第5話 災厄の天使
速水市の中心街は新興都市らしい活気に満ちている。
半年前にオープンしたばかりの新しい駅ビルと周辺に広がる地下街はその象徴だ。若者や家族連れで常ににぎわい、しゃれたレストランや小粋なブティック、とんがったアンテナショップなどが並んで人通りは絶えない。
渋谷や六本木といった全国区の繁華街のミニチュア版のような雰囲気が人々を浮き立たせる。成長期にある都市独特の活力だ。街の明かりは今日も華やかにきらめいていた。
なのに自分の足下だけが暗い。
西の空はまだ明るく、ウインドウを飾る照明もあんなに華やいでいるのになぜか自分だけがのけ者にされているような気がする。
それがなんとも理不尽な仕打ちに思えて彼女——神水梨香をいらだたせていた。
心の中は腹立たしさでずっとむかついたままだ。母親と言い争った言葉のひとつひとつが今も頭の中で渦を巻いていた。思い出しただけで息苦しくなる。
この一か月、塾をさぼっていたことがとうとう家にばれてしまったのがきっかけだった。
それだけならごめんなさいと頭だけ下げていれば済むはずだったのに、馬鹿のひとつ覚えのように勉強勉強と叫ぶ母親にがまんができなかった。そう、あれは叫んでいるとしか思えない醜態だった。
ひっぱたいてやった時は痛快だった。
母はなにが起きたかわからないという顔で、がみがみと垂れ流していた小言がぴたりと止んだ。娘が自分を罵倒するその激しさに唖然としていた。
真面目なよい子(バッカみたい!)がどうして、と信じられない思いだったのだろう。
お気に入りのはずのティーカップを床にたたきつけて飛び出していく娘の姿をただ呆然と見送るだけだった。
考えれば考えるほどはがゆさがこみ上げてくる。
母親のくせにあの女は娘の心など一度だって思いやったことがない。自分の見栄と世間体だけがあの女の価値観なのだ。三流女子大出のあんたに勉強勉強言われたくないよ。そんなに塾が大事ならあんたが行けばいい。
今ならわかる。自分はあの母が昔から大嫌いだった。いずれはあのうっとうしい女とぶつかるだろうと思っていた。たまたまそれが今日だったというだけだ。
家を飛び出したことにはなんの悔いもない。たとえすべてに見捨てられても生きていける。なぜなら自分は強い人間であり、あんな馬鹿女よりずっと賢いからだ。
くだらないホームドラマのような家庭しか頭にない母親などこちらから捨ててやる。
もちろん向こうが頭を下げて迎えに来るなら話は別だ。
自分には寛大な態度であの女の謝罪を受け入れてやる度量がある。自らの罪深さを悔い、涙ながらに許しを乞う母の姿をイメージするだけで心が震えた。
だがそれが幻想だということもわかっている。
あの愚かな母は決して過ちに気づかず、自分はこのままうち捨てられて誰も振り向いてはくれないだろう……。
悲壮な決意と絶望的な窮状にはなぜか奇妙な心地よさがあった。
ああ、自分はなんてかわいそうな子なんだろう。
その思いは暗く甘美な快感であり、やるせなさをともなって彼女を抱きしめる。怒りと悲哀で胸を焦がしながら梨香は夕暮れの街を歩いていた。
時計は午後七時を少し回ったところで周囲のにぎわいはいよいよピークに向かおうとしていた。週末の夜への期待で誰もが楽しげに行き来していたが、今の梨香にはいまいましいばかりだ。
どうしてこの人たちはこんなに楽しそうなんだろう。それがいっそ不思議なほどだった。自分はこんなにも辛い思いを抱えているというのに不公平ではないか。
こみ上げる悲壮感がますます梨香を酔わせていた。
自分は運命に翻弄される悲劇のヒロインであり、幸少ない孤独な道を健気に歩いていくのだと。
この思いを打ち明けるに足る友人はいない。小学生のころから仲のいい堺恭子の顔がちらりと浮かんだが、すぐに頭を振って否定する。
恭子はだめだ、あの子は幼稚で一人前の悩みなどとは無縁の子供だ。自分が一緒にいてやらないとなにもできない。幼い妹のようについてくるだけの存在をあてにしたことなど一度もなかった。
このあたりで知りあった少年たちも同様だ。塾をさぼってぶらぶらしているうちに声をかけられ、ゲームセンターやカラオケにつきあった時間はさして楽しいものではなかった。
ろくに学校にも行かないような連中にはまるで魂が感じられなかったからだ。
からみついてくる彼らの視線はいやらしく物欲しげで不快だった。あまり頻繁に顔を合わせているとその欲望を振り払うことも難しくなるだろう。さっさと絶縁するのが利口だ。
気まぐれで二、三度つきあっただけの連中に真剣になにかを相談するなどナンセンスだった。
結局自分は一人なのだ。そう思って小さく舌打ちしたその時、梨香の目にきらりと光が走った。通りの少し先に思いがけない顔を見つけたのだ。
それは彼女が最もいまいましく感じている顔のひとつだった。
最初は無視するつもりだった梨香はふと足を止め、やがて口元に皮肉な笑いを浮かべると携帯電話を取り出した。母からの着信履歴を無視してかけたのは、たった今まで絶縁するつもりでいたはずの相手だった。
※※※
地下街をぶらついていたところだというその二人組は五分とたたずに現れた。どちらも鈍重な目をした少年で、まともに学校に通っているなら高校生くらいの年だろう。
