第7話「遅効性の毒が回る」


 あの人と私はゲーム内で交流を続けながらも、偶にリアルでも会っていたし、通話も結構な頻度でしていた。……でもどこか満たされない気持ちがあるのは、“あの人が誰かの奥さん”だからだろうか。


 彼女自身にとっても、旦那さんはかけがえのない存在であるらしかった。兄のように思っていて、恋愛感情はないもののゲーム好きで、ノリも合うし、自由でいさせてくれるから、と。そして私達の不倫関係を認めてくれており、彼女の家族とも仲が良好なのだそう。


 ……それを聞かされて私はどうしろと。私のことが一番好きで大事で愛していると言ってくれていたとしても、不倫は不倫だし、旦那さんのことを好きだからこそ別れようと思わないのだろうか。


 私達が好きだと思った人が、こんなに素敵な人が、他の人に放って置かれるわけなくないか? きっともっと自分より良い人が現れるだろうって、考えないのだろうか──。


 旦那さんがこれでいいというから、このままの関係を続けているそうだけど、そこに私の気持ちって介在しているのだろうか。私ってなんでこんなに頑張って、引越しの準備進めながら国家試験勉強してるんだろう。


 ゲームで遊んでいないと彼女は旦那さんを誘って遊びに行ってしまうし、毎日聞く「今日朝のスコーン半分こしたんだよね」とか「旦那がこういうこと言っててさあ」という会話が、まるで遅効性の毒のように、少しずつ……少しずつ、私を侵していく。


 これ以上私の心をぐちゃぐちゃにしないで。お願いだから、いじめないで。


 でもそれを指摘すると、彼女は「……ごめん。じゃあもう旦那のこと喋らないようにする」という結論に。最初からそうして欲しかった。私が手に入らない貴女の隣という場所を、ただ私より先に出会っただけで享受しているのが気に入らない。……だって彼女は、旦那さんと出会う前だったら私とすぐに暮らしていたと、そう言ったのだ。


 もっと早く生まれたかった。もっと早く出会いたかった。もっと……。


 うらやましい。


 ドス黒い感情を抱えて、私は今日も彼女の前で優しく笑うのだ。


 心はもう、ぼろぼろだった。

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