第2話 昼食で

 チャイムの音が鳴った。

 体が覚醒する。まだ体は起こさず、うねり声をあげる。

 先生が授業を終わらせる合図をしたのと同時に、


「ふわぁ…………眠…………」


 俺はそのまま机から起き上がった。

 くらくらするほど頭が痛い。


「うわ…………もうこんな時間かよ!? さっきまで2限目だったはず…………マジか」


 時計をみると、ちょうど12時半。

 どうやら2時間ほど寝続けていたらしい。


「流石に寝すぎ…………だよな。頭も痛いし、最悪だ」


 寝心地の悪い環境で寝ていたため、体中が悲鳴を上げている。しびれている。

 

「…………寝すぎよ」


 いやみったらしい声が隣から聞こえて来る。

 ゆっくりと横を向くと、不機嫌そうな璃々の姿があった。


「ほんとあんたって最低。私の話、なんにも聞いてないし。せっかくあんたが勉強苦手そうだったから寝ない方がいいって教えてあげたのに……」


「…………それは悪い。でも、眠くてな」


「寝不足ってことは……また変なゲームでもしてたってことね。もういいわ。もう昼食の時間だから、私は行くわよ。友達を待たせてるし」


 璃々は俺から視線をずらし、教室のドアの方へ向ける。

 俺もそちらを向くと4,5人の女の子が立っていた。

 たしか全員同じクラスの女子だ。多分、これは璃々のいう友達なのだろう。

 どれも、俺とは違い輝いて見える。陽キャだ。

 

「なにうらやましそうに私の友達を見てんのよ。あんたなんかとは絶対に食べないから。安心しなさい。話してるなんかしれたら嫌だし、もう行く」


 そういいつつ、璃々は俺の元から去って行った。

 友達のところへ近づいていく。

 もちろん笑顔で。

 俺には見せなかった満面の笑みで。

 

「俺も…………飯食いにいくか」


 机から立って、弁当を持つ。

 自分で作った弁当だ。

 俺は両親が離婚した後、父さんに引き取られた。

 だから、弁当は自分自身でつくらないといけないのだ。


 すると、前にいた正平がこっちを向いた。

 少し眠そうに話しかけてくる。

 こいつも寝ていたらしい。


「……おお、正義も飯に行くのか。なら俺も一緒に行くぜ!」


「いや、お前は俺とじゃなくて他の奴らと食うんだろ。……なに寝ぼけてんだ」


「じゃあ正義も一緒に食べればいいだろ。多分あいつらなら大丈夫だっていうぜ!」


「お前な…………」


「ダメか? 前から思ってたんだよ。お前とも一緒に食べないかってさ」

 

 初めて誘われたにしてはグイグイ来る。

 流石に陽キャがすぎる。

 俺とは住む世界がやはり違う。


「でもいいだろ。一緒に行こうぜ」


「…………」


 俺がいったところで多分こいつもこいつの仲間も変に思ったりはしないだろう。

 陽キャはいい奴ばかりだ。それは正平の態度をみればわかる。


 だけど、それは俺に気をつかってくれるからだ。

 俺が困らないように、こうやって誘ったりしてくれるからだ。

 なら、行ってはいけない気がする。

 迷惑はかけたくない。


「なんだよ。で、行くのか行かないのか。どっちだ」

 

「……行かない。気まずくなるしな」


「ふう~ん、そうか。今日はダメか。……でも、いつか一緒に食べような!」


「食べるならせめて2人だけにしてくれ…………」


「おう。じゃあまたな!」


 そう言い残し、急いで正平は教室を出て行った。

 待たせているのだろう。


「行くか……」


 俺も教室の外に出る。

 周りには誰もいない。

 みんな食堂か、教室のなかで多くの人とご飯を食べているのだ。


「なんか虚しいな…………」

 