「なんだよリカ、面白いことって」
そう言ったのは痩せてひょろりとした不健康な顔色の少年だった。一応シローと名乗っているが本名かどうかはわからない。
もう一人のガクと呼ばれている小太りの少年——学と書いて「まなぶ」と読むらしいが当人はその上品な名前を嫌っていた——といつもつるんでいる。
二人とも仲間内では半端な存在だった。誰かに指示してもらわないと行動できないタイプで、今日もほかの仲間と合流して深夜まで遊び回るつもりだったらしい。
「ふふん、ちょっとね」
梨香がなにやら楽しげに目をきらめかせるとそれだけで少年たちの顔色が動いた。彼らは最近知りあったこの少女にいたく蠱惑的な匂いを感じているのだ。
それを承知している梨香は痩せた少年の腕をとってそのまま歩きだした。小太りのガクがわずかに嫉ましげな顔でついてくる。梨香は前を向いたまま素知らぬ顔で「ほら」と二人にしゃくってみせた。
見ると歩道のだいぶ先の方を一人の少女がゆっくりと歩いていた。
周囲には大勢の人が行き来しているのに少年たちには梨香が誰を指し示したのかひと目でわかった。人混みの中にいながらその少女だけがスポットライトを浴びているように目を引いたからだ。
中学生か高校生か、通学用のリュックを背負った制服姿のままでもその長い足は印象的だった。まるでグラビアモデルのようなスタイルのよさだ。
おおっと思って注意を向けた瞬間、わずかにのぞいた横顔に愕然とする。遠目からでも恐ろしく美しい顔立ちがはっきりとわかったのである。
すげえ! と少年たちの表情がみるみる変わっていった。
それがあまりにも露骨だったので梨香は内心不快だったが、あえて顔には出さずむしろ楽しげに笑ってみせた。
「天野っていってね、あたしのクラスメート。うちのガッコでいちばんのきれいな子だからこのあたりじゃちょっと有名」
「北速水中の天野……聞いたことあるよ。そうか、あれが……」
うめくようにつぶやいたのは小太りの少年の方だった。普段の眠そうな目つきが別人のように輝いていた。初めて目撃した噂の少女の姿に衝撃を受けているのだ。隣の痩せぎすの少年もにわかにそわそわした様子に変わる。
「面白いことってまさか……」
「そーゆうこと。せっかくだからあの子も誘って一緒に遊ぼうと思ってさ」
一緒に、と梨香が強調すると少年たちの目がぴくんと泳いだ。喉を鳴らす音が聞こえてきそうなほど興奮している。
「ほんとか! ほんとにあの子と」
「うん、ただね、あの子きれいだけどちょっと性格きついんだ。強引なくらいに誘わないとハナも引っかけてくれないと思うよ。どうする?」
どうする、と言われて少年たちは顔を見合わせた。元々一人ではナンパの度胸もない彼らには他校にまでその名を知られた美少女に誘いをかける勇気はない。それを承知で梨香は少年たちを挑発した。
「噂じゃまだあの子をものにしたやつはいないって話よ。いっつもレズのお相手がそばにくっついてるからね。今夜は珍しく一人歩きしてるみたいだからチャンスだと思うけどな。あたしもちょっとあの子をかまってみたいんだ」
面白いのになあ、と誘う少女の声に二人は動揺し、あいまいな笑いを浮かべた。同時におぼろげながら梨香の本音に気がついたようだ。
リカはどうやらあの天野という少女のことをあまりよく思っていないらしい、だから自分たちを誘って少しばかりいじめてやろうという気になっているのだ。だとすると——。
あのきれいな子をつつき回して遊べたらさぞ気持ちがいいだろう。そんなふうに自分を納得させようとしている少年たちの心の動きがその表情に何度も浮かんで消えた。
そのわかりやすい反応に梨香は苦笑する思いだった。
あきれるほど単純な連中だ。頭は悪いし欲望は丸出し。そういえば夜遊びの最中に自分に声をかけてきた何人もの中年男もこんな感じだった。身なりはいいのに顔つきはいやらしい欲ボケで笑いたくなったことを思い出す。
あいつらもきっと家に帰れば善人面してよき父親を演じているのだろう。あの愚かな女をよき妻よき母と信じきっている自分の父と同じように。
考えただけでむかついてくる。
だが、そうした梨香の嫌悪感は本来向けられるべき相手には向かわず、歪んだ敵意として前方を歩く少女に注がれていた。
最初から気に入らない相手だった。
少しばかりきれいだからというただそれだけで注目され、生徒たちの人気を集めているのがむしょうに腹立たしかった。
そして去年の不快な記憶。あいつはみんなの見ている前であたしに恥をかかせてすました顔だった。
なんという無神経な女だろう。
いい子ぶってみんなのご機嫌をうかがっている様子が自分にはひと目でわかるのになぜか誰もそのことには気がつかない。代わりに自分に向けられる醒めた視線は理不尽そのものだった。
きっとそれもあいつが陰でみんなをそそのかしてやらせているのだ。天野だけじゃない、あの口の達者な紺乃があることないこと言いふらしているに違いない。
みんなあの子たちに騙されているんだ。おかげであたしは一年の時からずっとのけ者だった。
そんなことがあっていいものか!
