4 とりあえずショッピングしてみた。

「陽菜さんへのプレゼント大作戦」

 日ごろの感謝を伝えつつ、まったく受け取らない陽菜さんのファッション用のお金をこちらで勝手に使って現物にしてしまい、プレゼントしてしまおうというおせっかい極まりないこの作戦は、様々なファッション関係のお店がまとまって入っている場所、なおかつ偶然に偶然が重なって陽菜さんと出会わないような場所に横浜から電車で20分くらい掛けて、郊外のショッピングモールにて実行されることになった。

 平日の開店直後とあって結構空いていて、俺と春樹はまず別行動で気になるお店を見て回り、一角にあるいつもお世話になっているカフェに入って情報を共有して買うものを決めることにした。

 今まで女の子にプレゼントを贈るなんてことをしたことはないし、何なら服だって自分のやつも無難なのを有名大型店で買っているだけなので贈答用なんて...

 まあ1人でレディースのお店に入る男性(彼女いそうにない風貌)、これはまずい。春樹と2人だとしても、相応の理由がないと入りづらい。これを考えなければいけないというのが一番の収穫だった。

 あとは服に限らず、香水とかアクセサリーなら化粧より陽菜さんに合ったものを選びやすそうというのも思った。まあ好みもあるところなんだろうけど。服のセンスないから小物系を選びたいと思った次第です。

 さて、春樹とカフェで集まったんだけど正直行き詰っていた。

「改めて俺たちって実力不足だと思い知ったよ」

「ああ、あと普通に男1人で女性もののお店に入るのきつかったわ」

 なんか「これ陽菜さんに似合いそう」というのもがあって、それを買う軍資金も潤沢だけど、大前提である「お店に入る」ができない。もう通販で買うか。


ピーンポーン

陽菜さん「はーい」

宅配員「お届けものでーす。中山・・・ゆ、ゆ、ゆあ?さんですか?」

陽菜さん「・・・あ、まあ、はい。中山です。」

宅配員「じゃあ10個口なので、これ全部お渡ししますね?」

陽菜さん「へ?はあ。え、これ女性もののブランドの箱?これ有名な香水屋さんの    

     箱?なんだろう??」


俺「ただいまー」

陽菜さん「おかえりなさい。ところで夕青さん宛で女性ものブランドから大量のお荷物届いたのですが、えーと部屋に置いてありますので・・・」

俺「あ、それ全部陽菜さんのためのやつ。全部あげるよ!」


 ・・・うん。家にいる時間が俺より長い陽菜さんが先に荷物に触れたらあんまりいい印象を持たれないよな。はあ、買ってかなきゃ。

 お金がないからか、大学や高校の友達もいるみたいなのに全然遊びに行かない陽菜さん。言ってくれれば遊ぶためのお金あげるのになあとかいつも思うけど、逆の立場だったら受け取れない気持ちもわかる。

「まあとりあえず、買いやすいものから買っていこうか。」

「ああ、せやな。」

 俺たちは覚悟を決めて、とりあえず入りやすそうなレディースの服屋に向かった。

 んだけど、店の前で2人して立ち止まってしまった。

「お、おい夕青、早く入れよ」

「いや、春樹、ここは一緒に入ろう、せーの」

・・・どちらも一歩も踏み出さなかった。。。

 おいお前が言ったんだろ!いやいやお前だって、と女性向けの店の目の前で男同士が口喧嘩を始める。もちろん周りの目は集める。

「・・・やっぱりユウとハル?だよね。何やってるの?恥ずかしくないの?」

「いや、だってさ美里、春樹のやつが・・・え?ミサト?」

「え、美里じゃん。奇遇だな」

「いやあんたたち周りみて、めっちゃ見られてるよ?」

 一旦、落ち着いて周りを見てみる。

 俺と春樹の周りには女子2人と、それしかいなくて少し距離を置いたところから平日とは言え昼になり、そこそこ人が出てきたようで多くの人がこっちを見ていた。

 確かに恥ずかしいなおい。

 まあやってしまったことを気にしてもしょうがないので、目の前の2人に視線を向ける。

「美里とコハナちゃん、久しぶりだね」

「あなたたちが2人暮らし始めた時に1回家で遊んで以来ね」

「ユウくんもハルくんも久しぶりだね」

 この2人は俺たちが小さいころから仲の良い姉妹で、姉の及川美里は小学校の時に気づいたら仲良くなってたヤツ。そしてその妹の瑚花ちゃんは小さいころからミサトと一緒にいたので仲良くなり、春樹の妹とはおない年なのでとても仲が良い。小さい頃は俺、春樹、春樹の妹の光梨、そしてこの姉妹で遊ぶことが多く、ここに時々俺の姉が加わった6人組で遊ぶこともあった。

「てか2人はこんなところで何してるの?ここ女性ものの服屋よ?」

「え、あーね」

やべぇ、何にも思いつかねぇ。どうしよう。とりあえず春樹の方を見る。

春樹もこっちを見ていた

「「チッ、使えねぇ」」

「もしかして、ユウくんのコスプレ用とか?ユウくんアニメ好きだし、何かのキャラのコスプレを」

「そうそう、そうなんだよ。それで色々服を見たいって言うんだけど、全然店の中に入ろうとしなくてね」

「いや、俺はコスプレしないわ。レイヤーさんを眺めてるだけで十分だし」

(おまえ、なんでいい感じにごまかせそうだったのに否定してるのかなぁ!?)

