第6話「ごめんなさい」
「どうして……。そんなこと言うの。一緒に住もうって言ってくれたのに、否定的で消極的なことばっかり……」
「だって面倒でさ……。一緒に暮らすことが、というより、引っ越しは面倒なものだよ」
「……」
好きな人相手に言う言葉か? それ。思っても言っちゃダメだろ。もう、訳がわからない。ねえ、私がおかしいの? 誰か、誰か教えて。たすけて、だれか。
その調子のまま、私は泣きながら新幹線で帰った。せっかく遠くまで会いに来たのに、傷ついただけだった。……傷つけられる為にわざわざ時間もお金もかけてきたのかな、私。
一応最後に、私から謝ってはおいた。わざわざ仕事を早く切り上げて付き合ってくれてありがとう、と……。でも、不信感は拭えなくて、「貴女は本当に私と住む気がありますか? 1週間待ちます」と連絡した。……そうしたら、その日のうちに返事が来た。
『やっぱり今の状態を考えると無理だと思う。今一緒に暮らすのは無理かな。ごめんなさい』
──。
は。
うそつき……。
ぼろぼろになるまで泣いて、でも、きっと私がメンタルが弱くて、責めてしまったからいけなかったんだろうと。相手の世間体や家族、仕事のことをもっと考えなければいけなかったんだろうと思った。……でも、でもさ。
期待させるくらいなら最初から無理って言えよ。一緒に暮らそうって言って、やっぱ無理なんて残酷なこと言うなよ……!!
それでも。
それでも、
私は彼女のことが好きだった。
わかりました、と言って。今まで物件に使ってきた時間と労力はもうなかったことにした。いいや、彼女のそばにいられるならば。いいんだ、……いいんだ。
自分で自分を納得させて、“都合の良い自分”を演じる。求められているのは、この私なんだろう。旦那さんは一緒に遊んでくれないから、一緒に遊んでくれるような相手で、趣味が合って、自分のことを必要としてくれて、旦那さんからもらえない分の愛を埋めてくれる、都合の良い相手。
それが私だ。
あはは、滑稽だな……。結局私が……全部……。そう、思って。絶望のどん底にいたけれど、また彼女の元に戻ることにした。だってまだチャンスが完全に失われたわけじゃない。私が一人暮らしをしっかりできているということがわかれば、彼女も気持ちを変えてくれるかもしれない……!
自分を叱咤激励して、今度は一人暮らしの物件を探すことにした。……彼女は、その内見に付き合ってくれた。ああ、……なんて優しくて……残酷な人なんだろう……。
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