そうだ、このへんでみんなの目を覚ましてやらなくてはいけない。あたしにはそうする義務がある。そのためにはまず目の前のあいつに自分の罪を思い知らせてやるのだ……。
行き場を失っていた梨香の憤懣は今ついにそのはけ口を発見したのだった。
「どしたの天野、珍しいね、こんなとこで」
近づいてわざとらしく声をかけるとよほど意外だったのか、振り向いた天野ひびきは言葉もなく梨香の顔を見つめるばかりだった。
驚いてとっさになにを言っていいのかわからないのかもしれない。そう思うと早くも梨香の心はささやかな成功の予感に躍った。
こいつあんまりびっくりしたんで泡食ってる。ぽかんとしちゃってやっぱり頭悪いんだ。
ひびきは梨香の方を向いたままなにやら呆然とした様子だった。その目にはいつも梨香の嫉妬心を刺激する特徴的な輝きが失せていた。こちらをまっすぐ見ているのにまるで表情が動いていない。
これなら、と思った。
同じクラスになってからもろくに口をきいたことがないので最初は警戒されるだろうが、それでも粘るつもりだった。
いいかげん仲直りしたい、謝るから少しだけつきあって。
多少強引でもそんなふうに笑顔で頭を下げれば単純なこいつはきっと断りきれずについてくるだろう。普段からひびきの様子を観察している梨香にはそれで誘い込める自信があった。
「もしかして塾の帰り? よかったらちょっとだけ寄り道していかない? あたし、あなたに少しお話があるんだ」
考えていた手順をとっさに省略したのは梨香の勘だった。
天野ひびきは梨香との遭遇によほど虚を突かれたのか、なにか目の焦点が合わない様子だ。今ならこっちのペースで引っぱっていける。そう見た梨香が自分から親しげに手をとって歩きだすと案の定、相手は抵抗もせず素直についてくる。
内心ほくそ笑みながら梨香はひびきを連れて表通りから遠ざかっていった。
正直これほどうまくいくとは思わなかった。きっと自分のタイミングが絶妙だったのだ。このままあの二人が先回りしているあそこまで連れ込めば……。
さっきまでの憂鬱な気分はいつの間にかきれいに消え去っていた。 不愉快な記憶の数々が一気に消し飛ぶ予感で自然に笑いがこみ上げてくる。
楽しいイベントはもう目の前だ。獲物は手を引かれるまま無言でついてくる。
梨香にその沈黙の正体を洞察する機会はついに訪れなかった。
※※※
繁華な大通りから数ブロック裏手に回るととたんに人通りは少なくなる。
本来はそのあたりもオフィス街として市の中心を構成する場所なのだが、今は駅ビル一帯に続く第二の再開発地区として何棟ものビルが建設中だった。
行き来するのは工事関係の車両や人員だけで、それも日が沈むまでである。夜ともなれば人気のない寂しい通りが出現する。
まだ日没からいくらもたっていないのに道行く人の数は極端に少なかった。街灯だけは明るく道を照らしているものの、わずか二百メートル先の喧騒が嘘のような静けさだ。
梨香がやってきたのはそうしたビル工事現場のひとつだった。
周囲をめぐるフェンスの一角には瀟洒な十階建ての完成予想図が掲げられている。たがシートで覆われた内部では組み上げられた鉄骨と無数のパイプ、臨時の足場や梁が複雑に入り組んで立体迷路の様相を呈していた。
管理が甘いので夜間は少年たちの格好の遊び場になっている場所だった。
工事用車両の出入口を覆ったフェンスの陰で彼らは待ち受けていた。
「早かったじゃないか」
シローの声はすでに期待で上ずっていた。仲のいい友人同士のように梨香と手をつないだ少女から目が離せない。その美しさを目の当たりにしてあらためて興奮しているのだ。
隣に立つ小太りの少年も初めて面と向かうことになった噂の美少女に瞠目していた。
その長い足も整った美しい顔立ちも見ているだけで息が詰まりそうな代物である。
こうして夜の明かりの中に立つその姿にはなにかしらファンタスティックなものを連想させる雰囲気があった。日ごろ彼らと遊び回っている少女たちとは別世界の生き物である。
そんな少年たちの様子が梨香には不快だったが、ここで獲物に逃げられるわけにはいかない。つないでいた手をその腕にからめるようにしてうながすと少女は意外なほど素直に従った。
相手があまりにも従順なのでさすがに梨香もいぶかしく思った。
