第14話
ずっと黙っている茉由奈を連れて、優斗は近くに見付けたカフェで休憩する事にした。
店は流行りの雰囲気ではなく落ち着いた、時間のゆったり流れているかの様に思える所。優斗はコーヒーを二つ注文して茉由奈を見つめた。
「今日、俺はマユと喧嘩したかった訳じゃないんだけど」
愚痴を云っているつもりは優斗にも無い。こんな言葉になってしまっているけれど、そのトーンは結構明るい。
だからそれはちゃんと茉由奈にも解っていた。
「うん」
自分も、もちろんそうなのだろう。茉由奈はもう俯けないという程なのに頷いて答える。
「言いたい事とか愚痴でもちゃんと聞くから話してよ。黙ってたらつまらない」
優斗はテーブルに伏せるようにして、俯いている茉由奈を見上げる様にして語る。
「あたしって我が儘とか愚痴とか言い出したらくどいから、辞めといたら?」
今の茉由奈はにこやかな顔をしている。しかし、そんなのは作り笑顔だと直ぐに解ってしまい優斗の心が強く痛んでいた。
「会ってみて今度はマユと話したくなった。どんな事でも笑顔で聞くよ。こんな素敵な人の話を聞かないなんて馬鹿だ」
そう言う優斗は逆に本当のにこやかさを見せて笑っていた。
すると茉由奈はクスッと笑う。
「ユウちゃんって可笑しな人やね。普通は愚痴とか聞きたくないんやない」
「そんなん誰が云うたん?」
「えっと……」
茉由奈はバツが悪そうに視線を逸らして話を消そうとする。
窓の外は人通りはあまりなく車が時折走るくらい。
「旦那さん?」
そんな姿を見れば相手はすぐに解る。そんな人のことは本当を言えば考えたくもない。しかし、あなたがそんな事を言われたのだとしたら僕は勝手に怒ってしまう。
「そうだから……聞きたくないよね。ごめん」
またもや茉由奈の顔は俯いてしまう。こんなのは似合わない人なのに。
「そんな事は無いよ。俺はマユに興味がある。好きだから。聞かせて?」
嘘ではない。優斗にとって旦那の事になんか興味は無いが、それが茉由奈に付随しているのでしょうがない。
茉由奈は真剣に向かい合う人を見て答え始める。優斗はまだ笑顔を崩さないでいる。
「最近ね……旦那があたしは我が儘だとか言いよるから」
落ち着いたのかやっと茉由奈は俯き加減を辞めてた。
「うん」
聞きたくないような話題なのだが、優斗はちゃんと頷いて聞いていた。
「もうそんな事言われても、ってイラッとしながらもあたしも駄目なんかなぁ、って思う自分も居てどうしたら良いのかと思って、この前ユウちゃんにあんな事云ったのも我が儘だったなって後悔してたんよ」
「俺にはどんな事でも云うて構んよ。我が儘なところも含めて、全てのマユが俺は好きだから」
優斗はテーブルのコーヒーを手に取りながら話す。
「ズルい」
軽く笑いながら話す優斗に、茉由奈は唇をすぼめて見ていた。
こんな姿は逆にズルい。優斗は瞬時にそう思った。愛らしさだけで言うと百点を軽く超えている。
「確かにズルいかもね。でも、今の俺はそう思う。そしてちゃんと話す。マユの旦那さんとは違うんだよ」
「旦那に対抗意識有るの?」
そんな言葉に優斗はニッコリと笑って一拍、間を開けた。そして茉由奈の事をジッと見つめている。
静かな店内ちょっとロマンチックなくらいのジャズのメロディが流れていた。
「もちろん! バリバリに燃やしとるよ」
この優斗の答えにやっと茉由奈の表情にも笑顔が戻って、それからは楽しく会話が弾んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます