第9話「心の病気、身体の病気」


 このどっちつかずの状況に耐え切れなくなてしまったのか、彼女はうつ病になってしまった。休職はしていないが、精神的に不安定なことが多くなった。……ああきっと、私のせいだ。素直に私が身を退けばいいのだろうが、彼女が他の男性と結婚している事実を抱えたまま彼女の友達になんてなれないと思った。


 そして私も、職場でどんどん追いつけなくなっていく。毎日足が痛い。躓くことが増えた。あれ、おかしいな。……やめるか、この職場。先輩は優しい人が多いけれど、特定の人に嫌がらせをされていたのと、とある上司との方針が合わないせいで精神的、身体的ストレスが異常だった。誰に相談しても、やめた方がいいよ、と言われ、初めての就職先は7ヶ月で退職することになった。


 すぐに転職先を探したし、見つけた。彼女に幻滅されたくなかったからだ。そこそこ有名なところに転職が決まった。……なのに、あれ、指が、……。朝起きた時に、指が動かない。なんだこれ。しばらくすれば動くようにはなってくるものの、何かがおかしい。


 全然改善する兆しがないから、これはもしかして──と病院を受診すると、血液検査に異常が見つかり、専門の病院を紹介された。え、嘘……? 転職して頑張ろうって時に……? ──そうして私は、元々抱えていた持病、不眠症に加えて、新たな病気も抱えてしまうことになった。


 しかも、今回は下手したら命に関わってくるもの。寿命は他の健康な人と比べてどう考えても短くなるし、これからどんどん悪化していくだろうと言われ、私は彼女の事が頭に浮かんだ。短い人生になるなら、私を一番に選んでは、くれないだろうか。


「凄く心配ではあるけど、私も病気だし支え切れない。幸せでいて欲しいと思うけど、私にはそれができない」


 それが、彼女の回答だった。互いに病気になったせいか、同棲期間がもう半年近くなるからか、喧嘩の回数が増えていく。ゲームで過ごす時間を優先する彼女と、リアルで過ごす時間を優先したい私の、差。


 私は感情的になってしまうところがあるし、彼女は彼女で一度決めたことを全然曲げない。良いところでもあるが、柔軟性に欠けている。……だからもう、一緒に暮らすなんて無理だと思ったのだ。


「距離を置こうか」


 体調が悪化して休職してしまった私は、彼女と一緒にいる時間が増えてもっと傷つけるのを恐れていた。そして、


「そうしよう。もう喧嘩したくないから」


 疲れた顔で、彼女はそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る