だが、ちらと見やった横顔には特に嫌悪や反発の色は見えない。まだとまどっているのかそれとも学校の外では案外無口な子なのか。いずれにしろここまできて急に騒がれるよりはずっとましだ。
「ごめん天野、ちょっと静かなところでお話したかったんだ。この人たちはあたしのお友だち、せっかくだから誘っちゃった。なんか二人きりだと緊張しそうだったから」
そう言ってフェンスの向こうへ入り込むように手を引くと相手はやはり無言で従った。
この瞬間がいちばんのポイントだと身構えていた梨香はいささか拍子抜けした。
ここで逃がさないようにと少年たちとも示し合わせていたのだが、その必要はなかった。少女は梨香に続いて立入禁止の札の下がったロープをくぐり、手を引かれるままに鉄骨の迷路に入っていく。
内部は暗闇ではなく所々に非常用の小さな明かりが点いていた。これなら歩き回るのに不自由はしない。入り込めることを発見して少年たちが喜んだのも当然だった。
いまだにひと言もしゃべろうとしないひびきを梨香もようやく不審に思い始めていたが、ふとその足下を見てにんまりと笑った。うながされるまま歩いていく少女の足どりがひどく頼りなげだったからだ。
天野ひびきは極端な高所恐怖症である。
間違いない、こいつは無表情に見えてその実こわくてこわくてしかたがないのだと思った。
ここはまだ通路も床も臨時の代物で大がかりなジャングルジムのような場所だ。逃げ出したくても梨香につかまってついてくるしかないのだと。
そのつもりでここに引き込んだのは正解だった。勝ち誇る気分で梨香はつかまえた少女の手をぎゅっと握りしめた。
もうこいつはあたしの手の中だ!
だがそうなることがわかっていながらなぜ相手は唯々諾々と自分に従ったのか、その疑問を深く考える冷静さが梨香にはなかった。
報復の予感はあまりにも甘美でもはや他のことは頭に浮かんでこないのだ。
五階まで上って回廊を右に左にと歩くと少し広い空間に出た。足場もしっかりと補強され、不用意に足を踏み外す心配もいらない。天井は隙間だらけで上の階の骨組みを通してわずかに暗い空がのぞいていた。
ここまで先に立って歩いていた少年たちが立ち止まってふり返った。その目が期待に満ちて輝いている。
梨香は親しげに抱え込んでいた少女の腕を放すとにいっと笑った。
「どう? なかなかすてきなところでしょ。ちょっと埃まみれなのがアレだけどね」
相手は依然として無言のままだったが、もうその沈黙は気にならなかった。この少女は怯えているのだとわかっていたからだ。少年たちもまたとないこの状況にようやく自信を持ち始めたようだった。
「そろそろおれたちにもちゃんと紹介してもらえねえかな」
「ああ、せっかく知りあえたんだからよ」
小心なガクまでがいつものおどおどした態度を忘れたように強気だった。口調まで変わっている。内心あざ笑いながら梨香は彼らの期待を煽ってやった。
「ふふ、この子の名は天野ひびき。近所の学校でも噂になってるくらいのうちでいちばんきれいな子、でもって……」
一瞬その目を光らせると梨香は容赦なくひびきの体を突き飛ばして言い放った。
「うちのガッコでいちばんむかつく女だよ!」
よろめいたひびきを痩せぎすの少年が受け止めた。抱きすくめるように後ろから腕を回し、その手をつかむともう鼻孔が膨らんでいる。相手の体に触れたことで興奮が一気にはじけそうな顔になっていた。
少女の背負った通学用のリュックがじゃまなことに気づいて引き下ろそうとするのを梨香が止めた。
「そう焦んないの、がつがつしてるのみっともないよ」
「うるせえぞ、じゃますんな」
年上の少年の権威などまるで気にしていない梨香は、近寄ってわざとらしくささやいた。手にした携帯電話をかざしてみせる。
「そんなの後でいいでしょ、どうせこれで恥ずかしいとこ撮っちゃえばなんにも言えないんだから」
少年たちの想像力を刺激してやると二人はさっと互いの目を見てなにか言いかけた。
期せずして同じイメージを共有したらしい。なんというわかりやすい連中だろうとあきれそうになるのをこらえて梨香はこう付け加えた。
「こんなきれいな子とやったことないでしょ? 言っとくけどあたしはほっといてよね、そんな気分じゃないから。そのかわりこの子は好きにしていいよ」
二人とも性体験がないことは一目瞭然だったが梨香はあえてそそのかしてやった。どのみち面白いことになるとわかっている。その瞬間を特等席で見物できると思うと自分までぞくぞくしてくる。
