第3話「恋愛と結婚は違う」


 どうして貴女は旦那さんと別れてくれないのか、なんて言うつもりはなかった。だって、私が彼女と別れたのは私が決めたことで、私がそうしたいからしただけだ。つまり、あの人に責任を取ってもらおうとして行動を起こした訳じゃない。


 でも。だって、両想いじゃないか?


 両想いなら、一緒になったって良いじゃないか。私がおかしいのか? そもそも、旦那さんに私のことを伝えなくていいのか? 伝えずに私と関係を続けるのは、私と旦那さんに失礼じゃないのか? ……これじゃ不倫だ。そんなもの、私がすると思っていなかった。今まで散々、浮気と不倫はクソだと、有り得ないものだと思っていたし、口にしてもいた。それなのに……。


 あの人は言った。


「世間体もあるし……、親に心配させてしまうし、私のせいで旦那を一人にしたくないよ」


 ああ、そうか。気持ちはわかるけど、つまり私は一人になってもいいってことか。


 私はこの人のことを優しくて素敵な人だと思っていた。でも、過ぎた優しさは全ての人に発揮されるのか、と絶望もした。私一人にくれる優しさは、その他大勢の人と一緒なんだな、と。


「私のせいで周りの人を不幸にしたくないよ。やっと平穏な生活を手に入れたところだし、猫はかわいいし。猫だって寂しがっちゃう」


 そうか。そうだな。そうだよな。


 私が間違ってたんだ。両想いだからって浮かれて、一緒にいられる、選んでもらえると思い込んで。でも、そうではなかった。──恋愛と結婚は、違う。恋愛は好きな人とするもので、結婚は数十年一緒に暮らせそうな人とするものなのだ。

 私がまだ20代前半で、安定してないのがいけないのだ。高校生の時から持病だって抱えているし、不眠症だ。私が、私がこんなのだから、選んでもらえなかった。


 私が、私のせいで、私は……。


 でも、諦めたくなかった。とりあえず、旦那さんに私の存在を言わない限りもう一緒にいるつもりはないと伝えて、待った。だって嫌だろ不倫なんか。

 話し合いは難航したようだったが、何故か認められた。……意味がわからなかった。


 は? 認めるって何?


 貴女も貴女だし、旦那さんも旦那さんだぞ。


 は?


 、って何?


 暫く呆然とした。私の価値観ではあり得ない結論だったが、向こうの夫婦はそれでいいとのことだった。いや、良くねーよ! え?! いやいやいや! 誰が幸せになんの? いいとこ取りだけしてるあなた達だけじゃねえの? と責めそうになって、堪えた。


 きっと色んな葛藤もあるはずだ。耐えろ、耐えろ、私がもっと安心できるような安らげる場所になればいいだけだ……。そう思いつつも、どんどん私は病んでいった。

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