第4話 放課後に
「今日、君がどうしてここに呼ばれたのかは…………わかるな?」
「……いえ、全くわかりません」
4月25日。ようやか5月に近づいてきたころ。
授業が終わり、ほとんどの人が部活に行ったり、帰ったりしている中。
俺は一人窮地に立たされていた。
「はぁ…………わからないか。そうか」
目の前にいるのは俺のクラスの担任教師、
見た目は美女でスタイルもいい。
一部の陽キャたちからは順先生と言われて慕われている。
そんな先生に現在進行形で俺は怒られている。
あきれた様子で俺を見つめていた。
「じゃあ、これはなんだと思う……?」
そういいながら一枚の紙を出してくる。
白紙の紙。そこには俺の名前があった。
「それは……作文? ですかね」
「そうだ。今日提出だったはずの作文だ。高校1年生になってこれからどうしていくか……まあ、未来のことを考えてもらうために書いてもらったんだが……君の作文がなぜか白紙で提出されているんだ」
「まあ、書いてませんからね。考えてはいたんですが、全く書くことが思い浮かばなくてそのまま提出しました」
「それでも白紙で出す馬鹿がどこに居る。今すぐに書き直してこい」
「…………はい」
バンと鈍い音がする。
頭をはたかれたのだ。
少しだけ痛い。
「全く君たちは…………真面目にやってきてくれ」
「?」
複数形だったのが少しだけ気になったが、まあそこまで気にする必要はないだろう。
俺はわからないことがあるので質問をしてみる。
「例えばですけど、どんなのを書けばいいんですかね」
「うーん、そうだな。適当に嘘でも書いていいから先生を安心させてくれ」
「嘘はいいんですね…………」
「嘘は時に人を喜ばせるものだ。何事も使い方なのだよ。まあ、これに関してはそこまで深く考えなくてもいい。思うままに書けばいい。とりあえずなにか書いてくれ」
「……はい、わかりました」
「じゃあ書き終わったら持ってきてくれ。私はここで待っているから」
「え? 居残りですか!?」
「当たり前だろう。今日中に提出のものだ。今すぐにやってきなさい」
「うぅ……は、はい……」
白紙の紙を渡される。
名前だけ書いておいたあの紙だ。
俺は失礼しましたといって、そのまま職員室を出た。
「…………なにも思いつかないんだけどな」
俺が書けなかったのはそのせいだ。
未来なんて知らないし、わからない。
なりたいものとかこれからどの大学に入りたいとかはないためそういうのも書けない。
だから、白紙で出したのだ。
「将来なんて……考えたくないな」
これからについて考えるのは少し怖かった。
学校を卒業していてしまったら俺は大学生か、立派な社会人にならなくてはならない。
子供の頃とは違う。責任を強く持たなくてはならないし、なにより一番怖いのは人間関係だ。
俺の性格は酷い。
社会はとても残酷だ。正平のようないい奴もほとんどいない。
だから、きっと就職したところで仲間も友達も出来ないだろう。
そんな社会に入るのが俺は怖いのだ。
「まあ……考えすぎ、か」
俺は脳内を一度リセットした。考えすぎて頭がパンクしそうだったからだ。
考えることをやめて、頭を空っぽにする。
そして、再起動。復活させる。
ため息を吐いて、俺は再び考え始める。
「……まずは書いてみるか。嘘もいいって言っていたしな。嘘も方便ってやつか」
そんなことを考えながら俺は教室に戻った。
「まあ、誰もいないよな……」
もうこの時間帯には部活動は始まっているし、帰る奴は帰ってる。
俺のような半端者はほとんどいるはずがない。
そう思いつつ、自分の席に行こうとすると、
「なに勘違いしてるのよ。……私もいるわ」
「え、璃々!?」
俺の席の隣には見知った女の子の姿があった。
璃々だった。
「最悪よ。まさかあんたなんかと一緒なんてね……」
「一緒ってもしかして……」
「そうよ、作文私も書いてないのよ!」
俺はそこで加藤先生が言っていたことを思い出す。
『君たち』と複数形にしていたのは璃々もいたからということらしい。
「璃々が書いてないなんて驚きだな。あんなに頭がいいはずなのに」
「どういう意味よ。頭がいいとか作文に関係ないでしょ」
「……それもそうか」
俺は自分の席に座る。
璃々は白紙の紙を広げていた。
「待て……白紙ってお前もなのか!?」
「そうよ。悪い? どうせあんたもなんでしょ」
「それはそうなんだが。なんでそう強気の態度なんだ。ていうか全くもって悪いだろ。書き終わってないんだから。…………まさか璃々も白紙だったなんて……加藤先生も大変なんだなあ」
「なに感慨に浸ってるのよ。私は提出期限を忘れてて書くのを忘れただけ。あとは適当に書けば終わるわ」
自信満々に言う。
璃々のことだ。
作文なんて少し考えれば書けるのだろう。
俺は参考にしたいと思い、聞いてみる。
「へぇ…‥どんな内容で書くつもりなんだ?」
「え、内容!? …………そ、そうね、とりあえず部活動のことでも書こうかな…………」
「あれ……璃々ってたしか部活、入ってなかったよな。なにについて書くんだよ」
「えっと…………それは……」
璃々は口ごもった。
もごもごとしていて、焦っているようにうかがえる。
俺はそれを見て、はっと気が付いた。
「さてはお前も…………単に書くことが思い当たらないんじゃないのか」
「そ、そんなわけないでしょ!? あんたみたいのと一緒にしないでよ!」
「その慌てよう。本当なのか…………」
まさか璃々にそんな弱点があるとは思わなかった。
今まで璃々とは色々あったが、こんな片鱗見せたことはなかったのに。
「しょうがないでしょ! 思い浮かばないものは浮かばないの!」
「おい、急に逆ギレし始めたぞ」
「とにかく……普通の小論文みたいなのはいくらでもかけるけど、こういう作文はどうしても苦手なの!」
「じゃあ、どうするんだよ…………」
「…………仕方ないわね。あんたに私の手伝いをさせてあげる」
「…………は!?」
璃々は凛とした態度でそういったのだった。
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