第7話 体力測定

「はぁ…………眠い…………」


 学校の通学路の途中。

 ゆっくりと歩きながら俺はひとりでにつぶやいた。


 目をこする。

 寝不足で目が痛かった。

 充血しているらしく、気持ち悪い。


 あくびもいつも以上に出てくる。

 どうやら今日の授業はすべて寝ることになるらしい。

 

「……昨日が衝撃過ぎたな。あんまり寝れなかったせいだ」


 それもそうだろう。

 俺は昨日、加藤先生のせいで強制的に部活に入れさせられた。

 あんな出来事があったせいで、簡単には寝られなかったのだ。


 あまりにも衝撃的すぎる。

 あんな強引なことがあっていいのだろうか。

 まあ、許可したのは俺なんだけど。

 

 そんなことを考えていると、隣から声をかけられる。


「なあ、正義。それ……大丈夫か。目のクマだよ。寝てない証拠だ」


「なんだ正平か。変な奴に話しかけられたのかと思ってびっくりした」


「おい、せっかく心配してやったのになんだその言い方は…………まあ、それくらい悪態がつけるってことは大丈夫なんだろうけどさ」


「…………ああ、その通りだ。そこまで問題じゃない。少しだけ眠たいだけだ。授業にでも寝れば治る」


「寝るって…………もったいねぇ。授業なんてあんだけ楽しいのに」


「そういうのを感じるのはお前のような奴だけだ。ほとんどが授業なんて嫌ってるだろ」


「そういうもんか」


「そういうもんだ」


 そんなことを言い合いながら俺たちは学校へと入っていく。

 靴箱で靴を脱ぎ、目的の教室に入っていく。


 俺が入ったことには気づかなかったが、正平は違った。

 入った瞬間から大勢に囲まれて挨拶をされまくっている。

 最初は俺の方に行こうとしていたが、気まずかったので正平から逃げると諦めて陽キャのグループの方に入って行った。


 これが持っている者と持たざる者の違いらしい。

 俺は朝にも関わらずため息をついて、席に座った。

 すると、

 

「相変わらず残念な奴ね。誰からも挨拶されないとか可哀想」


 嘲笑うように隣にいた璃々が言ってくる。

 当然のことだが、俺以外には聞こえていない。


「……勝手に俺をあわれむな。別に挨拶なんてしてもしなくても変わらないだろ。必要ない」


「うわぁ……その発言いかにもって感じするわ。最悪も通り越して絶望するレベルね」


「どういう意味だよ…………」


 とりあえず、俺を小馬鹿にしていることはわかった。

 今日の璃々はいつも以上に俺に厳しいらしい。


「ふぅ…………まあいいや。もう眠いし、さっさと寝よう」


 机に伏せようとする。

 このまま寝ればいつの間にか昼食で、あっという間に放課後になる。

 俺にとって学校なんてただの寝場所だ。

 苦しくもないし辛くもない。最高だ。


「って、なに人がまだ話してるときに寝ようとしてるのよ」


「なんだよ。まだ話があるのか?」


「なによ、その言い方。私があんたのことを思って話かけてあげたのに」


「そんなおせっかいは俺には要らない。俺はもう眠いんだ。寝かせてくれ……」


 あくびが無意識に出る。

 本当に体が寝たがっている。

 今すぐにでも目をつぶりたい。

 そして、寝ようとした瞬間だった。

 

「なによ…………あんたが体力測定のこと忘れてそうだったから教えてあげようと思ったのに…………」


「え…………待て。体力測定……だって?」


「うん、そうよ。今日は一限目から体力測定。そのためにみんな……体育着に着替えてるんでしょ。そんなこともわからないの」


「……あ、ホントだ」


 周りをしっかりと見てみると、みんな体育着だった。

 たまに着替えていない人も見かけるが、来るのが遅かったり、タイミングが悪く着替え終わってないだけだろう。璃々もその一人だ。

 眠くて気づかなかったとは盲点だった。


「あんた…………やっぱり知らなかったのね」


「ああ、忘れてた……ていうか、初耳だ」


「昨日の朝から先生がずっと同じこと言ってたはずよ。もしかして……聞いてなかったの?」


「寝てたから知らん」


「ふん、これだからあんたはダメなのよ…………」


 あきれたように言う。

 寝ていたのだから仕方がないだろう。

 ていうか体力測定なんて正直どうでもいい。

 俺は別に一番とかを狙っているわけじゃないし、適当にやっておけばいいだろう。

 

「はぁ…………まあ、そんなことどうでもいいわ。それよりも部活のことよ」


「部活……?」


「昨日は焦っていて言い忘れてたけど、あんた…………私のこと他に言いまわってないでしょうね」


「言いまわるってなにをだよ」


「私があんたと同じ部活に入っているってことよ」


「ああ、そんなことか」


「そんなことで片付けないでよ。あんたみたいな周りにどう思われようとどうでもいい的な人じゃないから言われでもしたら困るのよ。で、それでどうなの!」


 真剣な目つきで見てくる。

 俺は圧にもまれながら言う。


「……特にいう必要もないから誰にも言ってない」


「そ、そう…………」


 ほっと胸をなでおろしたような感じを出す。

 そこまでのことらしい。

 どうやら俺は本当に腫れ物のようだ。


「一応忠告しておくわね。部活のことをあまり他に人に言いふらすのは禁止。絶対よ」


「それ、もし守らなかったどうなるんだ?」


「そうね、明日からあんたの席や靴。それに体育着とかは無くなると思った方がいいわね」


「地味だな……」


「ある程度時間が経ったら家も消えると思うけど気をつけなさい」


「それはダメだろ!?」


「ふん、とりあえず私の言う事は守ってよね」

 

 璃々は立ち上がり、私は行くからといって友達とどこかに行ってしまった。

 多分だが、着替えに行ったのだろう。


「はぁ…………初めから体力測定。それに部活のこともあるし…………面倒くさい一日になって来たな」


 俺はそうつぶやいて、体育着を持ち、着替えに行く。

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