カランカラン。



 また一人、その怪しげな店に人が迷い込む音がする。




「……僕を、殺してください」



「いらっしゃいませ、お客様。申し訳ありませんが、そのようなご依頼は受け付けておりません。"時間"であればどんなものでもお売りしますが」


「僕は、僕は死ななきゃいけないんです。死んでも償いきれないことをしたんです。なのに、それなのに死が怖いだなんて、僕はとんだ愚か者なんです」


「左様でございますか」


「あ、あの、死にたくなれる時間って売ってませんか」


「……ああ、ちょうど最近入荷したところですね。死にたくなるほど辛い"時間"というものですが、いかがなさいますか?」



 時に人は、自分の目で見たものであれば何でもかんでも信じ込んでしまうことがある。例えそれが、この世のものでない幻想だったとしても。

 たったワンコインで自分の未来が変わるなんて、欠けらも思わずに。



「それ買います。もう僕は、自分が死ねるなら何でもいいです」



 こちらは、時間直売所。時間、お売りします。



「かしこまりました。五百円になります」



 お客様のご来店を、心よりお待ちしております。





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時間直売所 想空 @vivi_0301

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