第5話 お手伝い
「手伝いってなんだよ…………」
俺は少しあきれた様子で聞いた。
璃々はふんと強い態度で言ってくる。
「そのままじゃない。私の作文を手助けしろってこと。あんたも自分の作文で活かせるかもしれないし、どっちもwinwinじゃない」
「それ、俺のwinが少なくないか!?」
「少なくてもいいじゃない。どうせ一人でもやってもろくなこと浮かばないでしょ」
「たしかにそうなんだけど…………言い方ってもんがあるだろ。しかも俺っていま頼まれてる側だよ!?」
「でも事実でしょ。あんたもここにいるってことがそれを証明しているじゃない」
悲しいが、璃々が言っていることは事実だ。
何時間も考えてみたものの全く書けなかった。
俺にこれは不向きすぎる。
「だからこそ2人で案を出し合うってこと。そうすればできるかもしれないじゃない」
「それも……そうか」
俺たちは考え方がほぼほぼ違うといっても過言じゃない。
そんな奴の意見を聞けば、作文のネタが閃くかもしれない。
「てことで、あんた……なんか案出しなさい」
「え、おい。結局は人任せかよ」
「私はまだなにも思い浮かばないの。なんでもいいから、あんたが出し見なさいよ。適当でもいいから」
「俺も浮かんでないんだが…………まあ、いっか」
適当と言っているし、本当に適当に言ってみるか。
加藤先生もこんなものは適当でいいと言っていたからな。
「……じゃあ、勉強についてなんてどうだ。璃々は勉強が得意だし、書きやすそうだろ」
「勉強か…………」
だが、璃々の答えは。
「それは無理ね」
即座に否定だった。
全く考えていなさそうに否定した。
「は? どうしてだよ」
「だって勉強のことなんて普通すぎるでしょ。ていうか私なら確実に良くなるから書くにしてはあんまり薄いのよね。私はもっと完璧なのが書きたいのよ!」
「…………」
こいつと俺とでわからないのベクトルが違う。
璃々はとりあえず完璧な作文が作りたいのだろう。
誰が見ても圧巻でずば抜けている作文。それが作れなくて困っているのだ。
対して俺はいい案は多少思い浮かぶけれど、そのあとがダメ。
未来的なことが書くのが苦手なのだ。
勉強にしてもそう。
俺は苦手だから勉強しても意味はないと思ってしまう。
まあ、それを嘘にして書けというのが加藤先生がいっていたことだろう。
最悪思い浮かばなかったらそう書けばいい。
でも、俺はあまり嘘は好きじゃない。
できれば嫌だ。
そんなことを考えていると、璃々が言う。
「とりあえず勉強はダメだから、はい次。新しい案出して」
「え、また俺なのか!?」
「それ以外ないでしょ」
当然でしょと言わんばかりの言い方だった。
腕を組み、偉そうな態度を見せる。
「……今度は璃々が出してみたらどうだ? 俺にばっかり任せてないで」
「嫌。早く新しいの出しなさい」
「……ほんと、人使いが荒いなあ……」
どうしても嫌らしい。
このまま話していても、らちがあかないので俺が出すことにする。
「う~ん、勉強がダメなら行事とかに取り組みたいっていうならどうだ? 例えば文化祭とか。この学校にもあるだろ」
「ああ、行事か……」
少しだけ納得した様子を見せる。
もしかしたらいいのかもしれない。
「でもダメね。なんか心浮かせる子供っぽいし、変ね。実行委員長とかに申しこむとかならいいんでしょうけど、あんな面倒くさそうなの嫌だし。その案は全然ダメね。まるでなってない。やり直し」
「おい、理由が自分勝手だし俺の扱いが酷すぎないか!?」
「私のことなんだしいいでしょ。あんたがもっといい案を出せばいい話だし。あっと驚かせるような奴だしてよ、出して見なさいよ!」
「なんだよあっと驚くような奴って。ていうかなんで俺が全部やる前提なんだよ」
そんな時だった。
ガシャンとドアが開く音がする。
加藤先生だった。
それを見た瞬間、璃々は俺のことを吹き飛ばし、身だしなみを整えた。
そして、表情もさっきのように硬くなく、柔らかく笑っているようだった。
まるで優等生。
完璧美少女の出来上がりである。
「失礼する。君たち、そろそろ作文はできたか?」
「まだ出来てないんですよね。…………私こういうの苦手みたいで……すみません」
いつも通りの優しい子だった。
にこやかで明るい。
先生の前でもこの感じらしい。
「そうか、天寺は出来てないのか。仕方ない。じゃあ、桐島の方はどうだ?」
「俺もまだっていうか……白紙のままです」
「そ、そうか…………」
少しがっかりしたような様子を見せる。
先生には申し訳ない。
「全く君たちは…………適当でもいいと言ったはずなのに。これは中学生でも出来ることだぞ。まあ、天寺の方に関していえばこだわりすぎているのは感じているからわかるよ」
俺の方をちらりと向く。
どうやら俺は何故終わっていないのかわからないらしい。
面目ない。
「そんなことないですよ。私にこだわりなんてないです。ただかけなかっただけですよ。……でも、今日中には必ず終わらせます!」
「それは頼もしいことだな」
当たり前のように嘘をついていく。
さっきとは全く言っていることが違う。
「そうなんですけど……私、どんなことを書けばいいのかわからないんですよね。どうしたらいいと思います?」
璃々が聞く。
少し間があいて加藤先生が閃いた様子で言った。
「それなら2人とも隣の席なのだし、協力でもし合ってみたらどうだ? これなら少しは楽になるだろう」
「それならもうすでにィ!」
すでにやっていると言おうとした瞬間、足に激痛が走る。
足を踏まれていた。
璃々は笑顔のまま先生の方を向きながら俺の足を思い切り踏んでいた。
しかも相当痛い。
俺はどうにか我慢する。
「どうした、桐島」
「いえ…………なんでもないです。問題ありません」
そういうと足が遠のいた。
足がビリビリする。
「そうか。まあ私は問題があるかないかは聞いてはいないがな。それでどうだ、私の案は。意外と的を得ているだろう」
「そうですね。でも、多分私と彼じゃ方向性が違うと思うんですよね。彼のためにもなりませんし、やめたほうがいいと思います」
「無理か……そうか」
残念そうに言う。
どうやらこの案は自信があったらしい。
そして、ため息をついてから先生が言った。
「……そういうことなら仕方ない。私が1つだけ案でも出そう」
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