5 とりあえずプレゼントしてみた。
「今から友達を家に連れて行ってもいいですか?」
そう連絡を送ってみたら、比較的すぐに既読が付き
「もちろん良いですよ。では私は家を出ていますね」
「いや、陽菜さんには家にいてほしいんだ。新たな味方を紹介できそうなんだ。」
「というと?」
「俺と春樹の幼馴染の姉妹がいるんだけど、色々と陽菜さんの力になれそうだから是非顔合わせをしてもらいたいなぁ。と。」
「なるほど。わかりました。恥ずかしいので、あの夜の話はしないでいただけると助かります。」
ということでOK。
「うん、その女の子からOKもらえたから、とりあえずうちに着くまでに事情は話させてもらうよ。2人にはその女の子、陽菜さんの味方になってほしんだ。」
「まあユウとハルがそこまで気を使ってあげている子ってことは、そこそこ込み入った事情があるんだろうし、悪い子じゃなければもちろん。」
「で、どういう事情があるの?」
「おう、簡単に言えばお金がとても足りないってこと。で、夕青が当たった10億の一部を払い、代わりに家政婦として雇われているのさ」
「え、じゃあ私もユウに雇われようかな?」
「お前別に生活に困るほどお金困ってないだろ。陽菜さんはお母さん病気で入院してて、お金にとても困っているからという特別な事情と、俺が大金持ちっていう特別な事情と、その2人がたまたま大学で同じコース取ってて知り合いだったという偶然があったからやってるのさ」
そんな話をしながら俺たちは帰途に就いた。
美里と瑚花ちゃんには陽菜さんの家が、元々生活が苦しかったこと、その中でお母さんが病気で入院してしまいお金が足りなくなりそうということ、光熱費や食費を節約するために俺の家で生活していること、ただ実家が大学から近いので、そちらに帰ることも定期的にはあるということと、陽菜さんが黒髪ロングの美少女であるということを話した。
「じゃあ、ユウくんが選んでいた服って私たちというか、その陽菜さんのために買ってあげたって感じ?」
「確かに。話を聞いているとオシャレのためにもお金使えなさそうだもんね」
さすが陽の者。普通にバレた。
「あー、まあ確かに元々はそのつもりだったよ?でも、2人用とは別で用意してあるし、これはこれでこれから沢山お世話になるだろうし、今までもお世話になったから受け取ってほしいな」
そう言うと、2人も「そういうことなら」と言ってくれた。
というか、俺より春樹のほうが、この姉妹に散々世話になっているんだから、お前もなんか言えよ。という視線を送ると
「いや、俺は既に2人にプレゼントを渡しているのさ。」
「え、あのズボラな春樹がそんなことしてあげてるの?」
「「大概どっちもズボラだよ・・・」」
話を聞くと、春樹は美里と瑚花ちゃんにそれぞれ個人的にお礼のプレゼントを贈ったそう。ただ、中身を聞いたんだけど、どっちも答えてはくれなかった。冷たい。
そうこう話しているうちに俺たちは横浜に着き、家の前までやって来ていた。
俺が鍵を開けて家の中に入ると、まず美里と瑚花ちゃんが「えっ?」と声を上げた。
「ユウが1人暮らしを始めてすぐに来た時には1人しか住んでいないくせに玄関からとっ散らかっていたのにすごいきれいになってる!」
「家の中も、無臭だったのがなんか女の子の匂いが漂っている!」
「あ、おかえりなさい。そちらが2人の幼馴染の・・・」
「「すごいカワイイ女の子が出てきた!!」」
「えと、あちらが陽菜さん。でこっちの2人が姉妹で姉が美里、妹が瑚花ちゃんね」
玄関での簡単な自己紹介を済ませ、陽菜さんによって別の家のように生まれ変わった我が家を一通り物色し終えた姉妹をリビングに来させ、最大4人で生活していた我が家に5人のお友達が集結してテーブルを囲んだ。
女性同士の初対面はお互いが人当たりが良いこともあってみた感じはすぐに仲良くなっていて、連絡先の交換とかもすぐにしていた。そこから話は俺と春樹の昔の話(恥ずかしいので止めさせた)とか、俺と春樹の最近までしていた共同生活が1か月でどれだけ破綻しかかっていたか(恥ずかしいので止めさせた)とか・・・
「あ、そういえばユウとハルから陽菜にプレゼントがあるんじゃなかったっけ?」
「え!今?」
美里からの雑なフリで、あとで姉妹が帰ってから渡そうと思っていたプレゼントをとりあえず俺の部屋から春樹と一緒に持ってくる。計4袋にまとまったその荷物を俺と春樹から陽菜さんに渡す。
「陽菜ちゃんには、朝早いときに弁当作ってもらったり、来てもらう前までは俺と夕青で分担していた家事を1人でやってもらったり、しかもおいしいご飯が3食食べられるようになって、俺たち2人だけの生活が破綻しかかっていた中ですごい助かったので・・・そのお礼をさせてもらえればと」