(あ、やべ、つい)

 あああああああ、どうしよどうしよ・・・

「いや、ね。本当のところは、2人暮らし始めたんだけどまあ大変だから、美里と瑚花ちゃんにお世話になることもあると思って、2人に服とかいろいろプレゼントしようと思ってさ」

 ギリギリ思いついたとても嘘くさい理由だけど、どうやら姉妹は違和感なく受け取ってくれたみたい。ちなみに今も近所に住んでいるのに会わないが、連絡は取りあっているので、俺らが2人暮らしをしていることは知っている。

「へぇ、そんなことくらい何も買ってくれなくても別にご飯作るくらいしてあげるのに」

「まあ、俺も高校の時お世話になってた分のお返しができてなかったから。ね、夕青?」

「と、春樹も思ってたのでこっそり買いに来たわけなんだけど、まさか当の本人たちと出会ってしまうとはね」

「うん。ユウくんたちがこんなところでなんか目立ってるから私たちもびっくりしたよ」

「ってか、ユウとハルはここのお店の服が私たちに似合っていると思ったワケ?」

 そう。今俺たちがいるお店はザ・お嬢様みたいなワンピースのような清楚を極めたようなお店。そして、美里はザ・陽キャ的な派手な服を好み、今日もミニスカを着こなしている。これについては中学の時にミニスカ履きながら寒い寒い言っていた美里に、俺が「寒いならなんで足晒してんの?バカなん?」と言って一発蹴られたことがあり、以後触れないようにしている。瑚花ちゃんはザ・スポーツ女子なので、今日もハーフパンツにパーカーという装い。ちなみに瑚花ちゃんは部活入って特定のスポーツを極めているというより、どんなスポーツも卒なくこなす万能タイプ。

 ので、この2人はお嬢様系の服は着ないタイプの人たち。あ、やべ。

「え、いや。だって2人ともこういうの着ないじゃん?似合うんじゃないかなーって。春樹が。」

「は!?・・・あーうん。そう、そう思いました。」

 そう俺たちが言うと、姉妹は顔を見合わせてからクスクス笑い始めた。

「アンタたちがそんな風に思っているなんてね」

「うん。2人がそういう風に見ていると思うと、面白くて」

 2人が笑っているのにつられて、俺たちも「そうだな」って笑う。

 そして、2人の好きなものや陽菜さんに似合いそうなものを見繕いながら、俺たちは夕方までお買い物を楽しんだのだった。


                  ***


 ショッピングモールから最寄り駅までの帰り道。

「いやーまさか10億当てた人が友達にいるなんてびっくりしたよ」

「ユウくん、新しいランニングシューズも買ってくれたし、お金持ちって感じ。ハルくんは全然羽振りよくないね。」

「俺は宝くじ当たってないから、バイトと仕送りだけでやってるので。」

 まあ、値札とかそんなに見ずに服からアクセから香水から台所用品から様々なものを買い込み、用意してきた約10万円は一瞬で消えた。代わりに、俺と春樹が両手両腕両肩に掛けたり持ったりしている大量の荷物になった。

 流れ上仕方ないので美里と瑚花にも買ったし、うまく春樹が姉妹を連れ出して、陽菜さん用のものも買った。

 久しぶりに美里と瑚花ちゃんと会って話ができたし、このメンバーは小さいころから知っている10数年来の仲なので、何でも話ができる。それは向こうも同じみたいで、意外にも美里が看護の専門学校にいった話や俺と同じ高校に入った瑚花ちゃんの高校での話とか、俺の大学、春樹のサッカーコーチの話とか、みんなこの春から新生活が始まったので話題は尽きなかった。

 そんなだから、ショッピングモールの最寄りの駅前にあるカフェでもう少し話をしていこうとなった。奢られてばかりで申し訳ないと、ここでは美里が1杯おごってくれた。

 それから1時間くらいそれぞれの新生活の話で盛り上がったんだけど、ところでと美里が切り出してきた。

「そういえば、この前ユウが女の子と家帰っていくところを見たんだけど、あれはカノジョさんかなー?」

へ?

「黒髪ロングでスラっとしてて、すごい仲良さそうな感じだったけど、あれは誰なのかなぁ?」

「え、ユウくん大学デビューしたの?ハルくんは知ってるの?」

「え、あ、うーん。なんとなく?」

そう言って春樹は俺に困った視線を送ってくる。

 まあ確かに、一緒にマンション入っていくところを見かけたら付き合っていると思われるし、そもそも見られてたんかいっていうところにびっくり。

 確かに1回だけ大学の最寄り駅でバッタリ会ったので一緒に帰ってきたことがあった。「レポートが大変」「○○さんがこんな話をしていた」「え、俺まだ友達いない」「あっ」みたいな楽しい話をしていたんだけど、楽しかったから周りが見えていなかったみたい。

 とはいえ、彼女でもないのに彼女と言ってしまうと、陽菜さんに迷惑だろう。しばらくは光熱費削減のため、うちで過ごすことも多いだろう。その時に、しらねぇ女(美里)から「え、夕青のカノジョさんですか?」とか言われても大変だろう。そして、陽菜さんは女子で俺らは男。地元に帰れば友達もいるとは言え「お金にとても困っていて、光熱費も怪しいし、母も入院していてとにかくお金がない」なんてことは相談しづらいだろう。俺らはお金困りすぎて行動を起こした結果出会ったから、そういった話もできるかもしれないけど。

 なので俺は思い切って陽菜さんに1本、連絡を入れてみるのであった。


「今から友達を家に連れて行ってもいいですか?」

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