3 とりあえず共同生活始めてみた。
けっこう色々あった日の夜も更け、疲れからかリビングでそのまま寝てしまった杉田さん・・・もとい陽菜さんをもちろん襲うわけもなく、俺と春樹も互いの寝室に入って眠ることとした。
・・・んだけど、風呂入って買ってあったコーラ飲んで頭が少しシャキッとしてきたら、さっきまでの自分の行いが客観的にみると、とても恥ずかしいことであることに気づいてしまった。そのせいで眠れず、夜明け前にトイレに行ったあと、どうやら急にスイッチが切れたみたいで、トイレの前でうつぶせに倒れているところを陽菜さんに発見されて大騒ぎになったところから今日は始まった。何やってんの俺・・・
「昨日は家政婦みたいなことする必要ないくらい夕青さんは自立していると思ったんですが、そんなことなさそうですね」というのは、倒れていた俺を介抱する流れで俺の部屋の中に足を踏み入れた後に頂いた言葉である。まあ、俺の部屋は壁に沿って並べられた大量の本棚と端にあるベットと机、そして足元には大量の本が置いてあるというお部屋、もとい「汚部屋」というやつだからだ。だってしょうがないじゃん、本棚足りないんだもん。
そんな言い訳をしていると「意思とやり方次第でこのくらいならどうとでもなります」「はいその通りです申し訳ございません」ということで、休みの今日はお片付けしないと出ていくという、最強の条件を出されたので、部屋の扉を開けっぱなしにしてお仕事をすることにした。ちなみに春樹は母校のコーチとして今日も朝からサッカーしに行っている。あいつも大概汚ぇぞ!と陽菜さん告発したが、そんなの関係ないと一蹴されてしまった。
まあ、いつかやらなきゃいけないとは自覚していたので作業を進めていくのだが、如何せん片付けをまともにしてこなかったので要領がわからない。そして本をしまうスペースが捻出できない。果てには本の中身を確認するために開いたらついつい読んでしまう始末。
「夕せ・・・何じっくり本読んでるんですか?」
「あぁ!こ、これはっ、大変申し訳ございませんでした。どうかお慈悲をッ!!」
「・・・少し進んだんじゃないですか?ちゃんとやってくださいね?」
「はい。仰せのままに」
そんな会話から、俺の片付けに対する真剣味が伝わらなかったのだろう。陽菜さんは自分の荷物を持って玄関に向かっていった。
「待って待って待って!!!ほんとうにごめんなさい。真剣にお片付けしますから!昨日の今日で陽菜さんに出ていかれてしまうととてもかっこ悪くて恥ずかしいのです。春樹に一生いじられるし陽菜さん、いいえ陽菜様とも大学内でお会いした際に合わせる顔もなくなってしまいますので。事情を聴いた今、何も助けてあげられないのは大変心苦しのであります・・・何卒、思いとどまってくだされ。」
という俺の嘆願をすべて聞いたあと、陽菜女王殿下は土下座している俺に目線を合わせるため屈んでから、俺にこういった。
「別に出ていくわけではありません。私としてもとても良い契約なのですから。普通に一度家に帰って生活用品を取ってくるついでに夕飯の買い物をしようと思っただけです。あ、そういえば食費ってどこからお金使えばいいか教えてもらわないとですね。あと例の宝くじの件も」
「ひ、陽菜さん!よかっ・・・た、あ」「??,,,っっ!!」
説明しよう。俺は土下座していたが、安心して顔を上げようとした。もちろん目の前には陽菜さんがいる。陽菜さんは俺に目線を合わせるために屈んでくれていた。ここまでアンダースタンド?そして昨日着ていた服しか持っていないから、まあ、ちょっと露出高めなお召し物を着られているわけで、その、まあミニスカートなわけさ。だから、そのぅ、俺が顔を上げると目の前は・・・ね?あ、そうか。見られることを想定してこんな派手なものを穿いて、ヴッ!!
・・・説明しよう。俺は土下座して、じゃなかった。ショックで記憶が一瞬飛んでしまった。陽菜さんも「見られた」ことに気づいて急に立ち上がったんだけど、まあ俺の目の前にいたわけだから、立ち上がった際に陽菜さんの膝が俺のおでこにクリーンヒット!!したのさ。それが「ヴッ!!」という声が出た理由。
「あ、あのごめんなさい。大丈夫ですか?」
「うん、たぶんだいじょばなさそうだけど大丈夫だから気にしないで、いろいろ」
「最後の一言が余計です!お互い様ということでいいですね!」
「はい。ありがとうございます。」
「まったく、夕青さんは何を言っているんですか。もう・・・じゃあ行ってきますのでいい子にお片付けしていてくださいね?」
そう言い残して照れなのか怒りなのか、はたまた両方なのかわからんが、陽菜さんは顔を真っ赤にして我が家を出ていった。
そして俺はおでこを真っ赤にしながら部屋の片づけをするのであった。
***
時は流れ、「家族以外の下着(しかも結構攻めたやつ)初めて生で見えちゃった事件」(俺の脳内での呼称)の日の夜。俺は陽菜さんから許されるレベルで一旦片づけを完了し、通帳を見せて俺が大金を所持していることを確認しもらい、先の契約通り、100万を先払いするためお金を引き出した。渡す際にはやはりまた少しごねられたが、「朝、下着を見てしまったことに対する慰謝料として受け取ってください」と言ってみたら、また顔を赤くして「あの時のことは思い出させないでください!」と言い、一呼吸おいて自分を落ち着かせてから「私は自分の下着を100万円なんて安値で売り出した記憶はありません」といって俺にニコニコと冗談を・・・え、冗談だよね?