「うん。俺も家にいるときに昼ごはんまで作ってもらったり、夜遅くまで作業していてもコーヒーとか持ってきてくれたり、俺の書いた作品も読んでくれて色々指摘してくれたり、とても助かってます。しかもいろいろと俺もお節介が過ぎたところもあると思うので、このプレゼント、美里と瑚花ちゃんの意見も聞きながら最終的には俺たち2人で選んだもので、服からアクセサリー、あと香水とかアロマオイルとか色々あるので、ぜひ使ってください。」
そう言って陽菜さんにプレゼントを渡すと「中身、見てみてもいいですか」と言って袋の中のものをテーブルに並べていった。
改めて自分で見てみると、これが1人分のプレゼントなのか疑うくらい様々な服やアクセサリーなどが詰め込まれていて、ちょっと驚いてしまった。自分で買ったのに。
すべて荷物を出すと、真顔のまま全体に目を通していくつかのアイテムを1つの紙袋に戻してから「少しだけ待っていてください」といって、駆け足で部屋に戻っていった。さらには「私たちも手伝いに行くわよ、瑚花。」「そうだね、お姉ちゃん」といって、2人もいなくなってしまった。俺と春樹は2人でリビングに取り残されてしまった。
「え、笑顔だったら選んだものでコーディネートしてきてくれるのかと思えたんだけど、あれだけ真顔だと、なんかちょっと怖いね」
「いや、真剣に選んでただけだろ。これだから夕青はなぁ・・・」
「一言余計だコノヤロウ」
そんなことを言い合いつつ10分ほど待っていると、陽菜さんに貸している客間から「キャー!!」「カワイイ、カワイイです!!」と大きな声が聞こえて、それから頬を紅潮させた姉妹が駆け足でリビングに戻ってきた。
「あんたたち、私たちに隠れてコソコソ買い物した割にメッチャいいセンスしてるじゃない!」
「うん。素材がとても良いけど、それを更に引き立てる素晴らしいチョイス。ユウくんとハルくんのくせにすごい。」
「おうおう、褒められているのか貶されているのかわかんねえけど、とにかくいい感じってことだな?」
「それは見てのお楽しみよ!!」
女子たちはすごい興奮しているんだけどさ。まあ俺たちが選んだものを身に着けてくれたみたい。さっきはちょっと心配になってしまったが、それは一安心。すると、客間の方から扉の開く音がして、そして陽菜さんが俺たちのいるリビングにやってきた。
そこにいたのは、真っ白なワンピースを身にまとった女の子。開けていた窓から吹き込む心地よい風はそのワンピースの端をたなびかせ、綺麗な黒髪も風に揺られて綺麗に広がる。そんな気ままな風は、俺たちのところに子供は使わないけど、若々しさが伝わってくるフローラルな匂いが彼女の清楚さをより引き立たせる。髪を押さえるために持ち上げた右腕には控えめだけどアクセントになる細身のブレスレット。そして外の光に照らされて眩しく見える細く色白な腕と脚。
俺と春樹はもちろん、さっきまで一緒にいたはずの美里と瑚花ちゃんも目線を持っていかれて。
そして俺は「彼女」の美しさに心を奪われた。
「みなさんにそんなにジッと見られているとすごい恥ずかしいです・・・」
「いや!やっぱり陽菜カワイイよ!これで東京行ったらナンパの嵐、スカウトの嵐間違いなしだね!!」
「今まであまり感じたことなかったけど、これが美少女を見ると視力が上がった気分になるってことなんだね。」
まずは女性2人がおじさんくさいコメントを残す。
「うん。選んでいるときも、もちろん似合うと思って選んでいたけど、まさかここまでぴったりに陽菜ちゃんと合うとは思わなかったよ。な、夕青?おーい夕青?」
「へあ!?あ、うん。いや、陽菜さんすごい似合ってるよ。さっきは無表情で袋からプレゼントを出し入れしてたから、もしかしてお気に召さなかったかと思ったけど、いや実際そうかもしれないけど、俺はその服すごい似合ってると思うよ!」
「あ、ありがとうございます。別に気に入らないとかそんなこと、むしろ選んでもらったものが、どれもよいものだったので真剣に選んでいて無表情になってただけです。友達にも、服とか料理とか選んでいるときの顔が怖いといわれるのですが、そうなんでしょうか・・・」
そう陽菜さんが言うと、隣から春樹が「ほらね」って小声で言ってくる。また、美里と瑚花ちゃんはひたすら陽菜さんにカワイイカワイイと目を輝かせて話をしていた。
そんな光景を見ながら、俺と春樹はお互い目線で「プレゼント大作戦成功だな」と言ってグータッチを交わした。
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