「だから今はちょっとあたしにお話させてよね、こいつにはいろいろ言ってやりたいことがあるんだ」
そう言うと梨香はシローの腕からひびきを取り戻して親しげに肩を抱いた。少年たちは自信に満ちた年下の少女に仕切られて言い返すことができない。主導権をとるタイプと他人に従うタイプ、キャラクターの差は年齢には関係ない。
梨香はそのままひびきの背を押して移動した。
むき出しの資材がいたるところに積まれたフロアの端に近づく。そこでは足下に敷かれた鉄製のメッシュのパネルを通して下の様子が透けて見えていた。
夜間の乏しい非常灯の下では地上まで見通すことはできないが、それでも隙間からのぞくと高さが実感できる。先ほどと違って不用意に歩くと危険な場所だった。
「おい、気をつけろよ、そこ危ねえぞ」
ついてきたシローが警告する。まだ外壁もない足場には低いパイプが縦横に走っているだけだ。外周を目隠ししているシートの向こうはもうなにもない外の空間である。
「平気よ、いいこと教えてあげる。こいつはね、ひどい高所恐怖症なの。高いところじゃぶるぶる震えているだけでなんにもできないんだ」
そう言うとさも楽しそうにひびきの腰に手を回して外に押しやった。
「どう、こわい? あはは、聞くだけヤボか、こわくて口もきけないんじゃね」
そこでまたひびきの腕を引いてこちらを向かせると、梨香は会心の笑みを浮かべた。この少女を自分の思うままに振り回せることがうれしくてたまらないのだ。
肩に回した右手でひびきの頬をなでながら耳元でささやく。
「あたしいつもあなたのこと考えてたよ。もう大好きな恋人を想うくらいいつもいつもあなたのことばっかり。いつかこうしてお話できる日が来るのをずっと待ってた」
こちらを見返す少女の瞳にはなんの動きもない。だが梨香はかまわず続けた。
「こんなに情けない子がよくあたしに恥をかかせてくれたよね、ぜひいつかお礼しなくちゃって考えてたんだ」
猫なで声だが聞いているだけでひりひり痛むような声音だった。
「気に入らなかったよ、最初っから。あんたずっとあたしのこと見下してただろ。なに様のつもりか知らないけどずいぶんな仕打ちじゃない?」
梨香はもう一度ひびきの腕を引いてメッシュの床から下をのぞかせてやった。得体の知れない快感が心の中で急速に膨れ上がっていく。
こんな時がやってくるなんて!
自分はなんとついているのだろうと思った。もう家を飛び出したことなど少しも気にならない。今のこの気持ちよさを思えばほかのことなどどうでもよかった。
「あはは、こわい? でもここには紺乃のやつははいないよ、それとも呼んでみる? 愛しいレズのお姉さまをさ」
紺乃と聞いて少女の瞳がわずかに動いたような気がした。ふん、と鼻を鳴らして梨香はいっそう押し殺した声で付け加えた。
「そうさ、あんたの大好きなエッチのお相手。かわいがってもらってるんでしょ? ほら黙ってないでなんとか言ったらどうなの」
「……コンノ……」
相手が初めてまともに口にしたのがその名だったことで梨香の嘲笑はますます濃くなった。笑える、と自分でもつぶやいてしまったほどだ。
ひびきを後ろから抱きすくめると無遠慮に胸をつかんでわざと少年たちに見せつけた。たちまち二人の目の色が変わる。それがおかしくてまた吹き出しそうになった。
「……コンノ」
「そうだよ、紺乃なぎさ。忘れちゃだめでしょ、愛しのお姉さまの名前を」
「コンノ……ナギサ……」
「そうそう、その調子。ねえ、もしかしていつもあの子とこんなことしてる?」
右手でひびきの胸をつかんだまま左手をスカートの中に伸ばし、少年たちに見えるようにめくってみせる。薄暗い非常灯の下でも二人が殴られたように反応するのが愉快だった。まったくオトコって馬鹿そのものだ。
「どうしたの、いいかげんなにか言ってみたら? ほら、なぎさ助けてーって叫んでみなよ」
愉快でたまらなかった。
これほど楽しいことは過去にも記憶にない。だから腕の中の少女のぎこちない言葉もまるで気にならなかった。
「コンノ・ナギサ……検索した……最も友好的な存在……」
とうとう梨香は声を上げて笑いだした。こいつやっぱりヘン! きっとこわくて取り乱してるんだ、そうに違いない。だけどそれにしたって「最も友好的な存在」はないだろ!
