第12話

 そして休みの前日、優斗は仕事から帰ると直ぐに支度をして、自分の住んでいる街から電車を使って、比較的栄えてるところから夜行バスに乗る。茉由奈の住む街まではこれで眠っている間に着く。朝になってから移動するよりはかなり時間を有効的に使える。優斗はそんな方法を選んでいた。ちょっとだけでも茉由奈と一緒に居たいと思ってしまうから。

 眠っている間に数百キロの道を勝手に走っている。まるで魔法に落ちたよう。でも、それは優斗にとって、嬉しい事でも有った。もし次の日に新幹線で向かおうとしていると、こんなに眠っている時間が無駄に思えてしまう。直ぐにでも会いたい人なのだから。

「寒い」

 都会の街はビル風が吹いて田舎よりも寒く思わせる。優斗は都会特有のビル風に吹かれながら華やかな街の一つの風景になっていた。

 優斗も昔働いていた所も都会だったが、この街とは規模が違う。そしてどうしてかこの街には暖かさが無かった。街には恐らく日本全国様々な所から集まった筈なのに、人々は一つの言葉を使って故郷を忘れたように暮らしている。そんなのが都会特有の冷たさを倍増させているのだろう。

「もう着いてるのかな」

 一方の茉由奈は自分しか居ない部屋で呟いていた。落ち着いた雰囲気はあるけれど、ちょっとさみしい印象の有る所で、今日は天気も悪いのでまだ若干暗い。窓から見える風景は雨こそ降ってないが、暗く重たそうな雲が広がっていた。そんな自分が一度は憧れていたが、もう飽きてキライになりそうな都会の風景を茉由奈はコーヒーを片手にしながら眺めていた。そんな事をしていると携帯が鳴る。メッセージの着信音なのですぐに優斗からだと解った。

『一応、着いてるんだけど会えるかな?』

 優斗の到着はかなり前過ぎたので適当に時間を潰してから、常識の範囲内になった時に連絡をしていた。

『うん……どっかで待ち合わせようか』

 茉由奈は返事を返すと、ため息を吐いていた。この部屋にはもう自分の落とした寂しさのため息があっちこっちに転がっている。それは茉由奈の心の寂しさだった。

 優斗にも分かりやすいようにメジャーな場所を選んだ。茉由奈は若干服装に悩みながらも準備を進める。

 携帯で調べるとすぐに場所は解ったので、優斗は困ることも取り敢えずは無く電車で移動する。電車から見る風景は地元とはかなり違う。どんなに目を凝らしても山が見えなく唯一見えるのはビルの間の富士山くらい。見ていると寂しい街である。地元の暖かさは全くもなく、こんな街に茉由奈は住んでいるのかと思うと悔しい様な哀しい様な気がして、泣きそうにもなる。

「流石にまだ着いてないか……」

 待ち合わせ場所の店の前に着いた優斗は一言呟く。周りには他の待ち合わせの人達も居るが、まだ約束の時間まで三十分近く有るので茉由奈は居ないだろうと思っていた。

「ユウちゃん……」

 一回り見渡した優斗の後ろから声がした。気のせいかとも思ったが、確かに聞こえていた。

「マユ?」

 振り返った所に確かに茉由奈は居た。どこまでもモノクロな都会の寂しい風景の中に華が咲いたようにそこに居た。

「実際に会うと、この呼び方は照れるね」

 照れながら下を向いて笑っている茉由奈は話していた。

 そんな姿が愛らしくて、優斗はつい微笑んでしまう。今直ぐにでも抱きしめてしまいたいが、周りに人も居るのでその場は手を振るだけで自分を誤魔化した。

「確かに……でも、マユに会えて嬉しいよ」

 三歩程近づくと茉由奈がそこには居る。昨日までは携帯でしか会えなかった遠い存在の人だったに今は手を伸ばせば届く所に居る。

「あたしも……ユウちゃんに会えて嬉しい」

 互いにあんなに会いたがっていた人なのに、本当に目の前にするとこんなにも照れくさく、二人共が真っ直ぐに見れないでいた。

「どっかデートに良い場所知ってる? 田舎もんだから思い付かなくて……」

 どうしようかと二人は考えて取り敢えずは散歩する事にした。段々とお互いの顔を直視出来るようになりその度につい微笑む。

「せっかくの都会なのに考えて無いの?」

 歩きながら茉由奈は話していた。まあ、普通なら考えているものだろう。

 茉由奈は優斗の歩幅に合わせる様に若干急ぎ足になる。そして優斗の方も茉由奈の歩くスピードを考えて時折停まってみる。お互いが相手の事ばかりを気にしていた。

「今回はマユに会うのが一番の目的だったからね」

 そんな事を簡単にも優斗が言うので、茉由奈は嬉しそうに顔をほころばせながらも隠れるように下を向いていた。

「どんな所が良いかな?」

「あんまり都会っぽく無い所。静かなのが良いかな」

 優斗は人混みが好きじゃなくて、更には今は好きな茉由奈とゆっくり話がしたい。

 そして、その考えは茉由奈も一緒。

「じゃあ、天気も悪いし水族館でも……」

 歩きながらも天を見上げて考えた茉由奈はど定番の思いつきを語る。

「それ名案!」

 そんな結論になり二人は移動した。

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