「冗談ですよ。これ以上もらったら余計問題です。あの件は別に恨んでないですから、お願いなので思い出させないでください///」
ということだった。ということで、一旦陽菜さんの直近のお金の問題は解決しただろう。
そのあとは改めて俺の家のどこに何があるかや家電等の使い方を説明し、食費など家政婦をやってもらう上で必要になってくるお金を財布に入れて渡した。
「正直、食費とかに月いくら掛かるか想像がつかないから適当に2万円入れておくね。一応、俺と春樹というかお互いの家から月5万円づつ出し合って生きていく上での必要経費を賄っている感じなのさ。極力レシートは残してもらって、足りなければ言ってもらえれば追加していくので」
「分かりました」
「あとは、この財布を渡しておくね」
「これは何のためのお金でしょうか?」
「ふふふ、これは魔法の財布でね。我が家の食卓の上に置いておくと次の日にはあら不思議。財布の中身が増えているんだよ。陽菜さんも女子だし大学生だし、1日一緒にいてよくわかったけど身の回りは清潔かつ身なりもしっかりしたい人だろうから、この財布の中身は自由に使ってもらって構わないよ。ボーナスと思ってください。ボーナスタイムは最高効率で稼いでいかないともったいないよ!」
「分かりません」
「うん、じゃあ今後の計画については・・・え?わからない?」
「はい。財布の中身が増える魔法というところが解せません。どうして増えるのですか?0から1を生み出せるのであればその仕組みをもっと有効活用していくべきではありませんか?魔法の対価は何なんでしょう。もしも大切なものを対価として取られてしまっているのであればその魔法は使うべきではないと思うのです。どうなんですか夕青さん。答えてください。」
「へ、あ、あのう、ちょっとそのあたりは、よくわかっていなくてですね・・・」
そりゃ当たり前だろ、俺がこっそり財布にお金入れていって「これで服とか化粧品とか買ってくださいねー」ってやるつもりなんだから。そして焦ってて気づくの遅れたが、陽菜さんめっちゃ笑いかみ殺してるじゃん。絶対俺のやろうとしてることお見通しじゃん。
「ちょっと意地悪しすぎましたね。まあ、夕青さんの私を思っての気持ちはとてもありがたいと思います。でも、ただでさえお金を借りて、住まいまで貸してもらっている身で、そこまでしてもらうわけにはいきません。持っているもので健康で文化的な最低限度の生活を送らせてもらい、それで満足するつもりです。」
そういって陽菜さんは台所に行って夕飯の支度を始めてしまった。
陽菜さん、意地でもこれ以上お金受け取る気がないな・・・
というわけでそれから数日後、徐々に陽菜さんは我が家での生活に慣れてきたようで、朝は俺より早く起きて朝食の準備、大学ある日は弁当も作ってくれるし、ない日は俺の空腹状態を確認してくれたうえで昼食も作ってくれる。そして夕飯も作ってくれるし、それは春樹に対しても。コーチしに行く日は朝もそこそこ早いけど朝食と弁当を用意してあって、相当助かっていると春樹からは聞いている。その話を聞いて、なおさらいてもたってもいられなくなった俺は、まず春樹を招集した。
「春樹、そろそろ陽菜さんに家政婦してもらうようになってから1週間だ。QOLはどんどん上がっていっている。違いないな。」
「QOL、ああクオリティ・オブ・ライフ、生活の質のことね。うん、俺ら2人で生活していた少しの間が地獄のように思えるほど、そして家族と一緒に生活していた頃が霞んでしまうくらい、今は充実している。」
「うむ。俺も同意見だ。正直、思っていたより遥かに陽菜さんの女子力というか生活力の高さに驚かされている。」
「しかも陽菜ちゃん可愛いしな。可愛い女の子と毎日一緒に生活しているわけだ。」
「ああ、最高以外の何物でもない。世の中でみても、世間一般が可愛いと思える女の子が住み込みで三食作ってくれて、家事をやってくれて、しかも一緒にご飯食べてくれるなんて幸福を享受している人は一体どれだけいる?」
「ほぼいないだろうな。そして、彼女でも親戚でもない女の子を関係者の両親が誰も知らない状態で家に連れ込み、家事をさせる男2人というのは世間一般の常識から行くとギリギリ犯罪だ。」
そして2人で心に大きなダメージを受ける。
マンションに住んでいるおかげで、玄関先で出くわさなければどの部屋に住んでいる誰かというのは簡単にはばれない。まあ「見ない顔だな」「何階の誰さんだろう」くらいに思う程度だ。今の社会がお隣さんと仲よくしようという風潮じゃないことが問題とされているが、今はそれのおかげで色々助かっている。しかも俺の家は角部屋で、1つしかないお隣さんが中川家、つまり春樹の家なので、より周りに陽菜さんが中山家(俺の家)に出入りしていることがバレづらくなっている。そこまでは、まあよくはないけどとりあえず何とかなっているのでOKです!
