第5話「やっぱり面倒」


 泣いて喜んだ。私のことをそんなに好きでいてくれている。良かった! 離婚だって本当はして欲しいけど、そこまで望むのはきっと過分なのだ。


 相談しながら、私は物件探しを始めた。大学生4年生だったから、あの人のそばに行くために、就活だってやり直した。実家近くで決まっていた、そこそこ有名な就職先を蹴って、知らない場所の就活を頑張った。就活しながら物件探し、そして卒業研究にバイト、国家試験勉強。頭がおかしくなりそうな日程を、あの人のためを思ってこなしていく。


「痛い……」


 高校の時からの持病で苦しみながら、通院を続け、薬を飲み忘れないようにして。体調不良で思い通りに身体が動かず、時に先生に融通をきかせてもらいながら、卒業論文だって順調に進んでいた。バイトでも、もう最古参に近くなっていて後輩に頼られたり、同級生と楽しくやったりしていた。就活も大変ではあったが、まあ人と話すのは嫌いではないので、どうにかやっていた。


 あとは物件だ。ずっと実家暮らしでしかも一軒家だったから、全然わからない。しかも就職先のことを考えながら進めなければいけないし、知らない土地で何もかもがわからなかった。あの人と良さそうな物件を共有しながら、全て私がこなし、内見を申し込んだ。


 あの人に何度もこちらに通わせるのは申し訳なかったしな……、私が向こうに住んだほうが早い。そんなことを考えながら新幹線に飛び乗って、初めて不動産屋さんに行った。女性二人で住める物件は限られてはいたが、何とか候補を見つけて2件見に行く。よさそうな物件だったので、これは早く埋まってしまうかもしれないですね、申込みは早い方がいいですよ、と言われてあの人の顔を見る。


「いや、まだ考えます」


 あの人は、そう言った。そして不動産屋の人と別れた後、彼女は……。


「はーーー面倒くさい。今のところから遠くなるんでしょ、引越し準備も面倒くさい。大変だよもーー。はあ……家族にも言わないといけないし……憂鬱」


 そう言われて、……喉がひくり、と引き攣った。どうしてそんなことを言われなければならないんだ。物件探しだって連絡取るのだって全部私がやったし、就活だってやり直した。だって貴女が一緒に住もうって言ってくれたんじゃないか。


 そう言われて、私は泣きながら「うれしい」と喜んで、そんな私を貴女は抱き締めてくれたじゃないか。なんで? どうして……。


 カフェに入って、コーヒーを頼んで席に着いて。──私は、無言で涙を流した。

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