第6話 部活
「案……ですか?」
加藤先生がそんなことをいうとは思わず、少し驚く。
手助けしてくれるらしい。
「そうだ。決まらないのなら仕方ないだろう。私がなんとかしよう!」
「なんとかするってどうする気なんですか」
「まあ、安心して私に任せて起きたまえ。なんとかしてみせよう」
優しくバンバンと肩を叩かれた。
「……自信満々に言いますね」
「当たり前だ。生徒の悩みを解決できない先生など、いる価値もないからな。生徒のために先生がいる。先生とはつまり、生徒の補助係のようなものなのだからな」
「おお~。やっぱり先生は頼りになりますね。流石です! カッコいいです!」
「お、おう。そうか……」
自分で言ったくせに璃々が少し褒めると恥ずかしそうにする。
なんか可愛いと思ってしまった。
これがみんなから好かれる理由の一つだろう。
たしかにこれなら、順先生と呼びたくなるのもわかる。
「ごほん……それで、どうするかについてだが。君たちには…………」
期待が高まる。
なにをしてくれるんだろうか。そんなことを思っていた。
しかし、その期待は一瞬にして崩れ去った。
「――私がこれから作る部活に入ってもらおう」
「は!?」
「え!?」
2人そろえて言った。
「ど、どういう意味ですか、先生! 私たちが2人が部活に入るってことですか!?」
「天寺、君の言う通りだ。君たち2人には部活に入ってもらう。もちろん強制的にだ」
「いきなり部活なんて言われても…………正直入りたくないんですけど」
「私もあんまりそういう時間はないんですよね。帰ってゲーム……じゃなかった勉強しなくちゃいけないですし」
当然のごとく、俺は反対する。
璃々も何故かは知らないが俺と同じ意見らしい。
この場合じゃ好都合だ。
俺にとって一人の時間ほど貴重なものはない。
部活なんてたまったもんじゃないのだ。
遊ぶ時間が減ってしまう。
そう、俺は生粋の帰宅部なのだ。
まあ、自慢するものでもないが。
「とりあえず一旦落ち着いてくれたまえ。一応、私にだって考えがあるんだ。意見するのはそのあとにしてくれると嬉しい」
「わかり……ました」
「わかってくれて嬉しいよ」
加藤先生はそういいながら、語り始める。
「君たちに足りないものは何か。それは高校生らしさだ」
「高校生…………らしさ?」
「そうだ。君たちはまだ高校生という自覚が足りていない。つまり…………青春を経験していないんだ!」
「ええ、まあそうかもしれないですけど……それがどうして部活と結びつくんですか」
「いい質問だな。……部活と結びつくのか。……まあ、正直に言おう。部活でなくてはいけないわけではない。ただ単に部活が今現在最も楽に体験できるかもしれないものだからだ」
「その体験ってのはなんなんです?」
「簡単にいえば、高校生らしく過ごすということだ。作文をかけていないのがそれをしていない証拠だろ」
「でも、作文だけで判断できないでしょ」
「もちろん作文自体がそこまで効果があるものではないのは知っているよ。だが、ここまで時間をかけてしまうのは流石に見過ごしておけない。だから、私は部活を作ることにしたんだ」
「なるほど…………たしかにそれなら納得ですけど……それっていつ考えたんです?」
「ほんのついさっきだ」
「思いつきなんですか!?」
「そうだ。いい考えだろう?」
「は、はぁ……」
あの璃々でさえ、困惑している。
無理やり押し切られそうになっていた。
「まあ、部活と言っても単なるボランティア活動のようなものだ。そこまで重要なことではない。少しばかり私や他の人の手伝いをしてもらうだけだしな」
「それっていいように加藤先生につかわれているだけなんじゃ……」
「まあ、それも含まれないと言ったら嘘になるかもしれないな」
「入るのかよ」
「まあ、とりあえずだ。君たちの作文が完成するまでは部活にいてもらう。これは強制だ。君たちは多分気も合いそうだし、大丈夫だろう。活動する時は私が直接言いに行くから安心して取り組んでくれ」
「きょ、強制なんですか!?」
「天寺、そんなに嫌なのか……?」
「嫌っていうかなんていうか……まあ、いいです」
「? 入ってくれるということでいいのだな」
俺のことを鋭い目で睨みつけて来る。
加藤先生からはちょうど角度的に見えないらしく、強気の態度だった。
どうやら、先生の前なので俺のことが嫌だとかあまり言えないらしい。
「作文が出来てしまったらもう退部してもらっても構わない。まあ、できるだけ残って欲しいんだがな」
「なんてホワイト部活なんだ……」
意外と好条件だった。
特に活動する日は決まっていないようだし、たまにするだけなのだろう。
手伝いといっていたし、そこまで苦にはならなさそうだ。
作文なんて最悪適当に書けば、多分俺にだって完成させられる。
やめようと思えば、やめれるのだ。
「わかりました。俺も強制なら……やりますよ」
「おお、頼もしい。これでいい部活が作れそうだな。私が顧問ということで部活を立ち上げておこう。では、また明日連絡する。今日は帰ってもらっても構わない。それではな」
それだけを言い残して加藤先生は教室を出ていった。
璃々はため息をついて、机に顔を伏せた。
「はぁ…………ほんと最悪。なによ部活って……」
「態度変わりすぎだろ」
あの優しい璃々はもういなかった。
冷酷になっていた。
なぜ俺と2人になるとこうなるのかわからない。
「ていうか、なんであんたはもっと否定しないのよ。せっかく部活は入らないでおいたのに…………」
「別にいいだろ。多分あれほとんど活動しなそうだし、あんまり問題にならないと思う」
「そういうことじゃないのよ。もう……面倒くさいわね。はぁ…………明日からなんていえばいいのよ。恥ずかしくて言えないわよ」
「そういう意味でのことか……」
「それにあんたが部活仲間ってのも最悪ね。友達になんて言ったら誰それ? とか言われそうだし」
「…………地味に傷つくな、それ」
「まあ、いうはずないけど。……もう帰るわね」
「え、もう帰るのか。作文はどうするんだよ」
「まだいいでしょ。どうせ部活させられるんだし、今日のところは帰る」
最悪と言っているが、そこまで機嫌は悪く見えなかった。
むしろいつもより良さそうに思えた。
「じゃあね」
璃々はそういうと荷物をまとめて帰って行った。
残った俺もやる気が起きず、そのまま帰ることにする。
そして、歩きながら。
「今日から俺も部活に入ったのか…………」
少しだけ嫌なことを思いだす。
部活。あまり好きではない言葉。
「大丈夫……だよな」
この先が少しだけ心配になったのだった。
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