第13話

 着いたのは昔から有る水族館で都会の中心地から結構離れている為、それなりにすいていた。都会の相場より安いチケットを買い進むと、外気温よりは温かい程度の暖房に迎えられた。

「やっぱりデートっぽいね」

 静かな空間に居るのはカップルか家族連れで、子供が時折横を走っていた。

「それで?」

 水槽を見ていた茉由奈の横顔を見ながら優斗が急に聞いた。

「うん?」

 意味の解らない質問に茉由奈が首を傾げながら見返した。

「今回は俺が会いたいのも確かな理由だったんだけど、それ以上にマユの雰囲気が普段と違うから気になったんだ。どうしたの?」

「別にー……って嘘付いても解ってるんだよね」

 解らない筈がない。

 明るい声で話し始めるも優斗を見ると、茉由奈は急にトーンを下げていた。

 二人は話をしながら水族館を進む。

「マユの嘘って解り易いよ」

 一つの水槽で停まると優斗はそこに居るヘンテコな魚を眺めながら話す。

「そうかな……ねえ……会いたいって云ってごめん。あたし我が儘だったよね」

 茉由奈は頭を下げて詫びている。

 しかし、優斗はそんな事を気にしたことも無い。そんな頭を下げている様子を軽く見ると、優斗は直ぐに視線を水槽に戻す。

「別に、俺は我が儘とは思ってないよ」

「でも、一日しか休み無いのにあたしが会いたいって言うから……」

 確かに強行軍で有る今回の行程。しかし、そんな事は優斗本人が気にして無かった。

「そのくらいの事を気にしないでも」

「あたしの我が儘が悪いし……」

 こんな所で茉由奈は妙な頑固さを見せていた。更に三つの水槽を通り過ぎたが、特に見ることも忘れている。

「間違いなく今回は俺が会いたいからだよ」

 二人はもう魚が見る所だという事を忘れ話し込んでいる。

「違うんよ」

 茉由奈は泣きそうになりながら首を横に降る。

「違う事ないよ」

「ユウちゃんはあたしが会いたいって云ったから今、ここに居るんでしょ?」

 そう言われてしまうと優斗は黙って次の水槽へと移った。魚を見ている訳ではなく、時間を潰すために足を停めたのに過ぎない。

 優斗は若干怒っていた。しかし、それは茉由奈が我が儘だからじゃない。頑固さだ。でも、それも好きな所だと直ぐに改める。

「そうかもね……確かにマユが会いたいって言わなかったら二人は会えてない。だけどね、俺は今日会えて良かった。嬉しいよ。だからマユの我が儘にありがとうって伝えたいくらいやね」

 優斗の言葉を聞いた茉由奈は足が停まっていた。

 振り返った優斗が見ると、その表情は泣いてるようにも怒っているようにも見える様は顔をしている。

「我が儘にありがとうなんて言わないでよ!」

 静かな水族館にそんな言葉がワッと広がった。茉由奈が声を張り上げるので近くに居る人々から注目される。

 優斗は茉由奈の手を取り更に別の水槽へと移動する。

「どうしたの? マユちょっと我が儘って言葉を気にしすぎだよ」

 かなりの水槽を通り過ぎて、さっき居た周りの人達が居ないところまで進むと、優斗は優しく茉由奈の両肩を掴んで聞く。

「ごめん」

 そう言うと茉由奈は黙り込んでしまい結局それから水族館では特に話もせずに後にした。

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