笑いながら抱きすくめていた相手を放すと手加減抜きで平手打ちを食わせた。
ぱんと乾いた音がしてひびきは少年たちの足下に倒れ込んだ。梨香の暗い気迫に圧倒されていた二人は呆気にとられて見ているだけだった。
「おいおい、話をするんじゃなかったのか」
いくらかあわてた様子のシローがひびきの傍らにしゃがんでその顔をのぞき込んだ。打たれた左の頬が早くも赤く腫れ上がっているのを見て小さく舌打ちする。
「いいのよ、このくらい。第一そっちは今からもっとひどいことするんでしょ」
「そりゃ……」
言いよどんだシローに遠慮なく嘲りの目を向けると、梨香はまだ突っ立ったままのガクを挑発した。携帯電話のカメラを向けてにんまりと笑ってみせる。
「もういいわ、あたし後はこれに専念するから。で、どっちが先?」
どっちが先、と言われただけで二人は動揺した。いきがっていてもこの先は本物の経験がないのでとっさにどうしていいかわからないのだ。中学生の梨香に見透かされていながら二人とも最初の一歩が踏み出せずにいた。
「しっかりしなさいよ、そんなもの考えるようなことじゃないでしょ? とにかく全部脱がせちゃうのよ、そっから先は本能でどうとでもなるでしょ、あんたたちも男なんだから」
まったく情けない連中! もはや侮蔑を隠そうともせずに梨香は二人を嘲弄した。
ガクがごくりと唾を呑み込んだようだった。シローが意を決したようにひびきの肩に手を回す。そこで少女の手がゆっくりと持ち上がると赤く腫れた左頬に触れた。つぶやいた声はかぼそく、少年にはほとんど聞き取れなかった。
「……被害状況……軽微」
あん? と聞きとがめたシローの腕の中で少女は身を起こそうとした。
すでに覚悟を決めたらしい少年が「じっとしてろ」と力を込めると、相手は首を回して初めて彼の顔をのぞき込んだ。
ぞっとするほど精緻で美しい顔立ち。だが今は白々とした仮面のようになんの表情も浮かんでいない。まるで深い水底のような目に少年の姿が映っていた。
異変が生じたのはその時である。
少年は突然目が回ったような気がしたかもしれない。見ていたはずの梨香も唐突すぎて「あれ」と思っただけだ。
ドンと物音がして気がつくと少年の体が床に転がっていたのである。背中を打ちつけたらしく「痛え」とうめいてもぞもぞ手足を動かしている。
その横で少女がゆっくり立ち上がろうとしていた。
ただでさえ乏しい明かりで周囲は薄暗い。梨香はシローが自ら転倒したのだろうと思った。極上のごちそうを前にして気がはやったのか、勝手に足をもつれさせてひっくり返ったのだと。
いくら経験が浅いといってもこれはぶざますぎて笑うしかない。
「なにしてんのよ、カッコ悪い。あんたのみっともないとこも撮っちゃうぞ」
けたけたと笑う梨香の横でガクも苦笑していた。これはさすがに恥ずかしいと思ったのだろう。しっかりしろ、とこちらも相棒の醜態をからかった。
ただ、その傍らで少女がゆらりと身を起こす姿が妙に目を引いた。
両手の肘のところが糸で引かれたように持ち上がるとすいっと全身が引き抜かれるようにして立ち上がる。膝は折れ曲がったままでとてもまともに体を支えているようには見えない。まるでマリオネットの糸がからんだような不自然な立ち方だった。
なんだ? と怪訝な顔になった梨香たちの前で少女は確かめるように手足の向きを整え、ようやくまともに直立した姿勢になるとゆっくりこちらに向き直った。相変わらずその顔には表情らしきものが浮かんでいない。
だがその奇妙な身ごなしはなにかしら不穏なシグナルとして梨香の心に注意を呼んだ。
この子なにかヘンだ、さっきまでと様子が違う……。
まっすぐこちらを向いた天野ひびきはやがてぽつりと言った。ひどく機械的な声音だった。
「コンノ・ナギサ……邂逅地点推測……座標確定」
意味不明な独り言に梨香がなにか言い返そうとした時、少女の横でうめいていたシローがようやく膝をついて起き上がった。
まだ先ほどの衝撃で顔をしかめていたが、傍らにひびきの姿を見て思わず手を伸ばした。右手をつかんで「こっちへ来い」と命じる。
梨香は小さく頭を振るとガクに向かってけしかけた。
「ぼやっとしてないで手伝ってやったら? 女の子を脱がせるのって楽しいよ、独り占めにさせていいの?」
その挑発に大きく息を吸ったガクが一歩踏み出そうとした時、ひびきがまたつぶやいた。抑揚のない単調な声音には妙なインパクトがあった。
「状況確認……三個体を敵対勢力と識別」
