第2話「会ってみよう」


 半年以上お互いの恋心に蓋をして交流を続けたが、話しているうちに両想いなことがわかってしまったのだ。嬉しいのに、嬉しくない。戸惑いと、絶望と、そんな気持ちが大きかった。……しかし、お互いこの気持ちを恋愛感情と決めつけるのは早いのではないか、という話になった。

 確かに、実際会ったことがないからまだ決めつけなくてもいいのかもしれない。……ただ。私は自分の顔に自信がなかった。だからこそゲームの中では格好良い男キャラクターを作って遊んでいたのだ。


 嫌われるんじゃないか。


 生理的に無理だったら、どうしよう。


 それは相手も同じ想いだったようで、もういっそ実際に会って無理だと言われて諦めたい。そんな想いが強かった。そして、3ヶ月後に、会う約束をしたのだ。


「……どうしよう、好きだ」


 私も、相手も、会っても好きだった。まさかのお互いの顔も好きだった。どうしたらいい? 手を繋いでみても、ハグをしてみても幸せで──きっとそれ以上も、できてしまう。何でだ、どうして、ああ、……だめだ。


 ──私は一週間後、付き合っていた彼女に別れ話をした。


 あの人と触れた手で、彼女の手に触れるのが耐えられなかった。このままあの人への恋心を隠したまま彼女と付き合うのは、できる。でも、それは自分がどうしようもなくずるい人に感じた。だから、仲の良い友人に相談をして、自分の気持ちを確かめて……そして。


「……好きな人ができました。今まで本当に、長い間ありがとう。別れよう」


 ──最低だ。そう思いながらも、穏やかに笑って言った。


「は?! やだよ、二番目でもいいから! 別れないで、嫌だ!!」


 泣く彼女に、もう触れる資格はなかった。色んな想いを吐露して、優しい彼女は言った。


「……幸せになって。一年間は罪悪感で生きろ。それで許してあげる」

「……ありがとう」


 ああ、優しい。こんな素敵な人を、私が縛り付けなくて良かった。無責任で最悪だとは思うが、彼女ならば──絶対にもっと良い人が現れると思った。


 その証拠に、彼女はその数ヶ月後に、私が彼女と別れることを相談した友人と付き合った、と聞いたのだった。──それでも、彼女も友人も、私と一緒に、ゲームで遊んでくれた……。そう、彼女もその友人も、同じゲームで遊んでいたのだ。

 優しさに、泣いた。でも、自業自得とはいえ、今までずっと三人で遊んでいたのに一人になった寂しさにも耐え切れなかった。でも、邪魔はしたくなかった。


 そして、彼女と別れた私とは違ってあの人は──離婚することは、なかった。

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