第2話 先輩
次の日、春斗は人目につかない木陰の下で昼食をとっていた。
ここには他の生徒があまり来ないため、静かで落ち着ける彼のお気に入りの場所である。
そこへ静寂を破るように聞き覚えのある声が聞こえ、春斗はそちらへ視線を向けた。
「あ!いたいた、穂影春斗くん♪」
「…なんで名前」
その人物は、彼の名前を呼ぶと嬉しそうに近づいてきて隣へ腰掛ける。
春斗は名前が知られてしまったことに苦い顔をすれば、なぜ分かったのかと疑問に思い尋ねた。
「同じクラスの生物部の子に聞いたんだ!あ、お昼一緒に食べてもいい?」
「嫌です」
千隼は質問に迷いなく答えると、相手をランチに誘ってきたが彼はすぐに断った。
なぜなら昨日初めて会った名前しか知らない人物と食事をする意味が分からなかったからだ。
「んーじゃあたまたま横で食べてた先輩ってことで!」
「勝手にしてください。」
断られて諦めるかと思いきや、それでは納得がいかなかったのだろう。
少し考えるような素振りを見せるも、そのままおにぎりを食べ始めたのだ。
彼はその様子を見てため息をつくと、自身も黙々と弁当を食べ始める。
「七瀬先輩ー!」
「あれ、どこ行ったんだろ。」
「あーあ、せっかく春くんと一緒にいれたのに。ごめん、俺行くね!」
しばらくして女子生徒達の声が聞こえれば、千隼は残念そうな表情をして腰を上げる。
そしてひとこと告げると足早にその場をあとにした。どうやら会いたくない人物のようだ。
「あ!ねぇ七瀬先輩見なかった?」
「分からないです。」
その後探し回っていた一人が近づいてきて居場所を問うも、春斗は面倒事に巻き込まれたくないと知らないふりをした。
彼女達は困ったような表情で軽くお礼を言うと、また千隼を探しに駆けてゆく。
好きだと追いかけたくなるものなのかと疑問に思いつつ、彼は教室へ戻る為ゆっくりと立ち上がり歩き始めようとした時だった。
「これって…」
ふと足元に落ちていたスマホを見つけて拾い上げると、見覚えのあるキーホルダーがぶら下がっていて記憶を思い起こす。
少し経って、千隼のスマホと分かった春斗は誰かに頼むことも考えたが校内で知り合いはほぼいない。
その為、仕方なく本人へ届けようと決意したのだった。
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