第3話 物真似少女はシャトルランをする

無事に模擬戦が終了、すぐに体力測定が開始しようとしていた。


「最後に模擬戦した人がちょっと可哀想じゃない?」


休憩時間、少しだけだったしその程度の休憩で体力は回復しないだろう。どんまい。

まあ、受験で1番重要なのはさっきの模擬戦だろうからこの体力測定はおまけみたいなものなのかもしれないけど。

戦闘向けじゃない異能だとただ走るだけの体力測定は辛いだろうし。


「それでは開始します」


シャトルラン特有の例の音楽が鳴り始める。


かくいう私は小学3年生ぶりのシャトルランなんだけど……何年前?


あの時は何回だったっけ?忘れた。


『51……』


50回を超えた辺りから息を切らしている人が増え始めた。主には女の方だね。


私はまだ余裕があるけど疲れてきたらあれ使おうかな。

魔力もまだ十分あるから安心だね。


『81……』


ちょくちょくと脱落者が出始めてきた。


なんかオーラみたいなの纏っていたり何かの魔法を唱えていたりと異能を使い始めている人がほとんどだった。

結構疲れてきたし使っちゃおうかな……


私は物真似したある異能を使うと身体がグンと軽くなり余裕を取り戻した。


『121……』


ここまで来るとほとんどの人が脱落していた。


体力の余裕はまだそこそこあるけど魔力が残り少なくなってきた……


先程使った異能は"身体強化"。その名の通り身体全身を強化するんだけどこれまた不完全ない物真似のせいで物凄い魔力を食うんだよ。


ちなみに父さんの異能ね、これ。


『151……』


ほとんどの人どころか私の横で走っている?女の子以外全員が脱落者してしまった。


なぜ疑問形なのかと言うとこの女の子は足に電気みたいなのを纏ってローラースケートで滑るような走り方をしているからだ。


「ぬあっはっは!僕はまだ全然疲れていないのである。1位は貰ったのだー」


とか言っているので全然余裕そうだね。私の方は魔力が尽きるまであと数分って感じ。

魔力が尽きても体力はあるけどシャトルランの間隔が短くて身体強化無しだと端から端まで間に合わなさそう……。


あと魔力が切れると脱力感が強くなるから出来れば魔力を少しでも残しておきたい。だってまだ面接とかあるし。


『161……』


もう無理、限界。あと数十秒で魔力が切れる。


走っているのか滑っているのか分からない隣の女の子は全然余裕そうに見えた。


「余裕なの――あ」


と思ったんだけど急に充電が切れたようにプスッと足に纏っていた電気のようなものが消えてなくなる。


女の子はまともに走っていなかったためにそのまま転んでしまった。

そしてそのまま脱落。


「ふぅ……私も終わろ」


女の子が脱落してから数回ほどこなして私も脱落した。


「そこまで!今から昼休憩です。1時間後に指定された教室へと向かってください」


1時間も昼休憩をくれるみたいだ。よし、学食を食べに行こう。受験者は無料だと聞いているから混む前に行こう。


「ちょっとそこの青メッシュガール!待つのである」


肩をポンと後ろから叩かれて振り向くとさっきまで転んでいた女の子がいた。


「えっと……何?」

「いやなに、普通に挨拶をと思って声をかけたのである。僕の名前は菊池可奈、よろしくなのである」


ミディアムヘアでエメラルドグリーンの髪色を輝かせながら笑顔で手を差し出してくる。

こんな髪色で面接とか大丈夫なのだろうか……まあ、私も派手さは控えめだけど黒髪に青メッシュしてるからお互い様か。


髪型髪色自由だったはずだし大丈夫でしょう。もしかしたらこの子はこの髪色が生まれつきの可能性もあるし。


私の場合は片目隠れる髪型にする必要上、地味になるから行きつけの美容院の人がワンポイント髪色を変えてみないかと言ってきてからずっとこの感じだ。


「白百合綾那……よろしく」


手を差し出されたのでちゃんと握手を交わした。


「模擬戦の時から見ていたのだがもしかして冒険者であるか?」

「い、一応」


異能を持つ人は冒険者登録をすることでダンジョンに入ることが出来る。

ダンジョンの難易度はF〜Sランクまであって冒険者にもF〜Sランクがある。

自分の同じランク以上のダンジョンには行けないため、冒険者組合で昇格試験を受ける必要がある。


今さらだけど許可を貰わずに街中で異能を使うのは禁止されていてバレたら捕まるよ。

異能を使って良いのはギルドの室内とか許可された学校とかだね。


「おお!僕も冒険者なのだ……ええっと、ほら!」


ポケットから冒険者の証である冒険者カードが取り出される。

冒険者カードにはDランクと書いてあった。


「綾那は何ランクであるか?」

「えー……」

「えー?」

「えーっと……私もDランクだよ」

「同じか!」


冒険者ランクが同じなのが嬉しかったのか私の手を握ってブンブンと振る。


ごめん、父さんがあんまり冒険者ランクの事を言いふらすなと言われたから嘘ついた……本当はAランクだ。


ぐー……


「あ……」


私のお腹から大きな音が鳴る。


「ぷっ、綾那は面白いのである!とりあえず一緒に食堂に行くか?」

「そんなに笑わなくても……お腹空いてるから行くけど」


空腹にならない異能……ないかなぁ。

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