「なにわけのわからないこと言ってんのよ! ほら、あんたたちもモタモタしてないの、根性なし!」
しのびよる違和感を押しのけて梨香は叫んだ。
その痛烈な叱咤にシローはつかんだ少女の手をぐいっと引き寄せた。いや、引き寄せようとした。
その瞬間、梨香とガクは信じがたい光景に遭遇した。
ひびきの右手をつかんでいた少年の体がいきなり真上に跳ね上がったのである。
構造材がむき出しの天井に激突してそのまま床に落下すると衝撃がフロア全体に伝わった。たたきつけられた少年はもうぴくりともしない。
梨香には自分がなにを見たのか理解できなかった。あまりにも唐突な出来事であり、横たわった少年の姿がまだ信じられない。
「うそ……なんでこんな……」
呆気にとられている梨香の横でまだ事態が認識できないガクもうめいていた。
なにが起きたかわからないのは彼にしても同じだったろう。ただ、今までなにをするにもずっと一緒だった相棒がすぐそこに倒れているのだ。
そのままふらふらと前に出た。
梨香は本能的に危ないと思ったが、少年を制止する言葉は喉にからんで出てこなかった。
ガクにしても無意識の行動だったろう。まるで足下に力が入っていない。
「おい、シロー、なにそんなとこで寝てんだよ……」
そんなことをぶつぶつこぼしながら目の前の美しい少女に、いやその脇に倒れ伏した友人に近づいていく。
その頼りない足が止まった。
急にぶるぶると身を震わせると梨香の見ている前でがくりと膝をつき、それでも体を支えられずに倒れ込んでしまう。ぐうっとうめいて仰向けになるともうそこから身動きすることさえできないようだった。
悲鳴の代わりにひゅうひゅうと息のもれる音がかすかに聞こえた。
もはや少年は指先ひとつ動かすことができないようで、最後に「がはっ」と息がもれると全身から力が拭けていくのがわかった。
ぎいっと床がきしむような異音に気がついたのはその時だった。
呆然と立ち尽くす梨香には目の前の状況がまるで理解できなかった。
相棒に近寄ろうとしたガクもまた唐突に体をこわばらせて意識を失った。なにが少年を打ち倒したのか、見ていた梨香にもまったくわからなかった。ただがくりと膝がくだけるとそのままうめいて倒れ込んだ——そうとしか見えなかった。
だがその様子は明らかに異常だった。
わずかにもがいたかと思うと声も上げずに動かなくなったのだ。しかも倒れたガクの周囲からはみしみしと床がきしむような音が今も聞こえていた。その不気味な響きが言い知れぬ薄気味悪さを伝えてくる。
それだけではない。緊張で見開かれた梨香の目は確かにそれを見た。ガクの体を中心にして床面が微妙に歪み、わずかに、だが間違いなく陥没していたのだ。
見えない巨人が恐ろしい力で少年を床に押さえつけたかのようだった。
めきり、と耳障りな音が鳴った。
すると倒れたガクの口元から赤黒いものが流れ出していく。梨香は生まれて初めて人の肋骨が折れる音を聞いた。
加えてその顔や袖口からのぞく手に無数の小さな斑点が浮かんでいる光景がさらなる恐怖を誘った。
もうわけがわからない。
破れた毛細血管が皮下出血を起こしているなどとは今の梨香には知るよしもなかったが、そこで視野の端にきらりと光ったものに気づいて小さな悲鳴がもれた。
まっすぐこちらを見ている天野ひびきと目が合ったのだ。
「ちょっ、待ってよ、なんなのこれ!」
数分前までは確かにすべてがうまくいっていた。なのにこの突然の展開はなんなのだろう。あり得ない、理不尽だと思った。
だがひびきがこちらに向かって一歩を踏み出すと梨香は飛び上がるほど動転した。得体の知れぬ恐怖が心臓をわしづかみにしたのだ。思わず後ろに跳び退ったところでさらに奇妙な事実に気づいてぞくりとした。
天野ひびきは自分より少し背が高い。
あくまで「少し」だ。せいぜい三センチくらいだろう。なのに今、ひびきの背が異様に高く見える。まるで男子のバレー部員のように高いところに顔があるのだ。
え? と思ってあらためて相手の姿を見た梨香はあり得ない光景に目をみはった。信じがたい思いで呆けたような顔になる。
天野ひびきの足は床に着いていなかった。
体が床面から三十センチほど浮き上がっているのだ。浮かんだまますべるようにゆっくりと近づいてくる。
梨香はついに絶叫した。
それまで抑えていた混乱や恐怖が一斉にはじけるともうなにも考えられなかった。