「でさ春樹、お前って陽菜さんに1銭もお金払ってないわけじゃん?」
これは春樹にのみ大ダメージ。春樹の家に上がってまではさすがに陽菜さんもやっていないが、俺の家で飯を食べるときは陽菜さんの料理を食っているし、さっき言ったみたいに弁当も作ってもらっている。
「俺もさすがに何も支払わないのはまずいと思ってるよ。」
「それはよかった。でな、俺は1つ作戦を思いついたので春樹にも協力してもらおうと思っていたわけさ。」
「・・・詳しく聞こうじゃないか」
俺の考えた作戦はこう。「ほしいものあったらこれで買ってね?」とお金を渡すことは今までの経験上不可能だろう。陽菜さんの財布に諭吉を忍ばせてもばれるし返されるし、人の財布を勝手に開けるのはマナー違反だろう。
なので、もう俺たちで必要そうなものを片端から買って、現物を陽菜さんに押し付けゲフンゲフン、プレゼントしてしまおうというもの。服とかいろいろ、もう現物が来たら返品してまでお返しとはしないだろうし、事情を説明してくれれば受け取ってくれると思っている。やりすぎなければ。
ただ、非リアたる俺は女の子の好きなものとか似合う似合わないは全くわからない。なので、高校時代にそこそこモテていた春樹を頼ったというもの。完璧すぎる・・・
「でも、俺付き合ってたことはあっても、部活忙しかったから彼女と買い物デートとか行ったことないよ?一緒に遊べることが少なかったから別れちゃったし」
「え、じゃあ春樹を誘った意味ないじゃん。どうすんの?」
「おい、意味ないは言いすぎだろ付き合ったことないくせに」
「おうおううるせぇなあ。確かに付き合ったことはないが、べつに女の子と付き合う余裕がなかっただけだし?別に付き合おうと思えば自分から告白とかしてたし?」
「自分で言ってて悲しくならないのか?」
「ごめんメッチャ悲しい。泣いていい?」
「黙れアホ。話を戻すぞ。俺らと同世代の女子の好きそうなものを知っている身近な人と言えば・・・うちの妹かお前の姉貴がちょうどよいか?」
「ああ、だが俺の姉貴はアラサーぞ?若者の好みについて来れるとは思わん」
「今の録音しといたから今度会ったら智夜さんに聞かせてあげよう」
「ごめんなさい、あの人怒らせると面倒なのでそれだけは勘弁してください」
ってかそもそもなんて言って妹や姉から聞き出すのか、というところで挫折し、仕方ないから今度の休みに俺らの力で何とか買い物をしようということになった。んで一応俺のほうから、それとなく陽菜さんのほしいものを聞き出せないか会話を試みるということになった。
その日の夜。さっそく俺は陽菜さんにそれとなく話をしてみることにした。ちなみに日ごろからコミュニケーションは欠かさず取っている。夕飯に雑談程度では怪しまれない。
「陽菜さん、うちに来てから1週間経つけど、どう?」
「もうそんなに経ったんですね。あっという間でした。」
そんな始まりから1週間のいろんな出来事の話をしていく。そこからは、その期間お互い大学でどう過ごしていたかについて話したりもして。
「前に失敗しちゃったけど、やっぱりJDは服とか化粧品とか身の回りのものでほしいものとか出てくるんじゃないの?」
「まあ、さすがにゼロとはいきませんけど、今の状態で十分満足していますよ?」
「ゼロじゃないって言うと、例えば何が欲しいの?」
「まあほしいというほどでもないですが、服は少し足りないかな?と思ってます。高校時代は制服があったので、お金がないこともあって私服は最低限しか買っていませんでしたので、私服メインの今の生活だと少し足りないかな、と」
「じゃあやっぱりお金少し渡すからさ、好きなの買って来なよ?」
いやいや、それは申し訳ないです。頂いたお金の中からやりくりして、余ったお金で何とかします。の一点張りだった。
陽菜さんの中で、俺は「ことあるごとにお金を渡してくる変な人」という認識になってしまっているのがわかり、ちょっと悲しい気持ちになったが、おかげで欲しいものは聞き出せた。
では「陽菜さんへのプレゼント大作戦」を始めようじゃないか。(予算10万円)
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