 正平の誘いを断った手前、あまりそんな事を思いたくないのだが、無意識に口に出てしまった。

 俺はそのまま外に出る。


「さて今日はどこにするか…………あのベンチにでもするか」


 適当に場所を決めて、ご飯を食べ始める。

 いつものことだ。

 このまま食べ終わったら弁当を片付けて、教室に戻る。

 今日もそうなるだろうと思っていた。

 でも、


「はぁ…………あんたってさ、本当に悲しい奴よね」


「……!?」


 聞き覚えのある声…………っていうかさっきまで聞いていた声。

 

「…………璃々か」


「璃々か、じゃないわよ。なにやってんのあんた。こんなところで」


「……璃々こそなにしてんだよ。友達とご飯を食べに行ったんじゃないのかよ」


「しょうがないじゃない。あの子たち、急に今日はダイエットするから昼食を抜きにするって言いだして、解散しだしたんだもん。暇になってこっちに来てみれば、あんたがいたってわけ」


「……そんなことあるのか」


「女子のなかじゃ普通ね」


 ダイエットのためにご飯を抜くことはあるのは知っていたが、高校生がやるなんて。

 美意識が高すぎる。

 俺は絶対に出来ない。1食抜くだけでも正直キツイし。


「それであんたの質問には答えてあげたわよ」


「……え?」


「だから、私の質問にも答えてよってこと。どうしてあんたはここにいたのよ」


「ああ、そのことか。俺は普通に飯を食べているだけだ。それ以上でもそれ以下でもない」


「ご飯……?」


 状況がわかっていないようだった。

 俺は手に乗っているものを彼女に見せた。


「ほら、弁当」


「え…………」


 すると、こいつマジかといわんばかりの目で俺を見てくる。

 混乱しているようだ。

 

「あんたって……ほんとにありえないんだけど。なんでこんなところでご飯なんか食べてるのよ!?」


「こっちなら誰にも迷惑をかけないだろ。それに食堂とかで1人で食べているとなんだか周りの目が嫌でな。こっちの方が風が気持ちいいし、楽なんだよ」


「信じらんない。恥ずかしいとか色々抜きにしても…………信じらんない!」


「なんだよ、そんなに驚くようなことじゃないだろ」


「驚くことでしょ。初めて見たわよ、外でご飯を食べてるようなやつ!」


「初めてもなにも俺たちは幼馴染だろ。昔から俺はこんな感じだっただろうが。知ってるだろ」


「いや、そんなことないから。中学のころまではちゃんと友達とご飯を食べてたじゃない。中1の頃なんて学校で一番カッコイイって言われてた修哉君と食べてたじゃん」


「修哉……誰だそいつ。そんな奴いたか?」


「あんた、もしかして忘れたの…………最低」


 中1のころの思い出なんてもう記憶にない。

 それに修哉だの翔太だの正平だの、そういう名前の奴はたくさんいる。

 そんなことを鮮明に思い出せるはずもない。


「ていうか、なんでお前が俺以上に俺を知ってるんだよ…………修哉なんて名前も覚えているなんて、どんだけ記憶力がいいんだよ」


「……! べ、別に。たまたま見てただけよ。頭がいいから記憶もいいだけ」


「まあ、いいや。とりあえず俺は飯を食う。腹が減ってるしな。……璃々も一緒に食うか?」


 一応璃々も誘っておく。

 1人寂しかったしな。久々に他の人と食べる飯も悪くはない。

 まあ、相手が璃々ってのが少しだけ残念だが。


「…………!? 私を誘ってるの?」


「それ以外あるのか?」


「あんたが一緒に食べたいっていうなら……しょうがないわね。いいわよ。許してあげる。まだ食べてないし」


「俺はそこまで思ってないんだけど……」


「私が許したんだからそれでいいでしょ。はぁ…………もう少し私の気持ちをくんだらどうなのよ」


「お前がそれを言うのか!?」


「まあいいや。もう少しそこをどいてよ。私も入れて」


 そういって璃々は俺の隣に座った。

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