自分でもなにを叫んだかわからない。ただただこわくてやみくもに走って逃げたのだ。悪夢に捕まった感覚であり、立ち止まればその瞬間に自分もガクのように倒れてそのまま死んでしまうだろうと思った。
悲鳴を上げ足をもつれさせながら必死で走った。
階段や通路をどうたどったかまるでわからない。そうしてようやく地上に近づいたと思った時、目の前に現れた人影にどんとぶつかって梨香はまたも絶叫した。あの恐ろしい「もの」に追いつかれたと思ったのだ。
誰かが自分をつかんだのがわかってめちゃめちゃに手を振り回した。
「おい、あんた、しっかりしろ! 大丈夫、なにもしやせんから安心しろって」
かろうじて聞こえた野太い声に顔を上げるとたくましい中年男が梨香を受け止めていた。その横でもう一人の若い男が懐中電灯をかざして小さくうなずいている。二人とも工事用らしい黄色いジャンパーとヘルメット姿だった。
「中でなにがあった? 誰かにひどいことされたのか?」
中年男が訊くと若い方も心配げに梨香の顔をのぞき込んで言った。
「近ごろここに入りこんでる連中がいるらしくてね、見回りにきたところなんだが……君、大丈夫か、どこかけがとかしてないか」
飛び込んできた少女のただならぬ様子に目をむいていた二人組は、しかし詳しい話を聞き出すことができなかった。彼らの腕の中で少女は気を失い、そのまま病院へと運ばれたからだ。
調べてみると五階にある臨時の資材置き場で二人の少年が重傷を負って倒れており、またあわてて救急車が呼ばれたが、警察の鑑識係が駆けつけてもそこでなにがあったのかはとうとうわからずじまいだった。
男たちは直径数メートルにわたって奇妙に歪み陥没した床面を前に首をひねるばかりだった。
※※※
かつてこれほど不安になったことはほとんど記憶にない。
結局ひびきを見つけ出せずに帰宅したなぎさはいても立ってもいられない焦燥感に苛まれていた。夜になり、さすがにもうただごとではないと警察に向かうことになって恵美の車を待っているところだった。
ああ、ひびき、あんたどこに行っちゃったのよ。
ひんぱんに相棒の携帯電話にかけてみても応答はない。自宅にもひびきからの連絡はまだ入っていない。天野家の緊張はただならぬことになっているはずだ。
とっさに自分をかばってくれたあのかけがえのない親友は今どこにいるのだろう。
とてもじっとしていられなくてなぎさはさっきから部屋の中をぐるぐると歩き回っていた。
マンションの十二階、東南角部屋のなぎさの部屋はベランダからのながめを除けばひびきのお気に入りで、小学生のころから二人はしょっちゅう互いの家を行き来していた。
お互いの枕が相手の部屋に備えてあるほどで、二人はともに両家の娘同然のつきあいなのだ。
その大切な相手の安否がわからない。 なぎさにとってこれほど心を痛める事態はなかった。
こんな時間まで連絡がないとするともしかしてけがでもしているのでは、とますます心配になってしまう。あの時もっとよく探していれば、と何度も悔やんだ。事故直後ならまだひびきはすぐ近くにいたはずなのだ。なのに自分は……。
ああ、あたしの馬鹿! そう嘆いた時だった。
ふと気配を感じてふり返ったなぎさは絶句した。ベランダに誰かが立っている!
自分の見ているものが信じられずに呆然とした。そこに立っていたのは今の今まで彼女が渇望していた少女の姿だったのだ!
「ひびきっ!」
飛び上がるようにして駆け寄ると抱きしめて何度も何度もその名を呼んだ。
「ああ、よかった! ほんとによかった!」
なぜ、どうしてここに彼女が突然現れたのか今はどうでもよかった。自分のもとに帰ってきてくれたことが言葉にできないほどうれしかった。
あふれる涙をそのままに、見つめた少女の顔は少しとまどっているのかぎこちない表情に見える。なぎさに抱かれたままぽつりとつぶやいた言葉はよく聞き取れなかった。
「コンノ・ナギサ……照合完了……」
「ん、なにか言った?」
「緊急制御解除……指揮権委譲……」
どうしたの、なんのこと? とその顔をのぞき込むとひびきの目からふっと光が途切れ、同時に体の力が抜けてそのままなぎさの腕の中に倒れ込んできた。
うわっとあわてて受け止めたなぎさはそれでもうろたえることはなかった。
なにがあろうと自分はもう決してこの子を一人で放り出すようなことはしない。そう心に決めていたからだ。
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