの為になるのなら。
「ありがと、おかげでもう泣かないで済みそう」
それから思う存分泣いた茉由奈は、やっと泣きやむとニコリと笑顔を見せる。今度は本当の笑顔だった。
「それは良かった。俺……マユが泣いてると自分の事よりもずっと辛いからさ」
優斗はそんな事を言うと、照れ隠しに煙草に火をつけた。
秋の天の青さに寂しい煙が舞う。
「ユウちゃん、煙草吸うんだ」
「知らなかった? 一日にほんの数本だけど……キライ?」
考えてみると茉由奈の前では偶然も有って吸ってない。
「別に構わないよ。……ねえ……一本貰えるかな?」
「マユこそ吸うの?」
それこそ優斗は茉由奈が煙草を吸う所なんて見た事も無い。
「昔ちょっと吸ってた事が有るんよ。結婚して辞めた。ユウちゃんも女が煙草吸うのは駄目な人?」
「酒も飲んで煙草も吸うとは豪快な人だなと思って……案外そういう所好きかも」
さっきしまった煙草の箱を出して茉由奈に渡す。煙の柱は二つになり、並んで仲も良さそうに宙を舞っていた。
「どうしようもないこんな女を好きになってくれてありがとう。本当にあたしはこの世の中で一番の幸せ者なのかもしれないね」
にっこりと笑う茉由奈はもう冗談を言えるようになっていた。そんな茉由奈の安定剤になれた優斗は嬉しく思う。
「因みに酒と煙草を嗜む女が駄目なのって……」
そんな事は簡単に予想が付いていたが確認として聞いた。
「それはもちろん、あたしの旦那」
「やっぱり……俺は別に対抗意識とかじゃなくて、本当にそう思ってるんだからな」
確かに茉由奈の旦那と一緒なのはどうかと思うが、その反面で優斗は言うのではない。
「そんな事くらいちゃんと言わなくても解ってるよ」
茉由奈の方は楽しそうに顔をほころばせ笑い言う。それから茉由奈はすっかり軽くなってしまったおじいちゃんを連れて帰り、その後も数日間実家に居たが、すっかり落ち込んで更に運悪く優斗の仕事も忙しくて犬の散歩もまともにしてないので、会う時間も無かった。
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