12|政治家妻へ聞き込み
【昼埜遊人】
「奥さんが犯人だな」
【雨夜想】
「……。一応聞くけど根拠は?」
昼埜の物言いに、雨夜はジト目をして呆れたように受け応える。知ってか知らずか、昼埜は片手を上に向け話を続けた。
【昼埜遊人】
「だってさ、殺人の半分以上は親族間だろ。そのうちの二割は夫婦のトラブルだ。奥さんが犯人、そう考えるのが普通だろ」
この発言に雨夜は嗜めるように反論する。
【雨夜想】
「見込み捜査はするなって、暁くんが言ってたでしょ。それに普通の殺人だったら私たちが出張る理由がないじゃない。超能力の痕跡があるから捜査してるのよ」
見込み捜査とは、あらかじめ犯人像を決めて捜査を行うことだ。
事件は初動捜査が重要なため、思い込みだけで先行すると、取り逃がしや誤認逮捕に繋がりやすい。
【昼埜遊人】
「そりゃそうか。奥さんが超能力者だってわかるまでこの推理は保留だな」
【雨夜想】
「まったく。殺人事件扱いたいなら、捜査第一課に転属願い出したら。絶対に採用されないけど」
【昼埜遊人】
「捜査第一課って『俺らは警視庁の花形だ』って態度のとこじゃん。大変そうだしエリート主義は俺には合わねーよ」
威張りながら捜査第一課員の真似をする昼埜。その様子に雨夜は呆れながらも苦笑する。
【雨夜想】
「だから採用されないって。ま、今回みたいに殺人と超能力が絡むと管轄権が両方にあるから揉めるし、私も好きじゃないのは一緒」
軽口をたたきながら歩いていると前方から二人を睨め付ける男が近づいてきた。
その姿を確認して、二人は複雑な表情をつくる。バツの悪いタイミングで出会ったと昼埜と雨夜は表情を濁した。
【荒野京介】
「ふん、SJPDの奴らか。超能力だの、わけわからんことを生業にしてるらしくお喋りでサボり。職務怠慢がお似合いだな」
二人が話していた”花形のソウイチ”、警視庁刑事部捜査第一課所属の刑事、荒野京介(こうのきょうすけ)だった。神経質そうな切長の顔でスーツを着込んでいる。
【昼埜遊人】
「被疑者へ聞き込みに向かうまでのちょっとした雑談だろ。黙ってたら職務に忠実なわけじゃねーだろが」
【荒野京介】
「雑談ではなく、はしゃいでいたのだろ。これだから現場を子供にうろちょろされるのは嫌なんだがな」
【雨夜想】
「相変わらずのご様子で。ただ、この会話自体もお喋りではないでしょうか。職務に戻られてはどうでしょう」
【荒野京介】
「屁理屈を。あの暁とかいう寝ぼけた小僧に言っておけ。捜査第一課の邪魔はするなとな」
そう言って二人とすれ違い歩いて去っていった。
【雨夜想】
「……やっぱり揉めるわね」
はぁとため息をつき、昼埜と雨夜はお互い肩をすくめ合う。
管轄権が両方にあって揉める、特に学生が捜査に関わることに不満を持つ者も当然いるため、ピリピリとした現場で口論のようなものは割と多い。
体育会系である警察で何度も経験し、二人にはもう慣れたものだった。
気を取り直してリビングへ向かう。
そこには夫を殺害され、ソファに座って額に手をやり意気消沈している大原久里子の姿があった。
【雨夜想】
「大原清二郎氏の奥様ですね。お悔やみ申し上げます。警視庁SJPDの雨夜と昼埜です。少しお話を聞かせていただけますか」
【大原久里子】
「あ……ええ」
話しかけられ、我に帰ったように顔をあげた後、雨夜と昼埜を見てから不服そうな表情を浮かべる。
【大原久里子】
「刑事さんと聞いてたのに学生さんかしら。幼稚そうだし変な嫌疑かけないでちょうだいね」
【雨夜想】
(やっぱり奥さんが犯人かも💢)
久里子には聞こえないように、昼埜の耳元で不満を囁いた。
【昼埜遊人】
(さっきと言ってること違うじゃねーか)
【雨夜想】
「……。ご安心ください。関係者は等しく被疑者として調べますし、被害者に近しい方は事実に基づいて調査いたします」
【大原久里子】
「そう。私が無実だって証明してね。っていうか私、元芸能人だから困るのよ。見たかしら、この速報だけが売りのゴミ同然な捏造ゴシップニュース。すでに私が犯人扱い!」
バシバシ、とスマホの画面を叩く。よほど怒ってるようだ。
【雨夜想】
「不倫、不仲で大原久里子が殺人か!? 政治家夫婦のやばすぎる実態! ……最悪なタイトル。ネットによくある、低俗な記事ですね」
雨夜は苦々しく顔をしかめた。この手のゴシップ記事は作る側も読む側も、不快で苦手のようだ。
【昼埜遊人】
「実際夫婦仲はどうなんだ。芸能人は離婚が多いイメージだけど」
【大原久里子】
「不倫してたかって!? 冗談! 政治家を夫に持ってたのよ、そこらの不倫するバカで猿みたいな芸能人と一緒にしないで。自分の将来がかかってるんだからするわけないでしょ」
与党大幹部の二世で若手のホープ。いずれは内閣総理大臣のファーストレディにということだろう。
【雨夜想】
「……打算的ですね」
【大原久里子】
「自分の未来のために良き妻を演じることが悪いわけじゃないでしょ。誰しも家族・親族のため、自分の未来のために仮面をかぶって調和を図るから世界が回ってるのよ」
その言いように雨夜は少し感心したようだが、昼埜は逆に、つまんねぇ考えという風に苦味潰している。
【大原久里子】
「それに、もちろん夫も愛してたわよ。円満だった! けど、こんなことになって全て失うどころか、犯人扱いじゃない! 夫を失うのは悲しいことだけど、悲しむより先に、今は自身の潔白を必死に証明する段階よ……」
【雨夜想】
「そのために私たちが捜査しています。事件のあった深夜、何をしていましたか」
【大原久里子】
「すでにベッドに入って寝ていたわ。ええ、わかるわよ。家の中で殺人があったのに気づかなかったのかってことでしょ。前日はパーティーでお酒も入っていたし、帰宅後もここで日金製鋼の社長と対面して、疲れてすぐ寝てしまったから気づかなかったの。本当よ」
【昼埜遊人】
「日金製鋼? 帰宅後ってことは事件が起こる前にその社長もいたってことか」
【大原久里子】
「警察なのに知らなかったの? 夫と久水さんは仲の良い友人よ」
「というか、夫と最後にいたのは私じゃないわ。私は疲れて先に部屋で眠ったんだから、よく考えたら久水さんが怪しいじゃない」
【雨夜想】
「……日金製鋼の久水」
【昼埜遊人】
「社長ねぇ」
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