第20話 蛇

 肌寒い日だった。息が白かった。アジと一緒に朝の県道を歩いていた。まだ通勤時間帯前で車の通りは少ない。


 道路の左の路肩に1メートル位のロープの切れ端が落ちていた。

 太くて長いな、と思ってぼんやり見ていたら、いきなりロープがゴムのように縮まった。


 えっ?と思って驚いた。大きい蛇だった。青大将か。

 何気なく上をまたいでいたアジの方は、もっと仰天していた。その場で思わず50センチメートル位、真横に飛び退いた。犬の横跳びを初めて見た。


 違う日、散歩の途中だった。喉がかわいたアジは枯草を踏んで、用水路の側に降りて行った。

 水を飲んでいるアジの足元を見ていたら、一瞬、地面の枯草の模様がずれて動いたように見えた。

 見間違いかな、目の錯覚かな?と思い、見直すと、模様がほどけ、スルスルと動きだした。

 蛇だった。

 足元の突然の蛇にアジは驚いて、約50センチメートル、後ろに飛びのいた。そのまま蛇は草むらへ消えていった。たぶんシマヘビだろう。


 冬の夕方のある日の散歩、さびれた工場の側を通った時だった。

 道路の向かいにほとんど使われていない工場のグランドがあった。フェンスはあるがいたるところ破れていて、出入り自由な状態だった。

 中にある数本の植木は放置されていて、つる草がたくさん絡みついている。

 薄暗くなってきた。荒れてはいるが、シルエットはまるでクリスマスツリーのようだな、とぼんやりと思った。


 あたりに人がいないのを確認してリードを外す。アジは早速グランドに入り、全力で走り始めた。

 1本の木が気に入ったようで、同じ木の下をグルグルと回り始めた。つる草をかすめながら、夢中で走り回っている。


 走っていると、木からダランと垂れていた、太いつる草1本が、ゆっくりと動き出した。スルスルとUの字型に持ち上がって来る。一瞬、目を疑った。何事だと思ったが、蛇だ、と気付いた。


 頭でかすめていたつる草がいきなり動き出し、一番、アジが驚いた。目の前の出来事で腰を抜かし、尻餅をついてしまった。

 すぐ立ち直って怖くて吠えだしたが、蛇はあっという間に木に隠れて分からなくなった。アジはずっと吠えていた。


 蛇はいつも突然、現れてすぐ消える。迷惑な出会いだ。こっちは驚くが、蛇も焦ってヤバい、と思うのだろうか。いきなりだと本当に驚く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る